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第四十三話 速攻

「さぁて、どこから断ち切ってやろうかぁ」


 視認するのが困難なほどの細いワイヤーを周囲に貼りつつ、名稗は目の前に立ちふさがり、吹き抜けを貫くように高くそびえたつロボットを見定める。レッドキャップはというと、準備運動とでもいわんばかりに両腕を前へと伸ばし、首を前後左右に動かしている。


「“ハッハッハ! 断ち切る!? この無人ロボット、確かに元はBランクレベルの汎用機だが、今回貴様等のために特別に用意した――”」


 自慢の戦闘用ロボットのスペックを語る前に、名稗は退屈そうに糸でロボットの左腕を締め上げると、そのまま肩から先を綺麗に切断した。


「うざってぇんだけどぉ」

「“なっ――”」

「わりぃけど玩具オモチャの発表会にまともに構ってる暇ないんだよねぇ。あたしはあんた等に連れ去られた同僚を連れ戻しに来ただけだし」

「“うぐぐぐ、やれッ!! 完膚なきまでに粉々にしてやれ!!”」


 片腕を切り取られバランスを失いつつあるものの、ロボットは館内放送から気つけに近い金切り声で飛ばされる命令に従って再び動き出す。


「“最悪脳みそさえあれば、貴様等変異種(スポア)の身体など用済みだからな!!”」

「おーおー、言ってくれるねぇ。こういう発言を聞いてどう思うよ、『英雄ヒーロー』」

「そもそも人を攫っている時点でどうもこうもないよ」

「そりゃごもっとも」


 名稗が肩をすくめて息を漏らしていると、それを隙と判断したロボットが残った右腕のランチャーを構え、名稗を撃ち抜こうと照準を合わせる。


「ッ! 危ない!」

「あぁん? 大丈夫だっての」


 レッドキャップは即座に射出された榴弾ロケットと名稗との間に立ち、両手を広げて榴弾を受け止める態勢に入ったが――


「――あれ?」

「だーかぁーらぁー、大丈夫だっつってんでしょうがこの正義ボーイが」


 高速で放たれたはずの榴弾はレッドキャップの目と鼻の先で急停止をし、目の前でジャイロ回転を徐々に弱めていく。そしてしまいには完全に直線運動を停止すると、その場に宙ぶらりんに浮かんだ。


「ったく、もうちょっとあたしの手前で余裕を持って止めようとしたのに、間に割ってはいられちまうもんだから。わざわざ蜘糸アラクネを使ってまで急停止させてやったんだ、感謝しろよぉ」


 名稗は自身が生成できる中で最高の強度を持つ蜘蛛の糸をいくつも結い合わせては束ね、更に強靭度を増して蜘蛛の巣のように張ることで高速で飛来する榴弾を喰い止めたのである。


「悪人にお礼なんて言うつもりは無いよ」

「こっちも胡散臭い正義野郎にお礼なんざ期待してねぇっての――ッ!」


 余所見をしている暇など無いとでも言わんばかりに、名稗の方を向くことでロボットに背を向けているレッドキャップに向かってロボットの渾身の右ストレートが放たれたが、レッドキャップは後ろすらも振り返ることなく片手でその拳の一撃を受け止める。


「……へぇ、やるじゃん」

「お礼は言わないけど賞賛はするんだね」

「そりゃそうだろ。テレビでもよくやってるじゃん」


 口では皮肉を言いつつも、名稗もレッドキャップも互いの力を認めざるを得なかった。


「あんたがそれだけ怪力ってのなら、あたしが一時的に動きを止めてやるから思いっきり殴り飛ばせばぁ?」

「即興にしてはいい作戦だね」

「“ぐ、き、貴様等ァあああああああ!!”」


 館内放送の声は怒りに任せて目の前の被験体スポア二体を粉砕せんとロボットに命じたが、レッドキャップは素早く前へ出てロボットの足元へと潜り込むと足払いのための回し蹴りを繰り出し、一瞬にしてロボットの体勢を崩す。


「“なっ――”」

「おっ、中々いいね」


 その間に榴弾が乗った蜘蛛の巣に足をかけ、パチンコのように蜘蛛の糸を伸ばしていた名稗がにやりと笑って蜘蛛の巣を引っ掛けていた足を外す。狙いは無論、ロボットの頭部である。

「うわっと!」

「ヘッドショットってかぁ?」


 倒れかかったロボットの頭部が見事に爆発で吹き飛んだことで再び身体を起こされ、更に遠隔制御を司っていた部分がなくなったことによりロボットは完全な棒立ちとなる。


「いくぞ!!」


 そこへ渾身の力を右の拳に籠めていたレッドキャップが、全ての力を開放して足を前へと飛び込む。


「――悪党成敗拳ジャッジメントナックルッ!!」


 瞬間――音を置き去りにした衝撃波ソニックブームがレッドキャップの右腕を中心に広がってゆき、それまでいた筈のロボットの姿は一瞬にして消え失せる。

 そしてほんの少し遅れて鼓膜を破りかねない様な爆音が鳴り響き、続いてレッドキャップの正面を並んでいたビルやその他の建物全てが吹き飛ぶ鉄塊によって破壊されていく。


「……ちょっとやりすぎじゃね?」

「……僕も正直ちょっと後悔してる」


 バトルが始まった時点で力帝都市が自動的に戦闘被害を計算し、それにしたがって避難警告やSランクならば区画を覆うような障壁が立ち塞がるなどがあるはずなのであるが、今回に限ってはそんな手配など無かったようで、ロボットは第十二区画を横断するかのごとく遠くまで飛んでいった様子。


「……あーあ! やーっちゃったやっちゃった!」

「そんな子どもみたいな茶化し方やめてもらえますか!」


 一難去ってまた一難。目の前の障害を排除できた代わりに莫大な犠牲を払うことになりそうなレッドキャップの目の前に、どこから降って来たのか少年と少女が互いに距離を取って一階へと落ちてくる。

「めんどくさっ! 電気ってこんなに面倒くさかったっけ!?」

「さっきから電流を逸らしてばっかりでズルいぞ!」

レッドキャップのすぐそばには『反転リバース』こと榊マコ、そして名稗のすぐそばには朧木アルフレッドの姿が。

「あれっ!? なんでレッドキャップがこんなところに!?」

「だーかーらー! あんたが付いているのは悪い側だって言ってるでしょうが!!」

「……なーんか、中世的な顔ってそそられるわよねぇ」


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