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第十五話 よくある展開をふんでくれる辺り敵も空気を読んでくれています

 一千万円分の賞金首を捕まえると宣言してから約一週間経過したところで、俺の端末には何度も何度も最速の電話が飛んでくるようになった。街中を歩いている時でも、命知らずのダストに絡まれている時でもお構いなしにかかってくる。


「はぁ、面倒くさいことになってきたな。こうなったら、着信拒否でもしよっかな」

「どうしましょうか? 私が説得するのも――」


 こうして家でのんびりしている時でも――って、ショットガンを持って説得って一体何をするつもりなんでしょうねぇこの人は。

 とにかく、そろそろ均衡警備隊もしびれを切らしてきているって認識で合っているとみてよさそうだ。しかし今から一千万を即座に集めるとなると、やはりあの『喰々《イートショック》』を見つけ出して捕まえた方が恐らく一番手っ取り早い。


「他に一千万を超す賞金首となると、あたしと同じSランク級しかいなくなってくるし……Sランクと戦うのはしばらくいいかな。『冷血クルエル』しかり、緋山さんしかり」


 勝てないワケじゃないんだけど、こっちだって無傷で済む可能性は低くなってくるし。そしてなんといってもあの『喰々《イートショック》』にぎゃふんと言わせてやらないと気が済まない。


「……ちょっと街を歩いてくる」

「何時頃のご帰宅の予定でしょうか? はっ! 私もついていくべきで――」

「ちょっと野暮用を思い出しただけ。夕飯までには帰ってくるから」

「……承知しました。お気をつけて」


 ラウラが深く頭を下げて見送る中、俺は静かに玄関のドアを閉じてマンションの部屋の外へと出る。俺の部屋はマンションの最上階にあることから、一階まで降りるにはエレベーターを使った方が手っ取り早い。


「まっ、そんな事をしなくても最上階と一階を反転させれば終わる話なんだけどね」


 この時はそんなことを考えて、悠長にもエレベータ―の呼び出しボタンに手をかけ、無防備にエレベーターの扉の前に立って待っていた。


 ――そしてそれこそが今回のある意味一番の失敗となることを、この時の俺が知る由もなかった。


「……妙に来るのが遅いな」


 確かに一階から二階に上がってくるのが遅かった事を、俺は認識できていた。問題はそれ以降、一度も他の階に止まっていそうな雰囲気など無かったということだ。


「…………」


 その時の俺は特に何も考えずにぼーっとしていた。ただそれだけで思考が停止されていた。

 再度思考が開始され、加速したのはエレベーターのドアが開いてからだった。


「ハァーイ、榊マコもとい、榊真琴ちゃーん」

「ッ!? ハァ!?」

「宣言通り、会いに来たよーん。やっぱり信じるべきは運命の赤い糸ってやつかなぁ?」


 あり得ない。ここに来るときは必ず榊真琴としてしか来ていないはず。それなのに、どうして――


 ――俺の目の前に、名稗閖威科が立っているというんだ!?


「くっ……!」


 即座に振り向き、俺はエレベーターを避けて階段の方へと走り出す。


「おんやぁ? どうして逃げるのかなー?」


 後ろから名稗が追ってくるが、足音を聞く限り走ってくるというより歩いて追ってきている様子。


「これなら……!」


 認識を外しつつ反転からの、反対側に見えるマンションのベランダの植木鉢と自分の位置を反転!


「……あれぇ?」

「鬼さんこちら、って感じ?」

「アッハッハ、このあたしを相手に鬼ごっこって、中々面白い挑戦状じゃなーい?」


 当然のことながら名稗は即座にワイヤーを反対側のマンションへと飛ばし、手すりに括り付けてこちらへと飛んでくる。


「まさか第十四区画を抜け出てくるとは思ってもなかった!」

「そりゃ愛する人の為ならいくらでも檻を抜けでてくるよん」

「そりゃそうですか、っとぉ!」


 ひとまず場所を移すために、俺は次々と位置を反転させて人のより多い区画へと――人ごみの中へと移動していく。


「おっとぉ、こんな大衆の前で公開恥辱プレイがお望みとか中々の変態ぶりだねぇ」

「これだけの観客の中であんたをブチのめした方が、今後の犯罪抑止になるかなって思ってさ!」

「ふーん、そりゃあたしを倒せればって話だよね?」


 歩行者用の信号が青になった瞬間――つまり交差点にまだ誰も侵入していない状況の中、俺と名稗はその中心に降り立つ。

 倒すための算段ならここに来るまでに立ててきている。後はどのタイミングでかますか――


「待てぇい!!」

「……はぁああああああああああ…………!」

「あー、何か……ご愁傷様」

「このレッドキャップがいる限り、この世に悪は栄えない!!」


 どうしてこうも横やりが入ってくるのか。しかもまあ交差点の信号の上に立ってカッコよく登場してもらっちゃこっちよりそっちの方に注目が集まっちゃうわね。


「……こうなったら、このアホヒーローごとぶっ飛ばすに他は無い――」

「――ちょっと待てよてめぇ等」

「ッ!? なっ、ななな、なんで緋山さんがここに!?」


 しかも噂をすればと言わんばかりに『冷血クルエル』ことゲオルグ=イェーガーまでいるし! ていうかあんた等敵対していなかったっけ!?


「……変身ッ!」

「……ッ!」


 緋山さんとゲオルグはほぼ同時に自分の心臓部分を右手のひらで強く叩き、まるで某バッタ怪人を彷彿とさせるような変身を遂げ始める。


「大罪ライダー・ジェラス!!」

「……ぃライダー・クルエル」


 おいゲオルグの方はまだ恥じらいがあるのか少し声が小さい気がするぞ。というよりそれまで無口キャラを守ってきたのにこんなところで崩壊させていいのか『冷血クルエル』。

 とまあ完全に『嫉妬エンヴィー』の姿と化した緋山さんと、氷の龍の携帯から更に人に近い形へと変貌した『冷血クルエル』が、俺達と同じ土俵へと降り立つ。


「……あー、ヒーローごっこなら余所でやってもらえるかしら? あたし今この子の相手をするだけで忙しいから――」

「悪物の言い訳など聞く必要ない! 僕は僕の正義を貫くだけだ!!」

「……あっそう! だったらあたしも一人で戦わないで援軍呼ばせてもらうわー」


 名稗は白けた表情で開き直るかのような言葉を並べると、右手の人差し指と親指を重ねてパチンと指を鳴らした。


「…………」

「……何も起きない――ぐっ!?」

「ッ!?」


 俺は即座に状況を理解した。即ち、味方がいなくてもその場で即興で作りだせばいいのだという名稗の考え方を、把握したということだ。


「ハァーイ、正義のヒーローは洗脳されて、悪の手先になっちゃいましたぁ☆」

「体が、勝手に……! おい、榊!!」

「分かっていますってば!」


 緋山さ――じゃなかった、大罪ライダー・ジェラスとクルエルが、敵の駒になってしまったことくらい!

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