第十七話 能力の使い方 ~基本編~
――正直ここまで歩きまわされるとは思っていませんでした。
「もう歩けないかも……」
「詩乃さん! うちはまだまだ紹介し足りないです!」
とはいってもしばらく着回しのローテーションは長いものとなりそうなくらいに服を買ったんですけど……まあ買ったもの全部一旦澄田さんの所に届けてもらえることになってるからいいけど。
「という訳で次は――」
「次は俺について来てもらおうか」
俺達が後ろを振り向いた先にはなんと、ダストらしき不良が一人、そこにいる。
「まーたダストですか。もちろんうちがぼっこぼこにしますけど」
「はぁ? ダスト? あんな無能の雑魚と一緒にすんなよ」
「だったら何ですか!?」
「俺か? 俺はな……」
男の一人はなんの力も持たない者を馬鹿にするように言いながら、ポケットからカプセル状の薬品を取り出し、口に含む。
すると――
「……むっ!! むムムム……かッ!!」
男が全身に力を入れた瞬間、男の足元周囲の地面が割れ、アスファルトの欠片が男の周りを舞う。
単純な空気ではなく、まるで液体の中を漂うがごとく、欠片は男の周りを漂い続ける。
「……っとまあ、俺はDランクなんかじゃねえ、れっきとした能力者だ!」
いやいやいや、明らかにさっき怪しい薬飲んでいたし。しかも今ちょっと目が血走っていてヤバいんじゃない……?
「今の俺はCランク、いやBランクの力はある。守矢要、てめえと同じ力なんだよ!」
「だったら試してみますぜ!!」
そんな簡単に挑発に乗っちゃって大丈夫なのか? と思ったが守矢なら大丈夫そうに思えなくもない。
「これでどうですか!」
守矢は早速石塊を生成し、それを渾身の力を込めて蹴り飛ばす。
「はっ! 無駄なんだよ!」
しかしそれも男が片手で払いのけるような動作を取ると、岩も一緒になって横に反れてゆき、近くにあるショーウィンドウへと弾き飛ばされる。
ガラスが割れる音が鳴り響く中、辺りにいた一般人はこれから始まる異常事態を前に散らばり始める。
「どうやら少しはやるみたいですね」
見る限りだと、念力? それとも別の何か?
よくは分からないが、あのカプセルのせいでこうなったと予想するのは簡単だ。
「はっ! それだけじゃねえぞ!」
男は更に地面のアスファルトを持ち上げ、そのまま俺達の方へと投げつけようとする。
「この力さえあれば……俺もてめえらと対等にっ……いやそれ以上に!!」
男は充血した目を更に赤くし、そしてついには鼻血を出してまで更なる力を引き出そうとしている。
「うぅ……俺はこの位じゃ倒れないぞッ!!」
いやもう既にフラフラじゃないですかー。ってかこれ以上続けさせるとマジでヤバいかも。
「ねえ、交代していい?」
「榊、どういうつもりですか?」
「いやこれ以上下手に暴れられたらぶっ倒れるでしょあいつ」
「別にいいじゃないですか。うちらには関係ないじゃないですか」
俺は原因を探る必要があると思うんだけどなあ。
「とにかく交代して」
「分かりました……」
少し不満そうだけど、ここで生かしておかないと肝心の情報を掴めなくなるかもしれないからここは交代させてもらおう。
「次、あたしがいく」
「……くくっ、おいおい、あんたのでっかいおっぱい削ぎ落しちまっても文句言うんじゃねえぞ?」
下劣な事しか考えられんのかこの男は。
「とにかくきなよ」
「じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ!!」
男は飛びかかるように俺へと襲い掛かるが――
「……無駄」
「なぁっ!?」
飛び掛かった男が、飛びかかった速度と同じ速度で跳ね返される。
「力の作用するベクトルの反転……とか言っちゃったら色々とヤバい気がするけど、それが今のあたしに働いている能力」
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!!」
そうやってがっつこうとすればするほど、自分の力で跳ね返されるんだけど。
「ぐはぁっ!?」
「……じゃあもう一個面白い事するよ」
今のあたしの筋力は、お世辞にもサッカーボールを遠くまで蹴り飛ばすことはできないくらいに弱い。
だけどこの状況を反転させると――
「ごほぁっ!?」
「うん、軽く蹴っただけでお店の壁にめり込んじゃうほどに強い力になっちゃう」
よーく考えたらこの能力は並大抵じゃ勝ち目ない能力なんだよね。まだランクは決まっていないけど、恐らく緋山さんの言う通りAランクはいけそうな気がしなくもない。
弱い力も、反転させれば強い力になる。これってなかなか強い気がする。
「……さて、問題の薬の件なんだけど――って、のびてるし」
さっきの一発で気絶しちゃった感じかー。じゃあ仕方ない。
「また均衡警備隊に連絡取らなくちゃいけないなんてねー」
しかも今回こっちの争いごとだから、多分事情聴取されるんだろうなぁ。
そう思いながら、俺は自前のVPを耳に当てることとなった。
うーむ、反転させるとなると必ず突き当っちゃう課題です。これを無くして反転の力の応用は中々難しいと思います。