第三十四話 ブレイクスルー
「フハハハハハッ! 重力を司りし我が力と、第十二区画の超過学力が合わされば、まさに最強というに他は無い!!」
「全く、誰だよSランクにあんな代物を渡したのは……」
退路を断たれた今、俺は守矢を庇いながら何とか敵の猛攻をしのいでいた。周りには幾つものクレーターが創り上げられ、既にボロボロだった廃墟には大穴が開けられ今にも倒壊を起こしそうに思える。
「あの銃をどうにかしないと……」
エルモアが肩に担いでいる巨大なバズーカ砲の様な装置から放たれる重力グレネード。接触した後に半径五メートルをブラックホール級の重力の奔流でもって完全にすりつぶすという恐ろしい武器だ。
「第十二区画、行ったことないから何がなんだか――」
「フハハハハッ! 死ね!」
笑顔で死ねというのは悪党の専売特許。ならばこちらも正義の味方として、『反転』の力を使わせてもらうとしよう。
「死ね死ね言う前にさっさと撃てば?」
「言われなくとも撃ってくれるわぁ!」
俺の安い挑発に乗ったエルモアは改めて銃を担ぎ直して、照準をまっすぐに俺へと定める。
「さて、と……」
俺はたまたま足元に転がっていた鉄の棒を拾い上げると、某有名な選手よろしく袖をまくるような動作と棒を握った手をまっすぐ前へと突き出す。
「ふざけおって、血迷ったか!」
「ちょっと榊! 何をしているんですか!」
「いいから見ててよ」
エルモアは俺の姿を見て一言そう叫ぶと、何の躊躇もなく引き金を引いて俺の方へと重力球を撃ち放った。
「狙いはストレート……!」
身体能力を反転させた俺なら、相手のピッチャーに向けて球を打ち返すことも造作ないはず。そしてこの重力の玉が打ち返せないなら、打ち返せるという事象に反転すればいい!
「見えたッ!」
鉄の棒の打点ど真ん中。俺はまっすぐに飛んできた重力球を、まっすぐそのままにエルモアへと打ち返した。
「ッ!?」
「っ、やりました!?」
驚くのもつかの間、エルモアの身体は一瞬にして重力波の爆発に呑みこまれていく。
「やったか……?」
いや、自分で言うのもアレだが普通に生存フラグみたいなの立てちゃってしまっている気がする。だがここは敢えて言わせてもらおう。下手に重力波の炸裂した跡地にスパゲッティ状の肉塊が姿を現してもらっても困るし。
「……カハッ、ふはは、は……」
俺が事前にフラグを立てておいたお蔭か、あるいはエルモア自身に何かしらの対策法があったのか。いずれにせよ相手はまだ存命しふらふらになりながらも俺の前に立ちあがろうと――ってちょっと待て!
「あんた服ボロボロじゃん!」
「う、うるさいっ! 悪の軍人に恥じらいなど無いわ!」
その割には大事なところを両手で隠しているようで。しかも眼帯も外れているけど伊達なのね。
「悪の軍人……というか、家に本物の軍人がいる身からすれば別にあんたなんて生温く感じちゃうんだけど」
「榊の家って一緒に住んでいる人がいるんですか?」
「居候が二人。軍人とよく分かんないロリッ娘」
「通報しますね」
「しなくていいから」
ともかく、エルモアからは脅威を感じることはあっても危険性まではいうほど感じない。というより感じなくなってきている。
隻眼の軍人と言われればラウラを思い出すが、実際にあっちは片目失っているし、そもそも向けられてきた殺意が段違いだ。強さは確かにエルモアの方が圧倒的に上回っているが、事実ここまで戦ってきてそこまで生命の危機を感じない。本当なら重力に呑みこまれようものなら一瞬にして身体を無限引き延ばされた後に即座に無限に圧縮されて死ぬんだろうけど、それよりも『冷血』によって身体をぶった切られた挙句凍らされた方が万倍も恐怖を感じることができる。
「なんか、期待外れって感じ?」
「っ、き、期待外れじゃないもん!!」
急に口調が変わったがどうしたエルモア。
「私だって、本当は強いんだぞ!!」
「いやそりゃSランク認定されるなら強くて当たり前でしょ」
俺だってパッと見普段から遊んでて頭軽そうなピンク髪のエロい○ッチ少女に見えるかもしれないが、実際は『反転』っていうSランクの能力者だし。本当に強いって分かっているからそこまで自分から強いアピールしないし、そのせいでダストに絡まれているってのもあるかもしれないけど。
「多分守矢でも下手したら勝てるレベルかも」
「な、なんでうちが!?」
「なんでって、武器と元々の能力の性能に頼りっぱなしじゃその程度でしかないでしょ」
俺だって元々Dランクだったのが急にSランクになって、そこから色々と試行錯誤してきたつもりだ。唯強い力を持っていればいいワケじゃない。
「力をどう扱うか。それが本当の強さじゃないの?」
「ぐぐ……くそっ! ブラックホール!!」
エルモアは悔しそうにじだんだを踏むと、自身の背後にブラックホールをこじ開け始める。
「この場の勝負は預けておこう! 次こそ必ず勝つ!」
「悪党特有の捨て台詞ありがとうございます」
「首を洗って待っているんだな! フハハハハハハー!」
エルモアは捨て台詞をその場に吐き捨てた後、自身で作り上げたブラックホールの中へと消えていく。
「――ってちょっと待った! あんた達と取引をしている奴等って――」
俺の言葉も届かず、目の前で黒い渦は閉ざされてしまった。
「……直接乗り込むしかないか」
第十二区画。世界最高峰と言われる科学者の街に。
次は少し小休憩で(というより今作者が考えている大筋に追いついて来ていて次のアイデアを出す時間が欲しいので)番外編のぶれいく・おぶ・わーるどかもしくは今まで出てきた能力者の能力解説編になるかもしれません。