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第二話 掛け金は命

 この編は榊真琴に限らず、視点が移り変わることが多いので、大抵は前書きに誰視点なのか等を書き添えておきたいと思います。今回は緋山励二視点で三人称視点の文章となります。

「――クソッ! 繋がらねぇ!」

「残念だったな。恐らく力帝都市側の動きが早かったんだろ」

「ほんま、やらしいトラップ仕掛けとるもんやわ。開けた時点で参加表明なるなんて詐欺もエエとこやろ。毎回毎回よーえげつないこと考えるわ」


 ちゃぶ台の上には既に開封済みの黒封筒が三つと、未開封の黒封筒が一つ。開封済みの封筒の宛名にはヨハン=エイブラムス、日向ひゅうが久須美くずみ緋山ひやま励二れいじの名前が。そして残った未開封の黒封筒には、澄田すみた詩乃しのの名前が刻まれていた。


「それにしてもどういうこと? 断罪の宴に招待しますって――」

「そんな難儀な事やない。要は均衡警備隊バランサーがほんまに働いとるんやでーってアピールしたいだけや」


 ギルティサバイバル――いつしか均衡警備隊バランサーによって開催されていたデモンストレーションという名の生き残りをかけた戦いは、まるで正反対の意味を持ってそう呼ばれるようになっていた。

 参加対象者は全て第一区画へと呼ばれ、そこで七十二時――三日間の生き残りをかけた戦いを繰り広げることになる。対象は犯罪者、狩るのは力帝都市でも有数の実力者――均衡警備隊のトップとナンバー2の()()だ。

 能力、魔力、権力――何でもアリとされるサバイバル。唯一のルールはただ一つ、生き残るだけ。生き残るためならば他者を殺すことすら赦されたこのサバイバル、毎度のことでありながら外部中継における視聴率は九十パーセントを切った事など無い。

 更にお子様向けにリアルタイムフィルターもあるよ! などという市長のふざけた心遣いによってサバイバルの翌日のバトル発生率は毎年ずば抜けて高いため、一部では力帝都市での頻繁なバトルを推奨するためではないかという声もあるという。


「つーか何で俺達が呼ばれたんだ? 犯罪なんて……心当たりはないけどな」


 緋山は少し間をおいて身の潔白を訴えたが、それを聞き入れる者などこの場所にはある意味存在しない。そもそもがある意味ワケアリな住民しかいないと揶揄されるこのひなた荘において、犯罪を犯したからといってすぐに蹴り飛ばされて部屋を追い出されるということなどない。


「そもそもあんたはしょっちゅう器物損壊するからここらでよばれてもおかしあらへんやろ」


 罪を犯した者――その中でも現在第十一区画に幽閉されていない、幽閉できない者を対象にありとあらゆる手段で招待をよこし、そして強制的にサバイバルへと参加させる。それは緋山励二のような軽犯罪でも、とある人物の様な『存在するだけでも大罪』とされる少年ですら、等しく第一区画で生き残りをかけて戦うことになる。


「それより何で日向さんとおっさんが呼ばれたんだよ。俺としちゃそっちの方が気になるんだが……」

「そんなことどうでもええやろ。変なこと言うならその舌引っこ抜くで」

「おっと、うちの大家が言うと冗談に聞こえないから怖い怖い」


 日向久須美とヨハン=エイブラムス。実はひなた荘内で黒封筒の異変に最初に気が付いたのは他でもないこの二人だった。何を隠そう封を開けた後に澄田に対し絶対に封を開けないように駆け込んだのは日向であり、逆に緋山に対して開けるように勧めたのはヨハンである。


「つーかおっさん俺をハメやがったな!」

「いやー違うちがう、このサバイバル戦如何に味方を増やすかもカギだからさー」

「まあわしも励二には開けろ言うやろな。味方増やすのは大事やからな」

「おい」


 そして以前にもサバイバルに参加したことがあるかのような口ぶりの二人に益々謎が深まっていくものの、緋山にそのツッコミをさせまいとでもいわんばかりに日向は話を進めていく。


「それで、お友達の榊君が行方不明になったっちゅうことは既に移動させられとんのやろ」

「俺達はわざわざ迎えに来る必要はないってか? 相変わらずVIP待遇というものを知らない市長ヤツらだな」


 まるで昔から知り合いだったかのように皮肉を漏らすヨハンだったが、不満を言い終えると掛け声をかけながらその場に立ち上がり、久しぶりの運動だと両手を凍らせ始める。


「今回も生き延びられるよな?」

「当たり前や。わしを何やと思っとんねん」


 『冷血漢ストーンコールド』と『破壊者デストロイヤー』。今まで其の力の片鱗を見た事はあれど、その全てを、全貌を見た事がある者などこの場に存在しない。


「そういえば之喜原の野郎は?」

「之喜原先輩ならアルバイトだってさ、励二」

「この緊急事態に何やってんだよあいつは……」


 現在之喜原と後一人を除けば全ての住人がひなた荘の大広間に集まっている。そして澄田を除く三人は、これより死闘を戦い抜かなければならなくなる。それが新たなる火種の一つとなるのは、まだ誰も知る由もないであろう。

 そして――


「ふぁああー……大家さーん昼飯まだーって、あれ? 大家さん戦闘体勢じゃん何事? 天地開闢でも起きる感じ?」


 入り口を見るとそこには日向の様な手入れのなされていないぼさぼさの髪を、雑な性格を表すかのように輪ゴムで結んだジャージ姿の女性の姿が。


「何や起きたんか」

「そりゃ下であれだけ大騒ぎされたら誰だっておきますよーっと」


 それは曰く『最強の無能力者』、曰く『ナマケモノより怠け者』。曰く、『怠惰スロウス』の罪を背負いし女子大生。

 ――曰く『神の憑代』という名のバイト巫女。

 魔人の紹介により最近このひなた荘に入居することとなったこの女性の名は――


「相変わらず全ての栄養が胸にいってるねー神住ちゃん」

「あーそれセクハラですね。いずれ天誅下りますよ」


 藁墨わらずみ神住かすみ。無能力の身でありながらSランクと格付けされた破格の存在だった。

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