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第八話 怒りの焔

「まさかてめぇ等がやったってのか?」


 主にやったのはエムの方なのに、なんで俺の方を主に睨みつけているんだよ。フードで隠れたりしていない分視線が合うからか?

 遠めながらにも穂村の怒りはこちらに熱となって伝わってきて、そしてついに火が付き始める。


「上等じゃねぇか……丁度たった今さっき糞女におちょくられたばかりで苛立っていたところだったんだからなァ!!」

「おーやっば。逃げよっと」

「ちょっと待った! あんただけ勝手に逃げてんじゃ――」

紅蓮拍動ヒートドライブッ!!」


 全身を炎を携えたAランクの関門は、緋山さんとは違った挙動でもって即座にエムの前へとまわり込む。


「逃がすかよッ!!」

「嘘マジ!? すっごい速い!」


 それもそのはずで、瓦礫をとびとびに移動していたエムとは対照的に穂村は文字通り両足を発火バーストさせて急加速し、空を飛んで回り込んだのである。


「じゃあこれでもくらえ!!」


 額に照準が定められた拳銃からレーザーが放たれるが、穂村はそれを真っ向から炎の拳で迎え撃つ。


「ハッ! 火炎拳バーンナックル!!」


 光は炎に呑みこまれ、そして互いに打ち消し合って破裂する。


「うわっと!」

「……ッ!?」


 正直俺に向かって来なかったことにはラッキーと言いたいところだが、このままだと飛び火するのは目に見えている。


「そろーり、そろり――」

「ッ! てめぇも逃がすかよッ! 暴火戦槍バーニングランス!!」


 穂村が両手を合わせて再び広げると、そこには燃えさかる炎の槍が顕現している。そして俺の逃げ道を防ぐかのように炎の槍を目の前の地面へと投げて突き刺し、炸裂させた。


「うわっとぉ!?」


 以前俺がダストに混じって戦った時はここまで火力が無かったはずだが、今俺の目の前には抉れた地面が広がっている。つまりあと一歩でも俺が足を前に出していたとすれば、その足は消し飛んでいただろう事は想像に容易い。


「……ゴクリ」

「…………強くなりすぎている」


 今ボソッと何か言っていた気がするがいまいち聞き取れない。だが予想するに本人の予想以上に力の加減を間違っていたのだろうか。頭に血が上り過ぎているのが原因じゃないかとツッコみたいところだが。


「だがまあいい。今の俺にケンカを売った事を後悔させてやる」


 そうして穂村は再び自身を炎に包みながら、次の攻撃を繰り出すために右手を後ろへと構え始める。


「……噴火ヴォルク――」


 右手の内には光が集約され、赤黒く輝くマグマの様なものがその手に握りしめられる。


「……あー、ちょっとヤバいかもね」


 ちょっとじゃなくてかなりヤバい気しかしないのだが。

 そうこうしている内にチャージが完了したようであるが、俺はとっさに反転を仕込んでおいて敢えて真正面から立ち向かった。

 何故かはわからない。単に好奇心が勝っただけかもしれないが。


「――バスターァ!!」


 右腕が振り抜かれた瞬間、俺の予想をはるかに上回る極大の熱量を携えたマグマの奔流が真正面から向かってきた。


「ッ!」


 しかし俺は事前に仕込んでおいた反転によりマグマの奔流はそのまま跳ね返り、穂村の方へと襲い掛かる。


「なッ!?」

「自分の攻撃を喰らって少しは頭を冷やして――」

「チッ! 炎装脚レッグバーナー!!」


 穂村はとっさに両足に火をともし、縦の回転蹴りを繰り出すと共に炎の鎌をその場に叩きだした。すると炎の鎌に沿って奔流は真っ二つに分かれ、穂村のすぐそばを流れていく。


「――てめぇ、どんな能力だよ……」

「あんたこそ、随分と能力を使いこなしているみたいね」


 エムといいこいつといい随分と自分の能力に精通しているみたいで、俺なんかまだとっさの反転とかあまり思いつかないことがあったりするのに。


「――って、あれ?」


 さっきからだんまりなんだけど……なんか、誰かいなくない?


「……あんにゃろー、逃げやがったなぁ!!」


 エムの奴、後で絶対にぼっこぼこにしてやる!!

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