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第十八話 能力開花の禁忌

 とりあえず均衡警備隊バランサーに通報して来てもらったはいいが――


「――何であたしまで罪人扱いされなくちゃいけないんですか……」

「そりゃ都市名簿のリストに名前が一切無い奴を素通りさせる訳にはいかないだろ」


 現在、俺だけが何故か取調室にいて、そしてバランサーの取り調べを受けている……あ、いや、今そこの名簿にある榊真琴が俺です。というか今から反転させてもいい位なんですけど。

 でも今から反転したところで、申請もしていない本当の意味でのDランクが何で能力を持っているのかって話になりそうで尚更面倒なことに。


「一体何の目的でここにいる? 許可証も無し、移転届も無し、こんなところで何をするつもりか知らないが、俺の目はごまかされないぞ」


 外で言うところの警察に近い服装をした男が、俺に詰め寄る。うーん、女の子だからってそこは手を抜いたりとかそういう事はしないのね。


「あ、あたしは最近こっちに移転して来たばかりだから、まだ手続きとか何も――」

「手続きは外でできる。というよりも、外でしてきてから入ってくるのが通常だ。なのにどういう手でここまで来たというのだ」


 都市の中で能力が発動したのにまだ報告していないというのが正解です。


「仕方ない、あの男が持っていたカプセルも気になるが、君も一旦留置所に――」

「その必要はねぇよ」

「誰だ!? ――って、緋山さん!?」


 取調室のドアから大きな音を立てて開けて入ってきたのは、澄田さんの彼氏(?)であり、力帝都市におけるSランクである緋山さんだった。


「年下にさん付けは止めてくれっていっているじゃないすか」

「で、でもSランクの方を呼び捨てするなんて――」

「言っておくが、今お前が尋問しているのもSランク候補の奴だぞ」

「ひぇ、ひぇええっ!?」


 何でこんなところに緋山さんが――って、そんな疑問は置いておくとして。この人俺がSランク候補だと分かるなり一気に態度を変え、まるでごまでもするかのように丁寧な態度でもって事情聴取とはいえない事情聴取を始める。


「で、では改めまして榊マコさん、状況を最初から説明していただけますか?」

「状況も何も、そこの男がいきなり話しかけて来て、目の前でカプセル飲んだらいきなり超能力が使えるようになったってだけの話なんだけど」

「それでもって、副作用か何かは分からないが目が充血し、鼻血が出てきていたと」

「端的に言えばそうなりますね」

「うーむ、分からないな……」


 バウンサーの人によれば、能力を強制的に使えるようにする薬なんて聞いたことがないとのこと。それに加えて本人も言っていた通り、本当にそのカプセル一つでBランク級の力を得ることが出来るとなると、この都市のパワーバランスが崩れる危険性があるのだという。


均衡警備隊バランサーの仕事はこの都市の力の関係を保つこと。それがカプセル一つでこんなことになるとは……」

「そのカプセルはもうないのか?」


 緋山さんが取り調べの男に対して問いかけると、例の男が持っているカプセルは残り一つで、それを今科学解析班にまわしているのだという。


「チッ、癪だが魔人にカプセルのことを調べてもらうのも手だと思ったんだが」

「今うちの優秀な化学班で解析しておりますので、その後にお渡しする形なら……」

「じゃあそれでいい。とにかくこの件は色々と嫌な予感がする――」

「解析おっわりましたー!! ヘッヘーン! この解析力Aのリリーにかかれば簡単なことデス!」


 次に取調室のドアをまるでけ破ろうとするかのような勢いで入ってきたのは、俺や緋山さんよりさらに年上と思われる、金髪の外国人の女性であった。白衣を身に纏うその姿からして恐らくさっき言っていた化学班の人間だとは予測できるが、その気崩れた姿はどうにも信用に足るのかは怪しい。


「どうデス!? このデータ!?」

「ん? ……んん!?」

「なんだ!? どういうことだ!?」


 リリーと名乗る女性からコンピュータ内のデータを見せてもらった男は唸るような、驚く声を上げる。

 そしてそれにつられて、緋山さんもコンピュータの画面を覗き込んだが――


「――さっぱりわからん」

「何だこれは? 棒グラフが上下しているのと波がうねうねなっているのとで……あと英語は分からん」

「な、なんじゃそりゃ……」


 とんだ茶番に俺は一気に力が抜けたが、リリーの開設を聞くなり、これが意外にもとんでもない事だという事に気づかされる。


「Hmm……これは脳波を視覚化したもので、カプセルを服用する前と後とで脳波の波形の違いをくらべているんデスよ」

「脳波の……波形?」

「イエース。貴方達変異種(スポア)は、研究により脳の構造が普通の人間ヒューマンとは違う事が明らかとなっていマース……Oops,これは情報クリアランスA以上の情報デシタが……まあそれ以外のことは分かっていまセンので大丈夫ですネ」


 おい、今さり気なくとんでもないこと言った気がするぞ。


「それはさておき、この薬は一時的に脳の形状を変形させ、脳波を強制的に組み替えているのデース。ですから鼻血が出たり、目が充血したりといった副作用が出ていマース。最悪後遺症残るレベルネー」


 そっかー、だから鼻血が――って!


「それマズいんじゃないんですか?」

「ウン。長期にわたって服用し続けたら確実に死ぬネ」

「おいおい、そんなもんが出回っているなんざ聞いてねぇぞ」

「バランサーにもそんな情報は一切入って来ていないぞ」

「そうだとするならば、これは初めての事件サスペンスになるネ……」


 なんてこった。興味本位でバランサーにつきつけたらとんでもないことが発覚して、しかもそれを知ってしまった。


「これは当分情報クリアランスAにしておくべきでしょうネ。状況次第ではSに上げてもいい位に」

「かもしれないな……緋山さんに、榊さん。この事はくれぐれもご内密に……事実が確定次第、公に情報を流しますので」

「ああ、分かった。で、例のカプセルは?」

「Mr.緋山。アレはまだ解析を進める必要があるから渡せないヨ」


 リリーからそれを聞くなり、緋山さんは少し残念そうな表情を浮かべる。しかし気持ちを切り替えた様子で取調室のドアに手をかけ、外へと出ようとする。


「そうか。情報は流さない分、こちらで独自に動いても構わないか?」

「構いませんが……くれぐれも気をつけて。現時点ではBランク級の力しか発揮されないかもしれませんが、最悪Aランク、Sランクまで――」

「バカかてめぇ。付け焼刃が本物に勝てる訳ねぇよ」


 右手から溢れんばかりの熔岩を生みだすと、緋山さんはまるでその場にいる全員を威嚇するかのように一言だけ言い放つ。


「訓練もしていない新米が『猛り狂う炎(ベルセルクブラスト)』に勝とうなんざ、百万年早いっての」


 ……緋山さん、そのセリフカッコつけのつもりかもしれませんが使い古されて逆に寒いです。

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