第十二話 正義の味方は何処から事件をかぎつけてくるのか
「あんまり真正面から相手したくないわね」
「こっちは真正面から何でも受け止めてあげるわよぉ」
とはいってもさっきから周囲を舞っている不可視の糸が、そうはさせぬときらめきを放っている。俺の方もさっきの攻撃では通用しようがないと理解したし、仮に最後の一発をそのまま大岩で通していたとしても相手にはそれを防ぐ術がある事は容易に予想できる。
「わざわざ噛んだってことは、大岩の状態でもどうにかできたって事でしょ?」
「まっ、好き嫌いなく何でも噛んで食べるのがあたしのポリシーだし?」
妙なポリシーをお持ちな事で。だけどこれも食べられるかな!?
「炸裂しないはずのものを炸裂するように反転!」
「おっとぉ、それってアリ?」
「アリに決まってんでしょ!」
何故なら俺が決めた事なんだから。爆発しないものを爆発するように反転! 普通は有り得ないことだからこっちに意識を集中しなくちゃいけないのが難点だが。
「反転・不発炸裂!」
「まじかよー、クソ女じゃあるめぇしそんな興が削がれるようなことはやめろよー」
「あんたの言い分を聞く気はないね!」
先ほどと同じ小石の散弾。しかしその一発一発がちょっとした手榴弾級の爆発力を内に秘めている。
「……ちっ、あーもう」
どうやらこれまでは相手も手を抜いていた様子で、名稗はそれまでのニヤけ面から一転して面倒な奴に絡んでしまったと言わんばかりに不機嫌な表情を浮かべ、今までにないスピードでピアノ線を操作し、空中で小石を次々と切断していく。
「さて、これで――ッ!?」
小規模の爆発が一面で起こっていく中、爆風に紛れて俺はとっさにその場を離れていく。
「――あーらら、足の一本でも貰って行こうと思ったんだけどぉ」
「やっぱりそれくらいのことはしてくるわよねー」
これまでの戦闘経験が生きたのか、単に直感が当たったのか、それまでいた場所の丁度足首辺りを削ぐかのように高速でピアノ線が通過していくのが見える。
「そっちばっかりずるいー! こっちも少しは攻撃させてよぉー」
「その割にはあんた、シャレにならない攻撃しかけてくるじゃん!」
だからこそこっちも爆発する小石なんてとんでもないものをぶつけたんだから。
「ちぇー、できれば無傷で捕まえたかったんだけどなー」
しかし俺のこの攻撃が相手の闘争心に火をつけたのか、ここからが本気の戦いと言わんばかりに名稗はピアノ線をしまい込み、今度は目には見えるものの明らかに先ほどより切断力が増したであろうワイヤーらしきものを十本、その手に握るように生成し始める。
「さっきより痛いよー。これは切るためよりも叩きつけるための糸だからさぁー」
「へぇー、てっきりそれでもって切りかかるのかと思った」
「それもできるけどぉ――」
名稗はワイヤーの威力を誇示するためにわざと右腕を振るい、ワイヤーを近くのビルに向けて振り回した。
すると――
「いっ!?」
「……すっごいでしょ?」
ビルが一刀両断――というわけでは無く、先ほどのクレーターとは比にならないほどの破壊力によって、ビルはたった一本のワイヤーが放つ風に乗った衝撃波に押し潰され、粉々に破壊された。
「……マジですか?」
「マジですよーん」
「…………」
……逃げるが勝ちと言いたいけど、まだあの赤い糸の仕組みを解明できていないワケだし、相手の喋り方とかからして大人しく逃がしてくれそうにも思えないし。
「もう少しだけ子供の遊びとして遊んであげるよーん。それが終わったら……大人の遊びの時間だにゃーん」
「絶対にそれだけは嫌」
糸をどうにかする方法……糸を――
「――駄目だ、思いつかない」
「そんじゃ、こっちからいくよぉー」
自身の方が有利と分かったのであろうか、名稗は再び元のニヤけ面で鞭のようにワイヤーを振るい始める。
「そんじゃ、腕の一本や二本くらい吹っ飛ばしてから――」
「ちょっと待てぇ!!」
「えっ……」
えっ、何この展開。デジャヴ? てかこの声聞いたことがある――
「とうッ!!」
シュタッと俺の目の前に降り立ったのはどこから駆けつけてきたのか、否、どこから嗅ぎつけてきたのであろうか。
「か弱い女の子に手を出す変態め! そして僕ではなく相棒に手を出す卑劣な輩め! このレッドキャップが相手だ!」
「……いや、何時からあんたの相棒になったんだよ!!」
「大丈夫かい!? えーと……」
「そしてまだあたしのコードネーム的なのは決まってないのかい!」
「……あー、とにかく茶番が続くようならあたしがこのワイヤーで断ち切ってやるよ」
この時敵の方がまともに見えたのは、俺の気のせいであって欲しい。