第三十六話 ファンクラブの会員に説教される有名人っているんですかね
「ぜぇ、ぜぇ……何だってのさまったく……」
榊マコファンクラブ? それ当人に無許可な時点で非公式ってことで潰していいよね? ていうか潰すよ? なんで目立ちたくないのにま反対の出来事が平然と起きてるのって話なんだけど!
「――って、ここは……」
第七区画。第八区画とは正反対に、男性向けの施設や建物が立ち並んでいる――ってことは今の俺みたいな女の子が歩いていることなどあまりなく、当然ながら更なる注目を集める結果となってしまう。
「嘘だろ? どうして榊マコがこんなところに……」
「Sランクの『反転』が、どうしてここに!?」
流石にSランクが物の位置を次々と入れ替えながらとんで来たとなると、ただ事ではない何かに巻き込まれているのではと考えてしまうのが一般人。俺もそうだったけど。
「あ、あははー。皆さん御機嫌よう」
適当な人と位置を入れ替えながら、俺は第七区画の更に奥へと進んでいく。しばらくして一本裏通りに入った所で、俺は周りに誰もいないことを確認してから元の男の姿へと反転していく。
「全く、まさかまさかのファンクラブって……はぁ」
裏路地から出ればジーンズを着て半袖のシャツを汗でぬらした榊真琴の姿となって――って、まさか注目されたのシャツが透けていたからってオチじゃないよね!?
「……最悪だよ」
もし透けブラしていたとしたら完全な痴女じゃん俺。そうだとしたらテンション駄々堕ちしますわ……。
「はぁ……ったく」
男性向けの区画とはいえど、ほぼ第十区画のビジネス街の様な感じに近く、オシャレな店よりスポーツ店の様な雰囲気の店が多く、更にはビジネス街程では無いもののスーツなどが売っていたりもしている。
……流石にいかがわしいものは売っていないようだが。
「さて、どうしたものか……」
日も傾き始めた今、パッと辺りを見渡したところ能力者や魔法使いといった類の人物は見当たらないように思えるが――
「あっ、こんなところで出会うとは!」
「ん? ……げっ」
なんでこんなところで俺を賞金稼ぎに追いやった張本人と鉢合わせになるんですかね。
周囲を見渡していた俺とたまたま視線が合ったのは、あのレッドキャップの追っかけをしている少年、朧木アルフレッドだった。童顔ながらに躊躇なくダストの後頭部を鉄パイプでぶん殴る様は中々にこちらを引かせてくれてはいたが、今は鉄パイプを装備しているわけでもなく、ラフな格好で俺の目の前に現れている。
「突然僕に殴りかかった挙句その場からいなくなったなんて、卑怯者!」
「いや、その件については罪を償ったからいいだろ」
むしろちょっとぶっ飛ばしただけで相当なお金を稼がされたんですけど。力帝都市なら怪我しない程度ならセーフってことにして欲しい所なのだが。
そんな事を思いながら俺は身の潔白を伝えたが、朧木はどうやら納得がいっていないどころか俺が別の人に罪を擦り付けた極悪人だとでもいうような論調で詰め寄ってきた。
「違うでしょ! 君の罪を肩代わりするために、君の姉さんである榊マコさんが代わりに保釈金を稼いできてくれたんでしょ!」
「あぇ?」
あっれー、世間ではそういう感じで情報統制されてる感じなのかなー? ていうか以前に苦し紛れに守矢にいった姉弟設定が変なところで活きている感じになってない?
完全に予想外の解答が飛んできたせいかロクな返事もできなかった俺だったが、朧木が続けざまに俺の姉という設定である榊マコがいかに素晴らしい人物かを語り始めた事にひとまず耳を傾けることに。
「君の姉さんは君の為に汚名を被ってまであらゆる賞金首をとっ捕まえては均衡警備隊に突き出し、そして保釈金を稼いでくれたおかげで君は表を歩いていけているんだよ! 分かっているかいそこのところ!」
「分かっているっていうか、あれ?」
そもそもあんたをでこピンで吹っ飛ばしたときには既に俺は女の子になっていたはずなんだが……まさか気絶をしているせいで記憶が混雑しているのか? それとも誰かが記憶をいじくって――って、魔人くらいしか犯人が思いつかないんだけど。
「とにかく、君は自分の姉さんがいかに素晴らしい人か一度知るべきだよ!」
「いや、どうやって知れば――」
「僕の後をついてくれば、いくらでも教えてあげるよ!」
そういって朧木はポケットから謎のピンク色のカードを、っておい待てそれは――
「この榊マコファンクラブ会員の僕がマコさんがいかに素晴らしいかを、そして弟という立場の君がいかにうらやましい立場にあるかを徹底的に教えてあげるよ!」
「ま、マジかよ……がくっ」