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第二十二話 更生物

前回が分かりにくいかと思われましたので、以降『冷血』のメッセージ(台詞)は頭に冷血:を付けるようにします。

「即刻終わらせるぞ」

「…………」


 俺が拳を鳴らして戦う姿勢を見せると、『冷血クルエル』もふざけたメッセージを送りつける手を止め、腰元の柄に手を伸ばし始める。

 この街ではよく見る風景であり、そして均衡警備隊バランサーの案件としてよく昇ってくるのがこのDランクの中でも犯罪に手を染める者――『ダスト』と呼ばれる連中による犯罪や事件の数々だ。ダストの連中を捕まえれば均衡警備隊から感謝状程度は送られるだろうが、賞金首の時のように金が貰えるわけでは無い。もっとも、お金なんてSランクの俺には必要のないものだが。

 だが目の前でこうも派手に暴れてもらった上に、今から向かおうと思っていた映画館を爆破されてしまっては見過ごすわけにもいかなくなる。


D(デザート).C(ケイブ)ッ!」


 俺はそのまま満足げに逃走を図る車の一つを蟻地獄にハメて身動きを取らせなくすると、『冷血』は居合の要領で腰元の刀を抜刀し、その勢いで巨大な氷刃を飛ばして車を真っ二つに斬り裂いた。


「うわぁっ!?」

「な、なんなんだ!?」

「大人しくしてろバーカ、っておい何やってんだよ!」


 『冷血』が止めを刺そうと車の運転席の首の高さで刀を更に横に振るおうとしたが、俺はとっさにマグマに変化させた右手で氷刃を掴んで熔かすことで妨害に成功する。


「一般人をそう簡単に殺してんじゃねぇ」


 冷血:えぇー、塵は塵らしくここで華々しく散らせてあげようよぉー


「馴れ馴れしい文面で物騒な言葉送ってくるんじゃねぇ!」


 つーかこいつ左手でも慣れた手つきでVPを扱っている辺り両利きなのか? とまあ今はそんなことなどどうでもいい。問題はこの殺し屋あがりの狂った人間をどうすればまともな人間にできるかということだ。


「とりあえず通報しておいたよ、励二」

「悪いな、詩乃」


 一般的な常識を持たない『冷血』に対し、頼まなくても自分で察して先回りしてくれる詩乃。一体どこで差がついたのか――というより、詩乃がまるで母親かといわんばかりに俺の行動を先回りして考えてくれるだけなのだが。

 ……別に母親がいないからそういうのに飢えているワケじゃないぞ。


「…………」


 そんな感じで色々と考えを巡らせていると、俺の頭に一つの名案(?)が浮かび上がる。


「もしやこの手が……」

「励二どうしたの?」

「いや、悪いが映画館がなくなっちまったから映画館デートは無しだ。代わりにひなた荘に戻って録画していたテレビを一緒に見るぞ。それとお前も」


 俺がここで指を指したのは詩乃ではなく『冷血』だった。いや別にそっちの趣味に走ったみたいな冷めた視線を送るのは止めてもらおうか二人とも。俺の目的はもはやデートではなく、いかにしてこの『冷血』を血の通った真人間に戻すかに変わっている。


「とにかくついてこい。お前にまともな人間の道って奴を教えてやる」

「なんか嫌な予感しかしないんだけど、大丈夫かな……?」


 冷血:正直バトル出来ないなら帰ってもいいっすか?


「駄目だバカ野郎」



          ◆◆◆



 そうして俺は詩乃と『冷血』を自分の部屋に招き入れると、テレビの下のプレーヤーをリモコンで操作して、予め録画しておいた一本のテレビ番組を再生する。


「あれ? これってもしかして――」

「これを見れば、お前も少しは考えを改めるんじゃないかと思ってな」


 そう思って再生したのは、あの日曜朝に放映される例のアレの第一話だった。


「この主人公はな、元はお前みたいな悪逆非道な人間だったんだよ」

「はぁ、励二ってばもう……」


 何故か詩乃は呆れているが、俺の予想に反して『冷血』の喰いつきは思いのほか悪くは無かった。


「…………!」


 悪事に手を染めていた青年が、変身ベルトを手にすることで正義のライダーへと変貌する。そして正義のために授かった力をどう使うのか、このままの悪に染まった自分が正義を執行する者になるとはどういうことなのか。善と悪、様々な葛藤がこの特撮には込められているのだが――いまいち詩乃には受けが悪いようで、相変わらず詰まらなさそうに見ている様子。

 とはいっても詩乃の方こそ裏番組の魔法少女者を見ているくせに。


「どうだ? 少しは自分の生き方に疑問が――って、えぇ……」


 まだ一話しか見てないのにそんなに感動する部分あったか……? 俺ですら十話見て納得したレベルなのだが。

 そう思っていると俺のVPが静かに二回振動する。

 冷血:【速報】俺、正義の味方になることを決意

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