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第八話 初期型って何故か後続型より強いよね

前半一人称、後半三人称になってます。

「――それで、わざわざ被験体として解体されに戻ってきたのかい?」

「別に違うけど?」


 といった感じで俺は例のサイコってる医者の元にやってきたのだが……何というかいつも通りというか、相変わらず自分を解剖するのが好きな変態ですね。

 『全ての能力の原点』、そして同時に『完全な異常能力者サイコパス』という異名をもつ男、エドガー=ジーン。その実態は世界一腕の立つ外科医であり、同時に世界一の変態の称号を持つ男だ。

 ……世界一の変態は今のところ暫定一位で俺が勝手に決めた。というより、誰が選んでもあれが一位になるのはほぼ確定と言っても過言ではない。


「フム……なるほど、ついに検体として身を捧げる覚悟ができたと」

「どっちかっていうとあんたの方が覚悟を決めないといけないんだけどね」

「ん? それはどういう意味だ?」


 既に反転を済ませていた俺の頭には、この男を倒してふん縛る算段しか考えられていない。


「あんたが大人しくお縄につく事よ!」

「っ! まさかボクに賞金でも掛けられているのかい?」

「五百万! 即金で払ってくれるなら見逃してあげてもいいけど!?」

「そんなお金を普段から持ち歩く人間がいると思うかい?」


 いないだろうね。だからこそここでエドガーを捕まえることは確定事項だっていうことを、こいつは分かっているのだろうか。


「とりあえず表に出ようか」

「やれやれ、何がなんだか――」


 俺は相手の言い分を聞くことなく屋外へと場所を反転し、直後エドガーを強風で病院の屋上から突き落とす。


「ふむ、これは殺人罪になるのでは?」

「どうせ死なないでしょ」

「ごもっとも」


 この程度は俺にとっても挨拶代わり。そして相手エドガーにとっても想定内といった様子。エドガーは中空に吹き飛ばされたところで念動力サイコキネシスで自身の身体を浮かばせ、更には空間移動テレポートを使ってメスや注射器を呼び出し、戦闘態勢を取っている。


「お金がないなら今すぐにでもその身体を売ればいいじゃないか」

「なぁっ!? あたしにそういうことヤらせようってワケ!?」

「ん? 臓器売買は一般的では無かったか?」

「どっちにしろ一般的じゃないっての!」


 とまあここまで口撃を交えながらお互いに遠距離から物を飛ばしあっているが、正直油断ならない。

 相手は自分より一ランク下のAランクとはいえ、『全ての能力の原点』と言われる存在。ならばその能力数も第一能力プライマリ第二能力セカンダリだけでは済まない。


「おっと、危ない危ない」


 さっきからこっちの思考を読んでいる気がしなくもない。というよりこっちが攻撃しようとしたところでわざと攻撃し辛い場所へと自ら場所を空間移動テレポートをし、攻撃タイミングを狂わせてくる。


「ちょっとは手加減したら!?」

「キミの方こそ病院の屋上に置いてあるものをそんなにシャッフルして、後で誰が元に戻すと思っているんだい?」

「少なくともあんたじゃないのは確実ね!」


 こっちだって交換チェンジくらいは使わないと、さっきからメスの雨が降り注いでいるのはいただけないんだよね。


「……はぁ、仕方ない」


 とうとう観念でもしたのかと思ったが、どうやらそうでは無かったようだ。


「少しばかり被験体を傷つけてしまうのは心苦しいが、こうするしかあるまい」

「……ちょっとタンマ。それアリ?」


 中空に浮かぶ医者が両手を広げれば、念動力によってそれまで病院の駐車場に止められていた車が中空にいくつも浮かび上がり始める。


「やれやれ、出費がかさむが仕方ない」

「あんたそれ高級車とかも混ざってない?」

「安心したまえ。自費で賄おう」


 流石は世界最高峰の外科医、金はたんまり――ってかそんな札束投げつけるような攻撃は俺の心境的にも避けづらくなってくるから止めてほしいものだけど。


「単純に跳ね返したら車がぶっ壊れちゃうだろうし、かといってここで五百万を見逃したら一千万から遠のくし……」

「さっきから一体何の話をしているんだいキミは? お金が欲しいってだけじゃなさそうだけど…………なるほど、そういうことか」


 げっ、やっぱり心を読まれてる!?


