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第四十五話 協力プレー

 落ちた先――一階に着地した後、即座に俺は周囲の状況を確認した。

 その場にいるのは全部で四人。俺と朧木、そして元から一階にいたのはレッドキャップにまさかの名稗。


「くっ、なんであんたがここに!」

「あらぁ、やっぱりあたし達運命の赤い糸で繋がってるんじゃなぁい?」

「“クッ、面倒な……”」


 赤い糸って、あんたみたいな変態と繋がってるなんざ死んでもごめんだっつーの。

 それよりまたこの間のようにレッドキャップが勘違いをしていないか、それでもってまた面倒な賞金稼ぎをしなければいけなくなるのかの方が問題だ。俺はレッドキャップもまた朧木の様な面倒な勘違いをしていないか、そしてまさかとは思っているが名稗が敵方の人間なのかを知る必要があった。


「あー、えーと、どっちがどっち?」


 この場合のどっちとは、能力開発技術機構側なのか、そうでないのかという意味であることである。そういうつもりで言った俺であったが、この一言が余計この場を混乱させたことは間違いなかった。


「あぁん? あたしは――」

「僕は正義の使者、レッドキャップ! 悪の中枢軸を叩きに来たまで!」


 新しい第三者的選択を選ぶのは止めてもらえませんかね。とはいってもやはり正義の味方というべきか、能力開技術発機構を叩き潰しに来た様子で安心した。


「だ、だったら僕も正義側だ!」


 あーもう、あんたは能力開発術機構側てきがわでしょうが! レッドキャップと一緒の側に着くとか面倒なこと言い始めないで貰える!?


「……あたしも一応、このふざけた組織を潰しに来たんだけど」

「てことは……」


 おい、皆して俺を見てるんじゃない。


「あ、あたしもここで不法に能力開発をしているって聞いてぶっ飛ばしに来たんですけど!?」

「ええっ!? ここって不法に能力開発してるの!?」


 あんたがその被験者だろうが朧木アルフレッド。今さら驚いたような表情をするな。そしてレッドキャップもとい奥田は朧木の反応を真に受けるな説明が面倒になってくる。


「それについては僕もその話は聞いている。おまけにここでは洗脳すら行われていることも」

「まぁ別件で来たあたしには関係ないけどぉ」


 関係ないことは無いぞ名稗閖威科。あんたの能力を模倣した力を、あんたの隣にいる朧木が持っているって話なんだから。


「榊、君もこの組織を潰しに?」

「ていうか話がこんがらがる前に言わせてもらうけど、その組織で能力開発されたのがそこにいる朧木なんだけど」

「えぇっ!?」

「えっ、僕が!?」


 他に誰がいるんだよ。ていうかなんで今更驚いているんだよ。


「だからさっきから言ってるじゃん。あんたは騙されてたのよ」

「な、なんだってぇ!?」


 ここで一同、衝撃が走る――って、あたしは最初からそう言っていたはずなんだけどね。


「で、でも、僕どうすれば――」

「そんな事より、まず上に鎮座してる奴をぶっ飛ばす方が先でしょ」


 誤解も溶けたなら闘う理由もない。朧木の迷いもあるかもしれないが、今はそれどころじゃない。今度こそラグナロクを潰せる、またとないチャンス。


「多分奴等は最上階にいる。だから――」

「だぁから、こうやって突入すればいいでしょぉ?」


 名稗は巨大な蜘蛛の巣を床に広げるように張り、そして片足を引っ掛けて抑え込んでいる。


「“一体何をするつもりだ!?”」

「要はさっきと同じ、バネの要領で誰かがぶっ飛べばいい」

「誰かって、誰が?」


 ここで俺と名稗、そして朧木がある一人の人間ヒーローの方へと注目する。


「……えっ、僕!?」

「だって天井突き破っても平然としてそうなタフネスだし」

「あんたならさっきのパンチで天井打ち抜けば一発で終わるでしょぉ?」

「“待て! お前達何をする気だ!?”」


 放送の声を無視して決めようとしていた俺と名稗の考えは一致していたようで、要は向こうも正面からの迎撃は予測できていても、真下からの攻撃には対策を打っていないと考えている。


「それにさぁ、さっきみたいにしなくて済むじゃん?」

「さっきみたいってどういうこと?」


 名稗の意味深な言葉に疑問を持つが、名稗が指を指した砲口を見たことでその疑問は解消される。


「ほら、あれ」

「……えぇ……」


 さっきから妙に風通しがいいとは思っていたが、まさか海まで――って、あれって確か第十一区画の噂の陸の孤島じゃないの? まさかあそこまで吹っ飛んで行ったってことは無いよね? 煙が上がっている気がするけど気のせいだよね?


