第三十八話 嫌なタイミングで合流
「ここが能力開発技術機構が経営するビルとなります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました」
ロボットの無機質なお礼が余計にこの場所まで案内したくなかったという風に聞こえるのは俺の気のせいなのか。それはさておくとして――
「――うーわ、外装がおもいっきりアレなんだけど……」
「一体何を言っているんだい?」
「いや、こっちの話だから関係ないよ」
朧木は不思議そうに俺の方を見ているが、俺の視線は目の前の銀ビル2号に釘づけだった――というより、まさかこんなところでどうどうとラグナロクの残党が活動していることに頭を抱えざるを得ない。
「残党狩りかよ……」
「残党……?」
「いいから先に行ってくれ。俺はちょっとばかり別件で連絡を取ってから後に向かわせてもらう」
「そっかー。じゃあ先に行ってるね!」
呑気にしているがそれもいつまでもつことやら。とはいえこのまま放っておくのも寝覚めが悪い。
「……ちょっとだけ、様子を見るか」
喜べ朧木。ファンの目の前に有名人が自ら現れるなんてことはそうそうにないファンサービスだぞ。
◆◆◆
――デジャヴというものを知っているだろうか。第七区画でも変な注目を浴びていたが、第十二区画でもまた別の意味ではあるものの、反転した女の子の姿は注目を集めてしまっている。
「あれが噂の『反転』か。調査するには極上の被験体だがな……」
「如何せん既に『解放者』のバックに『全知』がついているって話だからな……」
「ああ、実に興味深いね」
「…………」
蛇に睨まれた蛙というわけでは無いが、ここでも別の意味で怖気がはしってしまう。まさか人体実験のおもちゃにされて、色々な所をまさぐられた挙句あんなことやこんな事をされてしまうのではというエロい考えが――ってなんでそんな事になってんだよ妄想中の俺は! そんな事される前に状況を反転させれば逆転できるでしょ!?
「なんであたし、そういう願望があるワケ!?」
一人で顔を真っ赤にして慌てふためくさまは周りの人間にはさぞ滑稽に見えただろう、首を傾げて俺を見つめながら白衣の人間が俺の隣を素通りしていく。
「……こうなったら八つ当たりであのビルを潰すしかない」
「その通り、八つ当たりであのビルを潰すしかねぇな」
そうですその通りですって、あんた――
「ヨォ、アタシを差し置いてオタノシミしようとしてたってかぁ?」
まさかまさかの銀髪美少女(中身はアレ)が、背中に黒い翼を生やして俺の目の前に降り立つ。というか少しばかりバチバチと黒雷を見に纏っている辺り、殺意が少しばかり見え隠れしている気がするが気のせいだということにしておこう。
「なっ、あんた緋山さんをボコボコにしにいった筈じゃ――」
「ボコボコにしてやったぜぇ。榊マコの差し金だって伝言つきでよぉ」
それって俺の指示で緋山さんボコッたみたいになってるじゃないですかやだー。
「で、でも実行したのは魔人じゃん――」
「それで緋山励二からの伝言だ。“次会ったらぶっ殺す”だとよ」
ハイ今俺死んだー。死刑確定宣告来たー。
「はぁ、やる気がなくなってきた……」
「まあまあ、死ぬ前にひと暴れできるから上等だろ」
あんたケラケラ笑っているみたいだけど俺にとっちゃ生き死にの問題なんですよ。
「だったらそもそもウソをついてまであの場からアタシを排除しなかったらよかっただけの話だろ?」
「そりゃそうですけど……」
「まっ、今回はアタシもストレス発散のためにブチ殺しまくるから安心していーよー」
もう嫌な予感しかしない、というよりラグナロクの残党に今度こそ終了のお知らせが入るみたいです。
「さて、行こうか」
「はぁ、もうどうにでもなーれ☆」




