第三十七話 まさかの原因?
「そもそも榊マコさんの能力、『反転』ってのはとてつもない力で――」
ハイハイ知ってまーす。あんたより百パーセント知ってまーす。なんてったってその能力は俺自身が持ってる能力だからね、絶対知ってて当たり前だからね。
そんな話が始まってからもう軽く小一時間経過しようとしている。俺と朧木はビジネスマンがたむろしている喫茶店にて、周りの奇異の視線を浴びながら目の前で熱心に語るヒーローオタクの言葉に耳を傾けさせられている。
「だから姉貴の能力くらい知ってるってば」
「そう? だったら今度は知る人のみぞ知るSランク同士の戦いを――」
もはや耳にタコができるレベルの話を何度も何度も聞く必要はないと思うのだが。
「とにかく、俺はDランクだからそもそも戦いには関係ないし、姉貴もSランクだから俺にわざわざ構う暇なんざそうそうねぇよ」
「でも保釈金肩代わりしてくれたじゃないか」
「まあそうだけどよ……」
正直早くこの場所を離れたいです。ファンクラブは後で取り潰しにするとして、今大事なのは第十四区画で起こっている人さらいの件と、謎のヒーロー流行を作りだしたものの正体を掴むこと。なのにこんなところで足止めを食らっているわけにはいかないってのにこのザマ。
「――って、ヤバッ! こんなことをしている場合じゃない!」
自分でもこんなことをしているって自覚はあるのね――って俺の時間返せよ。なんで自分だけ時計を見て好き勝手に予定を薦めようとしているんだっての。
「ごめん! これから第十二区画に行かなくちゃいけないんだ!」
「第十二区画? 何をしに?」
「なんでも一般人向けに特別に能力者として覚醒できるトレーニングをつけてくれる講座が今日開かれるんだって! タダで適性試験を受けられるし、そこで試供されるカプセルとかもあって――」
「ちょっと待て」
カプセル? ……まさかね。
「……一応俺もついて行ってみてもいいか?」
「どうしたんだい急に。あっ! もしかして君も超能力者に――」
「なる気はないけど、気にはなるからな」
まさかアレの残党が残っている可能性があるかもしれないという意味でも、俺は朧木の後をついていくことに。
「いっておくけど、君にレッドキャップの相棒の座を譲る気はないからね!」
「別にいらないっす……」
◆◆◆
第十二区画は遠目に見ても少し現実離れした区画だ。魔法が栄える第十三区画とは対照的に、第十二区画は科学が大きく発展した区画。噂によれば力帝都市内でも二十年以上、外の世界と比較すれば五十年以上も先の技術を隠し持っているという噂もある。現にこの区画に来る電車は他の車両とは違って痴漢防止にホログラムの駅員が同乗しているし、普通なら宙吊りになっている広告も天井に貼り付けられ、動画として動いている。
「ハイテクなんだな」
「そうだね。僕も最初は驚いたよ」
そうこうしている内に第十二区画の駅へと到着したが……降りる人全員頭よさそうな感じで、俺達みたいな高校生でもなんか参考書っぽいのを閉じてから降りて行っているんですけど。
「……なんか、俺達みたいなのが来ていい所じゃなさそうな気が――」
「でも今回は対外向けに招致するために色々と宣伝していたよ?」
基本的に自分にとって興味の無いものには目を背けてきた人の欠点ですよこれが。とにかく外部区画の人間でもオッケーならそれでもいいか。
「えーっと、どこに行けばいいのか――」
「何処か、お探しでしょうか?」
突如俺達の目の前に現れたのは、この第十二区画をガイドしてくれると思われる女性型ロボットであった。
「えっ、どうしてわかるの?」
「生態サーモセンサ及び呼吸回数の測定、更には脳波スキャニングにより困惑と思わしき感情を読み取りましたので、お声掛けを」
えっ、ちょっと待ってそんな勝手に測定しちゃっていいの?
「隣の方は不審に思われているようですが、あくまで個人を特定するものではなく、ビッグデータの一部としてのみ取り扱っておりますのでご安心を。ご要望であれば解析データの削除も行いますので」
そんな風に言われてもあまり気分がいいものではない。他人の思考を読みとるのはあの魔人だけで十分だ。
「では改めまして、どこに向かいましょうか?」
「どこにって、確か能力開発技術機構だっけ? そんな名前の会社を探しているんだけど」
「能力開発技術機構……少々お待ちを……承知しました」
どうやら普段の検索では優先度が低い単語なのか、検索に一秒とはいわないものの、他より少しばかり時間がかかったようだ。それにしてもコンピュータの検索も冷静に考えたら早いが、こんな人型の動きをしながら並列して検索を手早く行えるのは中々にすごいと素人目に思ってしまう。
「最近できた企業のようですね。新参企業故にPR活動も熱心なご様子で」
どうやらこのロボットを作りだした企業からの評価は芳しくないようで、先ほどの検索の遅れもどうにかすればあまり案内したくは無かったというそぶりにも思えてくる。
「では、ご案内いたしましょう」
そうして連れられるまま、俺と朧木はその能力開発技術機構へと向かうこととなった。