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第五話 裏取引とか本格的に悪い人になっている気が……しない!

「あのー、あたしの身元なら分かっているはずですし、そろそろ解放とか――」

「条例の下ではSランクだろうが関係無し――というか、Sランクであるせいで寧ろ身元不明だからいつも以上に疑ってかかる必要がある」


 前略。捕まりました。というより、抵抗するのも面倒なのでわざと捕まりました。今俺()がいるのは取調室。壁にはどうやら現在追っている事件の犯人の写真が張られているようで、中には賞金が懸けられている者の姿もあったりする。

 何故俺達なのかなのはすぐに理由が分かるとして、部屋の外で守矢と澄田さんが警備員相手に事情聴取をされている声を聞くと、悪いことはしていないはずなのに変な罪悪感にさいなまれる。


「ちょっと待って、リリーさんとかその辺から話を聞けば分かる――」

「ん? 何故あの解析班の女(リリー・ホワイトレス)を知っている? 彼女の存在を知る者は相違ない筈だが、確かにSランクならば……とにかく彼女ならこことは区画が別で、部署も違う」


 困ったことに、俺は今まさに複数の警備員の監視下の元、軟禁状態に陥っている。そして――


待って(Wait)! どうして僕まで捕まらなくちゃ――」

「お前はお前でいずれ取り調べを受けてもらうつもりだったぞレッドキャップ! そんなダサいニット帽を深めに被っては身元を隠して、一体何のつもりだ!」


 ――俺の隣には何故か俺より酷い拘束のされ方(具体的には両手を後ろ手に手錠を掛けられている状態)で、同様にして椅子に座らされている。


「で、あんたはヒーローじゃなかったの?」

「あー、僕は大体悪党をボッコボコにした後、近くにいる人に通報させてからその場に放置しちゃうから……」

「それってあんたの方が余計に怪しまれる上に、捕まえた賞金とか貰えないから全体的に言えばあんたの一人負けだよね」

「それを言われちゃ何も言い返せないんだよね……」


 アハハ、で済むかこの阿呆は。自分のやってたことが善行だったにしてもはた迷惑だったって事を意味しているのを理解しているのか?


「と、とにかくこいつはともかくあたしは解放してもらえませんかね? 特に悪いことも――」

「一般人をでこピンで50メートル近く吹き飛ばしたことは、悪いことではないと?」

「いや、そういう訳では――」


 あーもう面倒臭くなってきたなー。能力使ってさっさとこの場を逃げ出してもいいんだろうけど、そうしたら俺が賞金首になっちゃうだろうし。

 それにしてもこのレッドキャップとかいう人、多分俺と同じ年齢に思える。まったく、高校一年になってもヒーローものに憧れるなんて、ヒーローなんて小学生で卒業しておくべきものでしょうに。

 とかいろいろ考えている内に、それまで書類と向き合っていた警備隊の人が、不機嫌そうな表情で俺達を睨みつける。


「さて、肝心の話題に移らせてもらおうか」


 肝心の話題――というと、つまりどういう事なのだろうか。


「レッドキャップの方の言い分を聞いている限りだと、お前は男から女に反転したらしいな」

「はっ? ……な、何が何だか」

「しらばっくれても僕の目はごまかせないからね!」


 状況を整理しよう。

 俺は今榊マコだ。Sランクの榊マコだ。だがその正体がなんと一般人(Dランク)の榊真琴でしたー、なんて公表された日にはとんでもないことになる。

 だからこの場でとるべき行動は一つ。


「じゃああたしが男だって証拠は? こんなに胸がある男がいる? 声が女の子の声なのに男だっていうの?」

「いや、だから、その――」

「流石に傷つくわぁー。見ず知らずの女の子にケンカ吹っかけた上に、男だなんて」

「で、でも――」

「はぁああああ、ったく、榊マコの方は後回しにするとして、今度はお前の番だレッドキャップ」

「僕!?」


 簡単な話だ。昔からマスクを被ったヒーローは、唯一残されたアイデンティティを奪われることを怖れている。

 それはもちろん、レッドキャップにも同様にあてはまる。


「――そのニット帽を取れ」

「……えぇ――っ!?」


 レッドキャップはその瞬間、それまで大人しく捕らえられていた少年の姿から、まるで折りで暴れまわるような猛獣へと変貌する。


「ぜッッッッッッッッたいに、嫌だッ!!」


 突然後ろ手に縛られていた手錠を破壊し、レッドキャップは飛び上がって棚の上へと陣取り始める。


「僕の正体!? そんなの明かす訳にはいかない!!」

「おっ、貴様の場合力帝都市が許可したか何か知らないがランクカードの方もレッドキャップとしか記されていないんだぞ! 身元確認のためにも――」

「ヒーローの身元なんて確認する必要はない! 僕はヒーローなんだ!!」


 自分をヒーローと思い込んでるか何か知らないけど、今のところはた迷惑なトラブルメーカーとしか思えないのは気のせいでしょうか。


「こんなこと続けるつもりなら、悪いけど僕は脱出させてもらうよ!」

「均衡警備隊を前にしてその発言とは、行くらAランクだからといって我々を舐めてもらっては困るぞ!!」


 いつの間にかレッドキャップは既にドアノブに手をかけているし、俺達を取調べしていた警備員の人の手にはいつの間にか拳銃が握られているしで、ほんの数秒前からは想像もつかない事態に。


「ちょっと二人とも冷静になってよ。こんな狭い部屋で戦うなんてお断りだからね」

「お前も抵抗するつもりか!?」

「抵抗っていうより、取引がしたい。あたしだってこのまま罪人認定されるのなんてまっぴらごめんだし」


 というよりそこまでしてヒーローに執着するこの人のことがちょっとだけ気になったりもするし、俺は俺で本来の身元を隠したいのもあるしで何とかこの場を切り抜けたいのが本音だ。


「あんたも、ヒーローなら穏便に済ませる方法を考えなさいよ」

「うっ……まあ、そうだけど」

「そういうことで、あたしに一つ案があるの」

「そんな、容疑者からの提案を――」

「あんたこそ、ここでAランクとSランクをあんたの独断で取り逃がしちゃったりした方がマズいんじゃない?」


 身体能力反転のおかげか聴力も発達しているし、廊下でこいつが自信満々に俺達を取り押さえられるなんてほざいていたのが聞こえているんだよねー。だからこそこの脅しも通用するわけで。


「ど、どういう取引だ……?」

「――1千万」

「は?」

「あたしとこいつの保釈金二人分――ってワケじゃないけど。それを自前で今から持ってくるから」

「ど、どうやってそんな大金を持ってくるつもりだ!? 仮にもお前達はまだ子供――」

「子供だから何?」


 俺は丁度都合よく壁に貼り付けてある写真を指さしてこう言った。


「一千万分。犯罪者を捕まえてきてあげるから、あたし達二人を釈放しなさい」

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