第二十九話 離脱
――といった感じで紆余曲折あって、俺とゲオルグはそれぞれ大罪ライダーとしてほんの少しの期間だけ暗躍した後、例のレッドキャップと榊が名稗とかいう奴と争っている所に自分から巻き込まれ、そして操り糸が取れた所から話は再び動き始める。
「っと、ようやく操り糸が無くなったか」
「何やってんですか全く……」
ここだけの話砂になれば操作を回避できたんじゃないかという今更な考えを思いついたが、敢えて何も言うまい。言っても恥をかくのは分かりきっている。
だがここしばらくライダー生活をして分かった事がある。魔人に言われてVPに助けの知らせを伝えるアプリを入れてみたが、そのせいで四六時中助けを呼ばれては出動する羽目となり、俺としても疲れが出てきていたところであった。
「ったく、やっぱりライダーはテレビの中だけで十分だな」
「そもそも高校二年になってもライダーを見ているのが――」
「何か文句でもあるのか?」
「いえ何もありません」
こいつも日朝を見る意味を理解していないのか、ならばいずれ分からせてやる必要があるだろう。俺達は遊びで日朝ごっこやっているワケでもないってこともな。
そんな感じで熱意を持って榊の方を見やっていると、榊は俺から目を逸らすための口実を見つけたかのようにゲオルグの方へと視線をずらす。
「そういえばどうして『冷血』とつるんでいたんですか?」
「あ? ああ、それはこの前の戦いが結局決着をつけられなくてな。いつでも戦えるように連絡先を交換してたんだよ」
いつからそんなに仲が良くなったんだと言わんばかりの驚きようだが、別に仲が良くなった訳では無い。あくまで一時的に手を組んでいるに過ぎない。
そして肝心のゲオルグはというと……さっきからあの赤い帽子を被った奴と戦っているようだが、あれが噂のレッドキャップか。後でサインをもらっておくとしよう。
「『冷血』はどうするんですか?」
「あれは放っておいてもいいだろ。いずれ戦いに飽きて帰る」
「なんじゃそりゃ」
といった感じで俺はその場から踵を返し、現場を後にしていく。
「……もうこのベルトもいらねぇな」
俺の内に潜む『大罪』。それを制御するためのベルトといったが……実際のところ、こいつ無しでも戦えるようになることこそが俺の目標だ。だからこそこのベルトは捨てるべきだと俺は考えた。
「ヒーローごっこも今日限りだ。あばよ」
「あばよじゃねぇだろ。サッサと返せ」
「いッ!?」
物思いにふける暇もなく、俺の目の前に例の魔人が男の姿で立ちふさがっている。
「なんだァ? 女の方が良かったか?」
「いやそういう問題じゃねぇよ……」
何の前触れもなく目の前に現れた上に思考を読んでくるとは、相変わらずやりたい放題だなこの人は。
「クククク……さて、そろそろテメェも砂になって離脱しておいた方がいいぞ」
「どうしてだ?」
魔人は含み笑いをこらえながらも、耳を澄ます素振りを見せながら俺に向かって意味深な言葉を吐き始める。
「ナァ、聞こえるだろ?」
「何がだ?」
「ピーポーピーポー、均衡警備隊の到着だ」
「だからどうし――ッ!」
そうか、そういうことか!
「もしかしてあいつが、『吸収』が来るってことか!?」
そうなれば少しマズいことになる。恐らく目の前から消えた後に再びこんな面倒事を引き起こしているとなれば、今度こそ問答無用で収容されかねない。
「そうだ、『冷血』……ゲオルグは――」
「ヤツならとっくに離脱している。それよりテメェの心配した方が身のためだぜ?」
「全く、ついてねぇなオイ!」
俺は舌打ちをかました後に即座に砂へと変わり、空高く舞い上がっていく。
下を見やれば警備隊の車両が既に道路の封鎖に取り掛かっており、車両の一つから例の大男が姿を現そうとしている。
「チッ……何とか逃げのびたか……」
榊は大丈夫なのか。あの賞金首を捕まえたことで帳消しにされるのか。心配が残る最中、俺はその場を跳び去っていくこととなった。
これで緋山励二視点は終了です。次に魔人パート、最後にアクセラパートになります。この二つはかなりギャグ要素を強くする予定です(というよりこの編自体をギャグ寄りにしたかったのですが、次の編の伏線ばら撒きをしているとどうしてもバトルが多くなってしまいます(´・ω・`))。