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第六話 セオリー

前半はヨハン=エイブラムスと日向久須美側の三人称視点、後半は榊真琴の一人称視点の文章となります。

「いやぁ、それにしてもまいったねぇ」

「降参するんやったら介錯したるで」

「いやいやそういう意味じゃないって」


 偶然というべきであろうか必然というべきであろうか。同時に召集を受けた二人は、第一区画内でも同じ場所へと降り立っていた。それは市長の何かしらの意図があってのことであろうか、しかし二人にとっては至ってどうでもいいことであった。

 ヨハン=エイブラムス。日向ひゅうが久須美くずみ。両名にとっては同居人である緋山がいない方が動きやすく、行動を起こすにしても遠慮の必要などなかった。


「しかし懐かしいとは思わないか? こうして二人で――」

「阿呆が。全国中継されとるのに余計な口開くなや」

「おっと、悪い悪い」


 そんな二人であるが、この度掛けられた懸賞金は今まで行われてきたギルティサバイバルにおいても文字通り桁違いの金額がかけられている事をまだ知らない。故に軽率な行動をしてしまうのであるが――


「三日間寝ずの番は辛いから交代でやるとして、後は食糧だが……ここってそもそもそういったものがあるのか?」

「あるやろ流石に。参加者が餓死しとるの見たことあるんか?」

「そりゃ“餓死”は無いけどさ……」


 このサバイバルにおいて、衣食住その他全ては現地調達となる。つまり負傷したとなれば医療品は他の者に取られずに廃墟と化しかけている病院に置いてあることを祈りながら取りに向かわなければならず、食料はともすれば古びたスーパーに陣取った他の輩から奪い取らなければならないという点も考えなければならない。

 無論それだけでは足りないからと定期的に空から差し入れ(パッケージ)が届けられることがあるが、それこそ奪い合いの争いは回避できない。


「つまるところ食糧確保が最優先だと?」

「そういうことや」


 既にこの生き残りをかけた戦いの肝を押さえつつある二人は、サバイバル開始から早速動きを見せる。


「……気づいとるか?」

「とっくに」


 そんな二人に、最初の困難が待ち受ける。


「もう雑魚敵襲来かいな」

「面倒だねぇ」


 普段なら第十一区画に収容されている罪人もまた、此度の免罪をかけて生き残ろうとしていた。

 しかし今回ばかりは相手が悪かった。相手は何を隠そう――


 ――『血も涙も無い男(フランケンシュタイン)』と呼ばれた男と、『破壊神』と揶揄される関西弁の女性であるからだ。



          ◆◆◆



反転リバース大気圏突破フライアウェイ

「うおぁああ!?」


 全くもって今のところ張り合いの無いとはこういうことを言うのだろうか。危険度MAXといわんばかりに煽っておきながらこの位なら普段とあまり変わりないといっても過言ではない。

 この俺榊真琴もとい、榊マコはいつも通りに雑魚敵を上に吹っ飛ばし、しばらくしてから死なないように反転して落としてやれば気絶するだけで済む。正直欠伸が出るレベルで退屈極まりない。


「ここで少しでも強い相手でも現れればまだ話は違ってくるんだろうけど……」

「隙だらけだなんだよ!!」


 いや、攻撃の向きを反転させるように仕組んでいるから――


「――あたしを攻撃したつもりでも、自分を攻撃していちゃ訳ないわよねー」

「がっ……!」


 あーらら、魔法弾が綺麗に跳ね返っては爆発炎上――っと、魔法使いまで来たってことは少々面倒なことになってきているみたいだし、この場は一旦離れさせてもらうとしよう。


「この調子だと楽に終わりそう」

「この状況に退屈? だったら僕と戦ってみる?」

「ッ!?」


 背後から放たれたレーザーに、俺は自身に反転をかけていることを忘れて思わずその場を跳びのいてしまった。


「まだまだっ!」


 続いて地面から突如として放たれる光線を何とか回避し、俺は声の主から距離を取って相対する。


「マジ? いくら退屈だからって最初から普通にあたし狙ってくるの?」

「えっ? お姉さんに勝ったらご褒美くれる訳じゃないの?」


 いつ俺がそれを言ったよ。というよりもどうしてこう犬も歩けばなのかな俺の場合は。

 フードの奥の蛍光色――といったら、該当するのは二人だけ。そして幸か不幸か俺の目の前にいるのは一人だけの様子。


「ご褒美? とりあえずさっきの奴らみたいに高い高いならさせてあげるけど」

「やった! お姉さんから他界他界させてもらえるだって!」


 ん? 何か今意思の疎通に齟齬そごがあった気がするが気のせいか?


「よーし、僕頑張っちゃうぞ!」


 そう言って『エクスキューショナーズ』の片割れ――エムは自動装填オートマチックの二挺拳銃を構え始め、フードの奥でにやりと笑った。

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