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第四十話 裏取引

今回は最初から三人称視点です。

「いい加減ちょっとした番外編とか言いながら既に四十話消費するとかいうとんでもないことやらかしてる作者の為にも、アタシがサクッと一話でテメェを退場させてやるよ」

「一体何を言っているんだ貴様は! 狂言回しのつもりか!?」


 エルモアは怒りをあらわにして背中に背負っていた最新鋭の重力ライフルの銃口を銀髪の少女へとへと向けたが、少女はクスクスと口元に手を当てて笑っている。


「そんなオモチャでアタシを止められるとでも? ギャグのつもり?」

「貴様を倒すには過ぎた玩具だがな!」


 第十二区画にある第二の銀ビル。まさに悪の組織の隠れ家としてはある意味お似合いの場所であるが、幕引き(カーテンコール)の時間がやってきた。

 重力対闇。ある意味究極の戦いともいえるものが今、魔人と『グラビティ』との間で繰り広げられようとしていた。


「じゃ、アタシそろそろ攻撃しかけるよー」


 魔人ノーブルは性別が男の時とはうって変わって上品に笑い声を挙げながらも、地面から闇の刃をいくつも召喚し始める。


「ブラックホール……空間ごと引きずりこむ超重力場と、この空間事切り裂く闇の刃、どっちが強いのかなぁ?」


 ノーブルがかわいこぶるように小首を傾げると同時に、その可愛げのある動作とは魔反対の殺意だけがのせられた、まさに魔刃とも呼ぶべき暴力の塊が一斉にエルモアへと飛びかかる。


「アッハハハハハッ! それそれそれそれぇ!」

「舐めるなァ!」


 エルモアは向かい来る刃を撃ち落とすべく、次々と重力弾を撃ち出すべく引き金を引く。

 重力の塊と闇の刃。互いに衝突しては対消滅し、代わりにその場に爆撃が起きたかのようなクレーターを残していく。


「フーン、相打ちになるんだ~」

「くっ、まさか魔法使いなのか……!?」


 エルモアの予想に対してノーブルは呆けた表情で一瞬固まった。そしてその直後にそれまでとは違う大笑いをしてエルモアを挑発し始める。


「クヒヒヒヒッ、いるよねぇ何とか自分の理解の範疇内に収めようとする人間ってさ」


 ノーブルは高笑いをして両手を広げると、今度は手のひらの内に轟音で唸る黒雷をチャージし始める。


「なっ――」

「科学実験だ。本当に光の速さですら重力からは逃げられないのか……黒龍雷哮ブラックボルテージ!!」


 二つの巨大な稲妻が、空間を引き裂き轟音を立てて襲い掛かる。まさに生死を分けるその刹那、エルモアはとっさに右手を前にかざして全てを引きずりこむ穴を生成する。


「ブラックホールッ!!」

「そうだよなァ! そうしないと死んじまうもんなぁアッハハハハッ!! ――黒龍暴風劇ブラックストーム!!」


 闇の刃がより細やかに渦を巻き、破壊の風を巻き起こす。いかずちと暴風による地獄の嵐がその場に巻き起こされ始める。


「くっ! この程度で……!」

「ホラホラァ! そっちに気を取られていると――」


 ノーブルは今度はエルモアの部下の方へと目線を向け、そして遠隔で部下の足元に黒い魔法陣を生成し始める。


「――串刺し公の惨劇(ヴァン・ヘルシング)ッ!!」


 回避する暇を一切与える事無く、魔人はエルモアの部下全員を闇の槍で串刺しに仕立てる。


「ッ!? 貴様ァ! 我が部下はこの戦いに関係ないだろう!!」

「関係ナイも何も、こんな悪事に手を染めてなおかつ死人を出しているんでしょ?」


 死をもたらす者に、死をもたらされても何も文句は言えない。等価交換、覚悟の上だと魔人はぎらついた歯を見せる。


「だったら凄惨な最期をを迎えても覚悟の上よねぇ? それこそ、ファウストよろしく目玉と歯以外の全てを無惨に散らばされてもねェ!」


 気でも触れているとしか思えないノーブルの行動の狂い様は、更に加速していく。自らの喉を手刀で引き裂いて首を飛ばすと、その場に盛大に黒い血をばら撒き、かと思えば斬られた首元から形容しがたい無数の目を持った化け物がうごめき、姿を現し始める。


