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第十話 手品のタネが途中で分かってしまうと冷めてしまいますよね

 エドガーの情報によれば名稗は第十四区画に身をひそめているらしく、懸賞金が自分の首から外されるのをじっと待っているとかなんとか。


「とはいっても十年前の懸賞金が未だに有効な時点でもうあきらめるべきだと思うんだけどなー」


 とまあ平日の昼間っから学校サボりの女の子が一人で第十四区画を歩き回るなんて通常ならあり得ないことをしているわけなんだけど、何故か誰も襲って来ない。餓えたハイエナの群れを前に肉をぶら下げるようなもので、本当ならとっくの昔に集団に連れ去られていてもおかしくはない筈なんだけど。


「ま、理由は単純明快なんだけどねー」


 俺と守矢要の間に繋がりがある事を知っているのと、俺がSランクである事を知っているこいつ等は区画外の連中ダストとは違って危険物に触れないという知恵が備わっている。


「おかげでこっちも下手に情報を聞き出せそうな雰囲気じゃないんだけどね」


 情報を聞き出そうと近づいただけで向こうから離れていっていたらどうしようもない。かといってここで能力を使えば余計に警戒を強めさせてしまうだろう。


「…………」


 それにしても、改めて見まわすと酷いところだと思う。というより、ここに住んでいる人たちはどうやって生活をしているのかと疑問が湧いてしまう。まっ、数万から数十万レベルであるが賞金首の姿がちらほらと見えている時点である程度の日銭の出所はお察しできるんだけど。


「どうしてこの都市の市長はここにメスをいれないんだろう。多分ほとんどの犯罪者がここを根城にしているってワケなんでしょ?」


 だったらこの区画を更地にしてから再開発をすればいいじゃないか――そう考えたその瞬間だった。


「ッ!?」


 突然の爆発音。それも結構近くで起こっていることから、何かしら騒動が起こっていると考えてもいいのかもしれない。


「とにかく行ってみるしかないよね」


 現状なにもつかめていない状況で敢えて騒動に首を突っ込むのには理由がある。それは混乱に乗じて相手が動き出す可能性があるということ。いくら最初期の能力者とはいってもBランクらしいことから、騒ぎからは逃げ出す可能性の方が高い。そしてもう一つの可能性は、この騒動を起こしているのが名稗自身だという可能性だ。


「なんか守矢四姉妹とはそりが合わないみたいって話だからなー」


 もしかしたら向こうで争っている可能性もあるし、そうだとすれば捕らえるのは簡単になるはず。

 ――なるはずだった。


「……あれ?」


 四方をマンションに囲まれたこの場所で、屋上に立つ人影の姿。こちらに背を向けているのは恐らくあのAランクの関門、穂村正太郎。


「何であいつがここにいるんだよ……」


 しかももう片方は、確か賞金首百万の『人さらい屋』じゃなかったっけ? どうしてこんなことになってんだ?


「しかもこの前けしかけさせたあの幼女……あれ? あの子あんなに大きかったっけ?」


 まあ覚えていないしどうでもいいか。向こうは向こうで何か騒動に巻き込まれているみたいだし、下手に首を突っ込む必要も無いだろうし。


「さて、別の場所でも探しますかー」


 俺はそう思って元の道を引き返そうとした途端――


「……あんた達、誰よ」

「…………ケタッ」


 糸につられた操り人形のように、頭を垂れながらも両腕を不自然に宙に浮かせる三人のダスト。しかも明らかに俺の方に向かって敵意とでもいうべきか、相手をしてくれとでもいうべきか、そういう雰囲気を纏った状態でぶらぶらと立っている。


「なんか、むこうから会いに来てくれたって感じ?」

「ケタッ、ケタケタケタケタッ!」


 笑い方も人形のように不気味なその三人が、一斉に襲い掛かる。


「さあ、かかって――」

「ちょっと待ったー!!」

「ッ!?」


 突如その場を制する謎の声。そしてまるでさっそうと飛び降りるヒーローのように廃ビルの方から飛び降りては俺の目の前にスタッと降り立つ一つの影。


「女の子をいじめるなんて、このあたしが許さないだからねッ☆」

「…………」


 うん、向こうから会いに来たっていうより、痛々しい登場で名稗閖威科は俺の目の前に降り立った。


「さて、そこの可愛いお嬢さん。このあたしがものの十秒で片づけてあげますので心配ご無用。ダストの連中め、こんなか弱い女の子をこんな場所に寄越すなんてグッジョ――ゴホンッ! けしからん! 許されざるよ!」


 今明らかにグッジョブって言っていなかったか?


「さーてここであたしが華麗に倒せばこの子はあたしに惚れるはず。そしてその後はグヒヒヒヒヒ……」


 ヤベェよ欲望が止めどないぞこの人。しかも流石はあのヤブ医者の知り合いというべきか、こいつも中々に変態サイコだな。

 そんな時に俺はふとこの戦いが、単なる猿芝居だということに気が付いてしまう。


「……ん?」

「さあ、徹底的にやっつけてあげるから覚悟しなさいな!」


 それは名稗が両腕を広げて戦闘態勢を取った時に見えた、一瞬のきらめきだった。


「いま光ったのは……糸?」


 名稗が大仰ポーズをとるたびに、何故かダストも引っ張られるかのように変な動きをしてしまう様子を見て、俺は戦慄した。

 この女、予想よりイカレている可能性があると。

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