「…………」


 一同俺の視線の先の惨状を目にしてしまったのか、次の言葉に誰も異論を唱える事無く一致団結して事を終わらせ始める。


「……さーて! 天井をぶっ飛ばしてちゃっちゃと終わらせましょうか!」

「よ、よーし! 僕が一気にぶっ飛ばしてやる! 空に向かってぶっ飛ばせば誰も被害は受けないし!!」

「よーしいけー深紅の弾丸(レッドバレット)。色々と八つ当たりしてこーい」

「“待て! 話しあおうじゃないか!”」

「だからもう遅いっての」


 レッドキャップが中心に乗った蜘蛛の巣はギチギチと音を立ててより張ってゆき、そして仕上げといわんばかりに名稗がセーフティで掛けていた足を外す。


「いくぞぉ!!」

「“待て! 待て――”」


 身体強化しておいた視力ですらかろうじて通過したであろう空間を目で追うことしかできないほどの加速でもって、赤い残像を携えたヒーローは上層階にいる悪党ラグナロクの根城を野望もろ共打ち砕く。


「――悪党成敗上段拳ジャッジメントアッパーァ!!」


 拳が突き刺さり、放射状にヒビが広がっていく。それでもなお威力の衰えることのないレッドキャップの拳は、そのまま上の階層の全てを建物ごと吹き飛ばしてしまう。


「ぶっ飛べぇええええええええ!!」

「“うわぁああああああ――”」


 プツリと途中で切れる館内放送が、この戦いに勝利したという意味を伝える。そして全建物の上層部を破壊し終えるとほぼ同時に、外からサイレン音が近づいてくるのが聞こえる。


「……逃げますか」

「そうだね」

「あぁん、結局ここも当てが外れたってぇことかぁ」


 レッドキャップは一足お先にといわんばかりに、ニット帽を押さえて遠くへと跳躍すると、こちらに向けてグットラックといわんばかりに親指を立てて去っていく。


「じゃあ、またどこかで会おう!」


 俺はその気になればいつでも会えるんだぞ奥田宅雄レッドキャップ君。

 そんな感じで俺も早々にこの場を立ち去ろうとしていたが、朧木の様子がおかしい。


「えぇーと、僕はどうすればいいんですか……」


 そうだった。完全に忘れていた。不法にとはいえ能力を手にしてしまった今、朧木が取った方がいい選択肢は一つ。


「……なら、あたしが――」

「どうせならあたしんとこくればぁ?」

「えっ」

「へっ?」


 俺は意外な抜け道を前に、間の抜けた声を漏らさざるを得なかった。まさか名稗がここで勧誘(?)をするとは考えすら及ばなかった。


「えっ、ちょっとそもそも貴方は誰……?」

「あたし? あたしは……名乗るほどの者でもないねぇ。強いて言うなら第十四区画にいるダスト紛いの人間とだけ言っておこうかしらぁ」

「何だって!?」


 ダストの巣窟である第十四区画の人間と聞いて態度を固くする朧木に対し、名稗はへらへらとした態度でまるでコンビニにでも立ち寄らせるような感覚で自分のアジトへと朧木を招待する。


「いいからいいから~、少しの間だけ身を隠して、それから家に戻れば均衡警備隊バランサーの奴等も聞いて来ないから」

「それはどうして?」

「その辺はお姉さんがちょちょいのちょいと裏工作するから安心! 今回の件は全部レッドキャップの功績に仕立てとけばオッケー」


 オッケーかもしれないがそれでいいのか? と俺は思ったが、面倒なのでここは名稗に任せることに。


「じゃ、そういうことであんたはしばらくの間そっちにいきなさい」

「はい! マコさんがそういうなら!」


 朧木の子の反応を忘れていた俺は、名稗の方に密かにばらさないように目配せをする。


「お願いだから、内緒にしていてよ。じゃないとあんたの正体も――」

「分かってるっての」



          ◆◆◆



 そうしてこの場を立ち去り、俺はひとまずこの謎のヒーロー流行事件を解決することに成功した。

 街では噂となりつつあったレッドキャップの話も熱が引いていったおかげか元のネット上でのアングラな話となり、それと同時に俺のファンクラブも消えていく予定だったのだが何故か存続中。迷惑な話だ。

 テレビでも一時的とはいえレッドキャップが第十二区画で行われていた不法な能力開発施設を壊した事の報道が流れたものの、それもすぐに消えていった。

 こうして全ては一件落着。かと思いきや――


「――そういえば結局榊が男だっていう問題、どうするつもりですか」

「……勘弁してください」


 この後滅茶苦茶謝罪しました。

これでこの編は完結となります。残された複線等は次の編で回収していきたいと考えています。後は番外編のぶれいくおぶわーるどでお茶を濁しつつパワーオブワールドの方を急いで進めて次の編へと進んでいこうと思います。

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