「ひっ……」

「アッハハハハハ――」


 壊れた人形のように笑い続ける首が床を転がるも、自ら切り離した胴体によって踏み抜かれ、その場に血糊と眼球をぶちまける。


「う、うわあああああっ!」


 もはやこの世の者とは思えない本物のバケモノとの戦いを前にして、エルモアは思わず後ずさりをするとともに、背後に逃走用のブラックホールをこじ開ける。

 しかしそれを目の前の怪物ノーブルが見逃すわけがなかった。


「逃がすわけないだろ?」

「ッ!?」


 ブラックホールから飛び出してきたのは、既に別のブラックホールから侵入し独自経路で潜んでいた魔人のコピー。影はエルモアを背後から掴み上げると、自分自身の足元に本当の意味で全てをすりつぶす暗黒の重力場を発生させる。


「一緒に死のうぜ、キヒャハハハハハハハハァ!!」

「あ、ぐ、あ、ブラックホ――」

「させるかよバァーカ」


 エルモアが意識を集中させようにも影は首を絶えず締め上げてくるため、息を保つことに精一杯である。


「ご、はぁっ……!」

「ヒャーハハハハハハァ!!」


 影の足元から原子レベルで分解され、圧縮される。足元に広がる暗黒空間の先、圧縮された先には無間の地獄が待ち受けている。生も無く死も無く、あるのは無限の苦しみのみ。


「一緒に堕ちてくれるよなぁヒャハハハハッ!」

「こ、助け……」

「遊ぶのもその辺にしておけ、世界を弄ぶ道化師が」

「アァン? ……チッ、こんなところにわざわざ『誇大妄想女メガロマニア』が来てんじゃねぇよ」


 魔人の深紫に濁りきった目に映るはみどりの黒髪。その長い髪をブラックホールが引き起こす風になびかせながらも、自身は一切その重力の支配を受けないかの如くその場に腕を組んで仁王立ちしている。

 力帝都市に二人いる市長の片割れ、『全能メガロマニア』と畏敬の念を以てよばれる存在が、魔人の影を引き裂きエルモアのそばに降り立っている。


「何の用ですかねぇ? アタシ達今ヒーローごっこしているんですけどぉ?」

「フン。能力開発技術機構が作り上げた催眠電波装置にかこつけて。殺戮を繰り返しているだけの殺人鬼が何を言う」

「アラ、バレてた?」


 首から上を再生成したノーブルはわざとらしくニヤリと笑い、挨拶代わりとでもいわんばかりに背後の空間から地を這う大蛇を召喚してその大顎で『全能』を喰らいつくすように仕掛けたが――


「無駄だ――」


 『全能』は振り返ることなく背後の空間を縦に一閃、大蛇はその場に盛大に血液をばら撒いて倒れ伏した。


「……チッ、面倒な」

「どうした? 以前のごとく直接殺しに来たりはしないのか?」

「して欲しいのか? このアバズレが」


 突如として姿を現した力帝都市最強格とされる『全能メガロマニア』と、それと対等に喋るどころか挑発まで仕掛ける銀髪の美少女。エルモアの理解の範疇など等に及ばぬところで、二人は互いを見据えていた。


「魔人よ」

「アァ?」

「ひとまずここは我にこの場を預けさせてはもらえないか?」


 完全に戦闘の流れだと感じ取っていた魔人にとって、『全能』の提案は意外なものであり拍子抜けさせるものであった。


「なんでテメェに預ける必要がある?」

「何、貴様にとっても悪くは無い話だ。上の階の件は貴様の望む通り『反転リバース』に任せてやろう。貴様の目的は『反転リバース』の存在を『断罪者たちエクスキューショナーズ』の目につけさせることなのだろう?」

「チッ、仮にそうだったとして、アタシがハイそうですかと飲むメリットがねぇだろうがこのアバズレが」

「フン……そうやって貴様はまた同じ結末エンディングをこの世界でも引き起こすつもりか?」

「ッ!?」


 魔人に明らかな動揺が走った。そして数歩後ろへと下がった後に捨て台詞を吐き自らを黒い霧で包み込み、元の白髪の魔人へと戻っていく。


「ケッ! オレが同じ過ちを繰り返す!? 下らねぇ下らねぇ下らねぇ!! そもそも俺は過ちを犯しちゃいねぇよバァーカ!! “ゴウキ”も“セラフ”も――」

「その“セラフ”の居場所と引き換えに、この場を退けと言ったらどうする?」

「ッ!?」


 魔人の動きは完全に静止した。そして大きく舌打ちをすると、自らの背後にエルモアとは違う深紅の混じった黒いブラックホールにその身を消していく。


「――それがウソだったら、オレは完全にこの世界を破壊しつくしてやるからな……」

「安心しろ。事が済めば全てを伝えよう」


 魔人の怨嗟はその場に重く響き渡り、一時は世界の崩壊の危機すらあり得たこの場面は、何事も無かったかのように収束していく。


「ど、どうして貴方が――」

「『グラビティ』……まずはその洗脳された精神を、元に戻さなければならないな」

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