第二十五話 しつこい男は嫌われる
『冷血』の戦いから数日たった後の平日の昼休み。いつものごとく屋上で俺達が飯を食っていると、榊の口から意外な言葉が飛び出てくる。
「この前、レッドキャップとかいう奴が現れて散々な目にあったんですよ」
「レッドキャップ、だと?」
俺は最初榊の言葉に耳を疑った。レッドキャップといえばネットの一部の界隈で噂になっている本物の『英雄』って奴じゃなかったか?」
「何があったんだ?」
「それがですね――」
聞いた話によればムカつく一般人をでこピンで軽くいなしたところを正義のヒーローレッドキャップと名乗る男に見られてしまい、悪役と勘違いされた挙句に均衡警備隊にお縄になり、一千万の保釈金を稼がない限り罪人扱いされるのだという。
「――っていうことがあったんですよ。一千万分の賞金首捕まえれば釈放ですけど、面倒なんでこのまましばらく身を隠すってのもアリな気がしてきたんですよ」
「……お前、レッドキャップに会ったのか?」
俺は改めて聞き返した。榊一人だけがあの都市伝説としか思えない英雄にあっただなんてうらやまし過ぎる。
「まあ確かに名乗っていましたね。とんでもない身体能力でしたよ。オマケにこっちの能力が通用するはずなんですけど通用する自信がなくて、直接は――」
「お前相当運がいいぞ。あいつの目撃証言はあっても、写真とか映像としては中々残っていない幻のヒーローらしいからな」
少々興奮気味に口早に言ってしまったがこいつに日朝見ている組だとバレていないだろうか。そう思った俺はごまかすためにすぐに目を逸らして詩乃に作ってもらっていた弁当をつついていると――
「おや? まさか緋山君、羨ましかったりするんですか?」
之喜原のヤローがここぞとばかりに冗談からかいの質問を投げつけてきやがった。こいつ明らかに目が嘲笑っていやがるから後でぶっ飛ばす。
しかしこうなったら仕方ない。少々恥ずかしいがカミングアウトするしかないのか……?
俺は気恥ずかしさに顔を赤くしながらも、之喜原がぶつけてきた質問に対してぶっきらぼうに答えを返した。
「ま、まあ、珍しいもんを見れたのが羨ましいかと言われたらそうだけどよ……」
しかし榊は事の重大さが理解できていないのか俺の言っていることを冗談だと思っているようで、苦笑を交えながらもこう言い放った。
「でもそんなに羨ましいものでもないと思いますよ。当の本人が言うんですから間違いないですって」
それは流石に俺としてはカチンとくるところがあるからして、少し意地を張ってこう言い返さざるを得ない。
「でもよー、毎週日曜朝八時にテレビをつけている勢からすれば割とうらやましいことだぞ?」
「おや? この前は昭和の話をしていませんでしたっけ?」
「俺は根っからの平成っ子だこの野郎」
ってやべぇいつもの奥田の前でのノリの感覚で色々とバラしちまった。高校二年にもなって日朝見ていますなんて知られたら俺の先輩としての尊厳が危ない。危機感を覚えた俺は急遽話を変えつつもレッドキャップに会うべく、榊に対して交換条件を示してみることにした。
「よし、俺もその賞金稼ぎに協力するぞ。その代わり」
「その代わり……?」
俺もベルトがある今なら、こうすることができるはず。
「レッドキャップに俺も赤で参加できないか聞くからな」
◆◆◆
昼休みに榊に冗談交じりで交換条件を呑んでもらった日の放課後、俺はいつものごとく詩乃のクラスの授業が終わるのを下駄箱で待っていた。それにしても榊のツッコミは冴えていた。俺も赤で向こうも赤だと被るとは言われるまで気が付かなかったぞ。
そんな感じで日も傾き始める中下駄箱にもたれかかってVPを触っていると――
「……はぁ、流石に日を空けずに何度も来るのはダサいと思うんだが」
「…………」
冷血:あれで終わりだと誰が決めた?
「勝ちだとは言ったはずが……」
終わりと言わなければ延々とこいつは闘りあうつもりなのかこいつは。流石は殺し屋とでも言いたいところだが、その殺し屋をやめる第一歩としてしつこい追撃は控えることを薦めるぞ――と思っているのもつかの間、『冷血』は静かに腰元の刀に手をかけてこの場で即座に戦闘しようとする姿勢を見せ始めている。
「仕方ねぇな」
詩乃には先に帰っておくようにメッセージを入れておくか。