「その通り。精神分析サイコメトリーもできるからその気になれば精神科医にもなれる――と、その前にキミに降りかかっている問題はそんな者で解決できそうではなさそうだが」


 くっ、流石にそこまで読まれちゃタダで帰すワケにも――と考えていたところで、相手はそれまで宙に浮かばせていた車を全て降ろして屋上へと降り立つ。


「なるほど、保釈金か。キミもまさか罪を犯すとは――」

「言いがかりだっての!」

「だろうね。アイツ等所詮Bランクだから、目の前で起こった出来事のみを信じる無能集団と言っても過言じゃない」


 ボロクソの評価だなおい。


「価値観は人それぞれだからね。ボクの場合興味さえわけば人間や獣、組織ですらかまわずに解体する(バラす)よ」


 ……こいつの新しい異名、『解体屋』とかどうっすか?


「残念ながらボクは『完全な異常能力者サイコパス』の方が気に入ってるんでね」

「そりゃ残念」


 こっちは今だ戦闘態勢だって向こうも分かっている筈なのに、向こうはそれを知っている筈なのに敢えて無防備に近づいてくる。


「……無防備な相手ほどやりづらいものはない」

「ッ!」

「ましてや、まともな戦闘回数がようやく二ケタ行くかどうかが相手だとね。ヤル気があるのかないのか、想像もつかない」

「っ、だったら問答無用であんたをぶっ飛ばせば済む話でしょ!!」

「おっと、今ぶっ飛ばしたら一千万の賞金首の話が聞けなくなるぞ?」

「っ!? どういうことよ?」


 合計一千万となれば、全員倒して俺の手元に五十万残る計算に! 


「少しは興味が湧いたかい?」

「それが嘘っぱちじゃなかったらね」

「……まっ、話を聞いてからでも遅くはないんじゃないか?」


 ――最初期プロトタイプの能力者のことを。



          ◆◆◆



「――アッハハハハ!! ハッキングしたのはいいけどこいつが『大罪』持ちなの!?」

「しょうがないじゃない、相手はSランクの能力者なんだから、プロテクトも何重に掛かっているに決まっているわよ。でも残念、賞金首じゃないから一石二鳥って訳にはいかない感じ」


 ――第十四区画。そこは力帝都市のはぐれ者、ならず者であるダストが無法に住みつく区画。守矢四姉妹が取りし切っているはずの区画。

 しかしそこの中でも、更なるはみだし者は存在する。

 現在廃屋と化したマンションにて、無線を飛ばしてネット通信している人影が二人。

 片方は長身猫背、髪の手入れも無く伸びっ放し。右手の携帯端末に浮かび上がるその目はまるでネット中毒者。してその声は軽々しい口調の女性の声であり、左の片手であやとりをするような器用さを持ち得ている。

 もう片方は恐らく守矢要と同じくらいの少女であろうか、パソコンの画面と向き合ったっきり長身の女性とは顔も合わせようとはしない。

 長身の女性は一通り端末を触り終えると、この状況が一週間以上も続いていることに退屈さを感じつつ、ベッドに身を放り投げる。


「ったくー、あたしも運がないっていうか、一周回って運がいいっていうか――」

「何を言ってるのよ。あたしたちだって、保釈金稼ぎをしなくちゃならないってのに……おっ! それとは別に凄い奴発見したよ!」


 パソコンを動かしていた手が一瞬止まり、長身の女性に示すかのように画面のとある人物方を指さす。


「なになに? アラブの石油王に賞金でもかかってる感じ?」

「というよりボーナスステージだよボーナスステージ! 何かの間違いか何か知らないけど、Bランクに五千万の賞金が懸けられているんだよ!」

「うへぇぁ!?」


 長身の女性はベッドから跳ね起きるとパソコンの方へと駆け寄り、画面の方をまじまじと見つめる。


「穂村、正太郎……? なんだよ、表のA関門じゃん。しかもこいつのツラはあたしのタイプじゃ……いや、いけるかも。無理やり押し倒したところで抵抗されて、それを更に――」

「はぁ……問題はそこじゃないっての悪食女」

「悪食言うな、色恋沙汰が多いだけよ」


 長身の女性は大きくため息をつくが、その瞬間に画面上にあったボーナスステージが消え去ってしまう。


「あっ!」

「あっ! もう! せっかくのボーナスステージが!」

「せっかくのつまみ食いが……」

「また探し直しじゃん……これじゃいつまでたっても保釈金を返せないどころか、私達の賞金首の保釈金も返せないじゃん」

「分かってるっての」


 現時点で公表できる情報はこの二人のうち片方だけ。


「まっ、やるしかないっしょ」


 長身の女性。名は名稗なびえ閖威科ゆりいか。その首にかけられた懸賞金七百二十万。能力検体名『喰々《イートショック》』。

 またの名を『悪食女』。またの名を――



 ――『最初期の能力者達プロトタイプナンバーズ

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