第七話 遂に邂逅
「それ、それ、それ、それぇ!!」
「ッ、あり得ないでしょ!?」
あり得なかった。通常の自動装填式の銃から放たれるのは弾丸であるべきのはず。あのラウラですら、いくら制圧力の高いショットガンを持っていたとしても放たれるのはあくまで弾丸。金属製の実体を伴った弾が飛んでくる。
だが奴が、エムが飛ばしているのは――
「レーザーはあたしの専売特許じゃないの!?」
「何言ってんの? むしろそっちが後からパクッたんじゃん」
一体どういう仕組みで拳銃から弾丸の代わりにレーザーが放たれているのか気になるところだが、今はまだ相手の手の内を見極めるための行動しなければならない。あくまで今見せつけているのが第一能力だけなのだとして、こちらとしてもそう簡単に手の内を見せることは状況的に良くないと考えられる。
第一に超高速のレーザーを撃ってくるとして、撃たれた後だと対処のしようがない。つまり今のところ相手の銃口の動きを予測して先読みで回避するしかないのだが――
「さっきから銃口チカチカ光らせてるけどどういうつもり? 威嚇?」
「だってお姉さんさっきから銃口見て避けてるっぽいからこうしてまともに見れないようにしようかなって」
わざとレーザーの出力を上げることで拡散し漏れ出た光で目くらましって、どうやら自分の弱点を知っていて更にそれを補えるくらいには修羅場を潜り抜けてきたということか。
「だとしたら次は――」
俺は自分の脚力を反転させて強力にし、地面を思いっ切り踏み抜いた。
「ッ!?」
「どう!? これだとあんたもあたしも互いに見えないからおあいこってことで!」
そしてその間にさっさとこの場から離脱させてもらう――
「こうなったらこうだ!!」
「いっ!?」
――完全に予想外だった。闇雲とはいえまさかレーザーを跳弾させてくるとは考えもしなかった。
「痛ったぁ!」
「そこにいるんだね!」
頬を掠ったぐらいで声を挙げるべきじゃなかった。
相手は殺しのプロ。ならば居場所さえ分かればどんな手を使ってでも殺しに来ることは分かりきっている筈。
「インディグネイトレーザー・サディスティック!!」
両の拳銃から放たれる弾丸が跳弾を重ね、こちらへと向かってくる。
「ちょっ!?」
俺はとっさに近くの瓦礫と自分の場所を入れ替えたが、その瓦礫の表面すらもレーザーは反射してどこかへと飛んでいく。
「あーあ、結構計算して撃ったつもりなんだけどなー」
「即興の計算にしてはかなりすごいんじゃないの!」
いやほんとにあの名稗といいこのエムといい、戦闘重ねたらこんだけヤバい奴になるって事なのか? 瓦礫の破片とか飛び交ってる中を正確に射抜くなんて普通出来ないはずなんだけど!?
「ていうか、そろそろこっちも反撃しないとまずい感じなんじゃないかしら」
さっきから受け身でいるけどこのままだと相手の攻撃を受けっ放しのまま一切反撃も出来ないままな気がしなくもない。
「という訳でこっから反撃させてもらおうかな!」
「やっとお姉さんの力が見られるんだね! 楽しみだなぁ……強い能力だったらヴァ―ナードさんに教えてあげよっと」
教える間も無く倒してあげるけどね!
「でも攻撃をしない訳じゃないから覚悟してよね!」
そういってエムは引き金を連続で引いてレーザーを複数射出したが、俺にとってはその方が都合がいい。
「色々対策を打っているみたいだけど、これはどう!?」
俺はレーザーの進行方向を反転させてエムの方へと全て逆方向に向ける。
「えぇっ!?」
「これ結構やってみせているんだけど意外とビックリするんだよねー!」
当然、自分の攻撃がそのまま自分に向かって飛んでくるなんて誰が想像できただろうか。そんな風に俺はしてやったりと思っていると――
「――なーんちゃって」
エムはそれまで射出していたレーザーとは違うものへと即座に切り替えて薙ぎ払うように射出すると、自分の方へと飛んでくるはずだったレーザーを全て打ち消した。
「……もしかして逆位相のレーザーぶつけた?」
「すっごい! よく分かったね!」
そりゃ高校で理科やってれば少しは分かりますけど……光が波だと知ってないといけない事だから少しマニアックといえばマニアックだけど。
「プラスとマイナスで打ち消し合ってゼロにするってのまでされたら後は……」
「うーん、それにしても面白くないなぁ……そうだ!」
エムは突如として拳銃をホルスターへとしまうと、ポケットから小型スイッチを取り出し始める。
「それでどうしようってワケ?」
「それはね……こうしようってわけ!!」
恐らくエムはフードの奥で満面の笑みでもっていたのであろう。スイッチをぽちっと押した瞬間、俺の足元から複数のレーザーが射出される。
「ふえっ!?」
「インディグネイトレーザー・マゾヒスティック!!」
流石に相手も視覚外からの攻撃は反射されないと思っていたのだろう。しかし俺は無意識に反転を行って何とかレーザーの向きを射出された方と跳ね返した。
「えぇー」
「えぇーじゃないでしょ。本気で殺しにかかってるわねあんた」
ラウラのショットガンもだけど一度念じれば手元を離れても能力は保持される事を相手は利用しているようだ。現に反転したレーザーによって自壊した小型の金属ボールが無残に俺の足元を転がっている。
「うーん……こうなったらエスと一緒じゃないとちょっと手が出せないかも」
「そりゃこっちにとっては都合のいいことで」
少なくとも面倒な現状から脱することを相手側から切りだしてきたことは都合がいい。
「じゃ、さっさとどっかいってくれる?」
「それもつまんないしー……あっ!」
ん? 何か高台に上ってきょろきょろし始めたと思ったら突然として周りに、って――
「――何やってんのあんた!?」
「何って、適当に次の獲物見つけるために邪魔な建物破壊してるんだけど」
俺と戦った時とは明らかに出力が違うレーザーを射出しっぱなしで、しかもそれをどこかのフォースの騎士よろしく振り回しては建物をぶった切っているんですけど!?
「……あんた、それを戦う時につかわないの?」
「使ったら面白くないじゃん」
そういう問題なのか?
「うーん……あっ!」
エムは次の獲物を見つけたのか、まずは挨拶代わりといわんばかりに遠距離からレーザーを一撃浴びせようとした。
俺の目に映っているのはズボンに両手をつっこんだまま横暴にずかずかと歩く少年の姿が――って、あの後姿は見たことあるぞ!?
「ちょっとあんた! あれに手を出すのは――」
「えっ?」
「熱っちぃ!? ……は? 俺が熱く感じるって相当な温度だよな?」
……うん。大体予想できてるし、大体嫌な予感しかしない。
「まさか俺より上の炎熱系能力者がいるってことかよ、面倒くせぇな」
――面倒なのはこっちのセリフだ、穂村正太郎。




