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第二十七話 Magma Diver

 壁の外側の人間には想像できないだろう。極寒の地上に流星群が降り注ぐ光景など、炎が吹き上がった次の瞬間から凍りつく大地など。

 いまや俺の劣勢は目に見えて明らかだった。腹部の氷は外の気温が下がるのに呼応するかのごとく俺の身体を徐々に侵食していっている。その上にホームグラウンドである地面には絶対零度の氷が張られているせいか噴火を引き起こすことができずにいる。


「まさかここまでやるとはなぁ!」


 噴火の勢いを使って両足で跳躍をして何とか相手の攻撃を回避しているが、この状況で砂になろうものなら一気に全身が温度低下で凍りついてしまうことは目に見えている。かといってマグマになろうとしても、腹についている氷の主導権が『冷血』に握られている今、この氷が対処できるかどうかに疑問が残ってくる。


「何かあるはずだ……考えろ、考えるんだ……!」


 俺としてはまだ戦える、戦意は失っていないつもりだった。しかし『冷血』は俺の意に反してヤる気を無くしているのか、刀を納めるとコートの内ポケットからVPを出しては左手を静かに動かしている。


 冷血:この程度で手も足も出ないとは、情けないな

「何だと……?」

 冷血:腹部の氷は既に心臓にまで手を伸ばし始めている。貴様が心臓停止で死亡するのも時間の問題だ。


 言われてみれば確かにそうかもしれない。腹部を覆っていた氷は更に浸食を続け、俺としても体の動きがだんだんと鈍ってきている。更に言えばこの分厚い氷から噴き出すマグマのイメージが湧かない。というよりできたとしても即座に凍らされる気もする。

誰の目から見ても俺の方が劣勢に立たされている状況で、『冷血』から意外な提案が飛び出してきた。


 冷血:そろそろ降参したらどうだ?

「降参だと?」

 冷血:……所詮、ヒーローなど力の前ではこんなものだ


 『冷血』はまさに冷めたような視線で、俺の方を見下している。まるで英雄ヒーローになることなど、単なる子供だましだといわんばかりに。


「てめぇは何が言いてぇんだよ!」

 冷血:いい加減子供(ガキ)みたいな夢を見るのは止めろということだ

「…………」


 ガキみたいな夢を、見るなだと……?

 ……何を言っているんだ、こいつは。


「……『冷血クルエル』。いや、ゲオルグ」


 てめぇは一つ間違っている。大きな大きな間違いを。


「俺達は能力者だぜ? 能力者ってのはそうであれと思わなかったら能力を発動できないってことは知っているよな?」

「…………」


 能力者にとって最も必要なのは想像力、そしてバカにしていた子供ガキが持っている様なとんでもない発想力だ。

 俺が日朝を見る理由を教えてやろう。それはな――


「ガキみたいな発想力を持てなくて、何がSランクの能力者だ。そもそもこんな氷も……違うな、俺が勝手に決めつけているだけだッ!」


 そもそも相手の口車に簡単に乗った俺がバカだったってだけの話だ。


(バーニング).J(ジャケット)!!」


 全身を一気にマグマに変化させ再び元の身体へと戻れば、もはやそこに氷など存在しない。


「……ッ」


 冷血:大人しく凍り付いていれば済んだものを。


「誰が凍りつくか!! 俺はマグマだ! この世界を這いまわる超高熱の熔岩なんだよ!!」


 俺の言葉を耳にした冷血は、もはやここから先取り出すことすらやめるという意味であろうか、最後通告メッセージを送り終えるとそのままVPをしまい込んだ。


 冷血:もうここから先返事は無しだ。本気で来い

「言われなくてもそのつもりだッ!」


 地の利を取られた現状、得意の噴火は使えない。だがこの身一つあれば俺は戦える。俺は何度も立ち上がれる!!


