第一話 序曲 ~オーヴァチュア~
「――なんだこりゃ」
端末《VP》のメッセージ機能が発達した昨今において、わざわざ手紙の郵便物なんて珍しい。
「……不気味すぎんだろ」
それにしても茶封筒ならまだしも真っ黒な封筒が投函されていたなんてホラーすぎるんだが。
英雄事件が決着してからおよそ二週間。ようやく夏休みに入ってのんびりとしていた時の事だった。その間は守矢の機嫌をとったり守矢の機嫌をとったり栖原の男受けする服選びにつき合わされたり、アクセラと一緒に遊園地に行ったりラウラと夕飯の準備を一緒にしたり――って、結構充実してないか俺? 少なくとも去年の中学のころダストに混じって穂村を追い回していた時よりは充実しているぞ。
「って、そんな感傷に浸ってる時じゃないな」
俺は差出人を確認するために黒い封筒を隅々まで確認したが、差出人の名前は一切見当たらない。
「……何かの罠か?」
俺はそう思って一応反転していつでも対応できるようにして、それから封筒を部屋へと持ち帰って開けることにした。
「お姉ちゃん何それー?」
俺の部屋でテレビを見ていたアクセラが興味深そうに近づいてくる。というかこいつがいることを忘れてた。
「分からない。とりあえず何が起こるから分からないからラウラと一緒に隣の部屋にいっててくれる?」
「危ないものなの?」
「それがまだ分からないから一応ね」
開けて即爆発とかは流石にないよね……?
ひとまずアクセラを隣の部屋まで送ってから、俺は一人部屋の真ん中に置かれた黒封筒とにらめっこをする。
「一応先に仕掛けを解いておこう」
仕掛けが動かないように反転。そして恐るおそる封筒を開封――
「――って、なんだこりゃ?」
そこにはランクカードと似た真っ白なカードが入っているだけで、それ以外には何も封筒には同梱されていない。
「どういうことだ……?」
俺が首をかしげていると、突如としてそれまでベッドの上に放置していたVPが鳴り始める。
「うわっ!?」
ちょっとびっくりしながらも俺はVPを手に取ると、液晶には緋山さんからの呼び出しコールが浮かび上がっている。
「はい、もしもし?」
「“おい、榊! 榊だよな!?”」
「あってますけど」
「“お前まさか、黒い封筒とか届いてねぇだろうな!?”」
黒い封筒……えっ、もしかしなくてもこれ?
「あ、はい、届きましたけど」
「“いいか! 絶対にそれを――”」
「もう開けちゃったんですけど何かヤバい感じっすかね?」
「“……もういいから、それもって今すぐひなた荘に来い。いいか? 絶対に誰かに連れ去られたり、ついて行ったりするなよ!?”」
えぇ……そんなにヤバいもんなんですかね。
「まあ、言われたのなら気をつけざるを得ないんですけどね」
ひとまず着替えてから外に出るためにドアを開けた瞬間――
「貴様が榊真琴もとい、榊マコか」
玄関先に立つ人影。この展開もう十分だと思うんですけど。
「……一応聞きますけど、誰ですか?」
「この都市に住んでいながら、市長を知らんとはな」
次の瞬間、俺と『全能』の姿はその場から消え去っていた。
開幕主人公が姿を消す展開からスタートとなりましたが、これで本当の意味で力帝都市の今の力関係がはっきりするようになると思います。頑張って書いていきたいと思います。