ぶれいく・おぶ・わーるど ~イメチェン編 後編~
「あ、あのーどうしてあたしがこんなところに――」
「いいじゃないの、どうせSランクには支払いなんてあってないようなものだし」
確かにそうだがそれにしても高校生相応のファッション専門店というものがあると思うんですよ。それがどうしてこんなテレビに出るようなモデルが着る服を扱う店に訳の分からないオカマと一緒に放り込まれなくちゃいけないんですか。
「んー、これとかもいいかも! 貴方以前に見たときは随分と挑発的な服装だったりしてたけど、イメチェンするならするでいいかもしれないわね」
「はぁ……そうですか」
完全に相手にペースを持っていかれてるし。というよりこの人、弥代通司って名前の有名デザイナーで、TOHRUって芸名で活動しているようだ。つまりあの雑誌のようなワケの分からないセンスの持ち主ということになる。
「清楚系なら普通にこの辺の服とかいいと思うんだけど」
しかしながらさっきから提示される服が意外と普通――っていうか澄田さんが普段着ているような服装を提案される辺り澄田さんのファッションセンスもいいということになるのか。
「うーん、どうしようかしら。貴方がさっきから安牌ばかり選ぶからこっちも冒険しづらいのよねぇ」
それで冒険した結果マックスメガ盛りなことになるんですね。
「それよりあたしは一番気にしていること言ってもいい?」
「あら、何かしら」
もう美男子の癖にオカマ言葉だったりとかその辺にツッコミもいれたいけど、まず一番に聞くべきなのは――
「――どうしてあたしに話しかけたの」
「どうしてって、たまたま可愛い子がいたと思ったらSランクの子だったから――」
「どうして同じSランクに声をかけたかってこと。普通この力帝都市ならバトルの一つや二つ起こってもおかしくないところでしょ」
というより俺に声をかけてきたSランクは緋山さんも含めて初回は喧嘩をふっかけてきているイメージだし。
「あぁ、そういう意味ね。それは簡単な理由よ」
弥代は手に取っていた服を目の前でよりファッショナブルなものへと変化させていくと、ニコリと笑顔でこういった。
「だってアタシの能力を試すのにぴったりだって思ったからよ」
「ッ!?」
俺は即座に距離を取り、最大限の警戒でもって弥代を睨みつける。
「やっぱりあんた戦うつもりだったんでしょ!」
「だから違うっていってるじゃない!」
弥代は俺の目の前で大きくため息をつくと、変化させた服を再び元の服へと戻してハンガーに掛け直す。そして自分の能力を説明すると共に、どうして俺に接触して来たか、その本当の意図を話し始めた。
「見ての通り、アタシの能力は想像したものを何でも創ることができる能力。それが『創生者』」
想像したものを何でも創りだす能力って、それ最強じゃない?
そんな俺の感想をよそにして弥代は更に自らの野望を高らかにこう叫んだ。
「それで、アタシはこの能力でもって史上最高のクリエイティブなファッションデザイナーを目指しているのよ!!」
「……はぁ」
なんか、拍子抜けというか何というか、随分と平和的な野望ですね。
「それなのにどうしてかこの街の市長さんはこの力を『全能』に近い能力だってもてはやそうとしてくるのよねー。まったく、迷惑な話だわ。貴方もそう思うでしょ?」
「えっ、ええまあ」
自分も最初は市長に報告されかねなかった点は同意せざるを得ない。下手したらここじゃなくて第一区画とかいうヤバい奴らが集まる区画に放り込まれかけていたわけだし。
「それでアタシ、貴方が反転させる能力者だって聞いてピンと来たの。貴方と知り合えば何かクリエイティブなアイディアが出るんじゃないかって!」
クリエイティブなアイデアならこっちが欲しいですよ。反転とかいう条件ついてるせいで何かと想像力働かせないと能力使うの難しいんですから。
「それで何かいいアイデアでもでましたか」
「ええ! 今回の貴方の普段の小悪魔系とは違う清楚な感じの正反対の反転、アタシのアイディアに取り入れさせてもらうわね!」
「そりゃよかったですね」
といったところで突如バイブ音がその場に鳴り始める。
「あら、貴方清楚系とか言いながらやっぱりそういう趣味なの?」
「いやそういう趣味ないし何言ってんだこの人!? てか鳴ってるのあんたの方からでしょ!!」
「冗談よ冗談……あら」
それまで上機嫌だった弥代は、自身のVPの画面を目にした途端に急激に不機嫌な表情を浮かべ始める。
「…………」
「どうかしたんですか?」
「いいえ、市長さんからちょっとしたお願い事されただけよ」
お願い事といっているが、その表情は明らかにそのような軽い言葉では片づけられない重要な任務があるかのように思える。
「ゴメンなさいね、今日はこの辺でお別れになるわ。色々と迷惑かけてしまったままでゴメンなさいね」
「いえ、結構楽しかったんで……また会えますよね?」
また会えますかなんて自分から変人に接近しようとするのもどうかと思ったが、弥代はというとその返事に対して先ほどの様な明るい雰囲気ではなく、重たい雰囲気でもって言葉を濁らせる。
「また会えるかどうかはちょっとわからないわね。本当にごめんなさい」
「まあ考えてみればファッションデザイナーの仕事も忙しいですよね」
「それもあるけど……」
弥代は最後に別れの挨拶を述べると共に、同じSランクのよしみでもあるのだろうか、俺に対して釘を刺すように更に言葉をつづけた。
「じゃあまたどこかで。それとさっきも言ったみたいに、この街の市長さんには気をつけなさいよ。じゃないと本当に後悔することになるから」
「分かりました……ありがとうございます」
何やら意味深な言葉を残していったけど、お願いだからフラグだけはたてないでくださいね!?
一応これで番外編は終了となり、後はパワーオブワールドのほうが進み次第同時進行で次の変に進んでいきたいと思います。