「炎熱系最強の能力者を、緋山励二を舐めんじゃねぇぞ!!」

「…………」


 俺は再び全身をマグマで包み込むと、そのまま分厚い氷の張った地面へと突っ込んでいく。


「ッ!?」


 そして地面の奥底から、俺は能力の最大限でもって全てを吹き飛ばす炎の柱を地上へと打ち上げる。


H(ホライゾン).B(バズーカ)ッ!!」


 俺が飛び込んだ地面が大きく隆起し、そこから今までにない大規模の噴火が発生する。


「クッ!」

「これで終わりじゃねぇぞ、C(チェイン).C(クリムゾン)ッ!!」


 F(フレイム).S(サーペント)をより高熱に生成した上で更に取回しをよくした熔岩の鎖を手に取り、俺は凍った地面を削りながら高熱の鎖を振り回して『冷血』へと突進して距離を詰めていく。


「流石のてめぇもこれを断ち切ることはできねぇだろ!?」


 俺の宣言通り、熔岩でできた鎖は切断しようと力を込めれば込めるほど低温の氷刃と相殺して互いに消沈する。しかし俺の熔岩は冷え切ってもあくまで岩石としてそのまま鎖の一部として残されるため、向こうは氷刃を一から再生成するのに体力を消耗し続けるのに対して、こっちは岩石化した鎖が断ち切られるまでは鎖を振り回し続けられるという点で優位に立てる。


「……ッ!」

「そぉらよォッ!!」


 俺は地面に五点鎖を突き刺し、そのまま鎖でアスファルトごと地面をひっくり返して『冷血』の方へと叩きつけようとした。しかし氷刃の切れ味は地面すらも真っ二つに切り裂き、そして微塵に切り刻んだ直後に今度は『冷血』の方から攻撃を仕掛けてきた。


「ッ!? 何だとクソがッ!!」

「ッシィァッ!!」


 凍った地面に氷刃を突き刺し、そのまま凍結させる。しかし『冷血』の正確無比な刺突は鎖の穴を通過してそのまま地面へと接地され、凍った大地によって完全に固定されていく。


C(チェイン).C(クリムゾン)が封じられたか……!」

「アァッ!!」


 今度は反撃といわんばかりに『冷血』が刀を横に薙ぐと、風圧に乗って吹雪の刃が俺の元へと届けられる。


「がはァッ!!」


 (バーニング).J(ジャケット)による炎の衣の上でさえ、冷気による斬撃の乗った衝撃波は俺の身体に深い傷を残して通り過ぎ去っていく。


「ッ、まだまだァ!!」


 氷山が噴火しないなんて誰が決めたァッ!!


E(アース).E(イーター)ァ!!」


 両の拳で地面を叩きつければ、いたるところから噴火と火山弾が吹き上がる。

 一瞬にして銀世界から極限の熱空間へと、俺の世界へと塗り替えられていく。


「…………」

「どうだ? 降参しなくても、てめぇを追い詰める方法なんざいくらでも思いつくぜ?」


 俺の挑発に近い発言に感化されたのか、『冷血』は再び腰元の刀に手を添えて、最大限の前傾姿勢を取り始める。


「……どうやら、一撃で決めるつもりのようだな」


 恐らく最初の高速の居合抜き――三段の攻撃を一撃に絞って、本気で来るつもりのようだ。


「……B(バーン).B(ブレード)


 いいだろう。その勝負に乗ってやる。ただし勝つのは俺だ。

 互いににじり寄り、次の一撃を放とうとした瞬間――


「――諸君、そこらへんにしておきたまえ」


 それまで、まったく人の気配などしてはいなかった。俺達以外にこの場にいるはずがない、いたとしてとっくの昔に戦いに巻き込まれてしまっている可能性がある。それが突然、俺達の間に全くの無傷の男が一人、手に氷の刀と熔岩の剣を持って割って入ってきている。


「誰だてめぇ」

「全く、第十一区画に勤務途中で二人の少年を補導することになるとは。哀しい世界だ」


 ――この力帝都市は。

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