第一話 まずは弁護士を俺につけてくれ。話はそれからだ
「さて、何か言い訳でもありますか?」
「言い訳ってか、そもそも最初のタイミングが――」
「言い訳無用! 男らしく認めたらどうなんだ!」
いや確かにある意味男らしい栖原から言われたら何も言い返せない――ってか澄田さんさっきから携帯端末を見ては愛しい人に向けるかのような笑みを隠せずにいるみたいですけど、誰とやり取りしている――って大体この前のストーキングでほとんどわかっているんですけどね! 脳内一人ツッコみ多すぎて俺自身にもツッコミが入るレベルだよこれ!
という感じで俺はいつもの喫茶店でいつもの女子会に榊真琴として、女子三人のなかに男子一人でいるという傍目に見れば羨ましくあっても当の本人は地獄という状況に置かれています。
「あ、あのー」
「うん? あっ、ごめんごめん。ちょっと励二とやり取りしてたら夢中になっちゃって」
その夢中になっている間にこっちは随分と追い詰められているんだけどね! 助けてくださいよ、この場で唯一俺が『反転』の能力を持っていることを知っているの澄田さんしかいないんですから。
「詩乃さんは最初から知っていたんですか? この野郎が榊マコだったってことを」
「そうなんだけど、言うタイミングを完全に逃しちゃってたって感じかな、アハハ……」
「てことはこいつが女性の裸とかを見て興奮していたことも知っていたんですか!」
「ちょっと待て、俺は別に裸とか見てねぇし、そもそも――」
「アンタの言い訳なんて聞かないですぜ!」
あれ? ほんの数十秒前に言い訳はありますかって言っていなかったっけかこの幼女は。おっかしーな、この前の遊園地のお菓子でだいぶ懐柔したつもりだったんだけどなー?
「と、とにかく俺は反転とかできる時点でそういう普通の男が興奮するところで興奮しなくなったし、さっきも言ったように流石に脱衣所とかそういう裸を見る場所まで女に反転して入っていっていない――」
「ということはやはり! 特殊な性癖に目覚めた可能性が!?」
それは完全に否定できないから口を噤まざるをえない。事実、鏡に映った女の子に反転した自分の裸体に見惚れるくらいは――ってやっぱり否定しておこう。心の中で。
「とにかく、俺は普通だ!」
「普通なら興奮するんじゃないか?」
「……興奮しない、普通の男子高校生だ!」
自分でも無茶苦茶言っているなぁと思いながら、とにかくこの場を切り抜けるための言い訳をいくつも重ねていく。
……いや、罪は重ねていっていないからね。
「むむむむむ……」
「まあまあ、真琴くんも悪気はなかったんだし。言わなかった私も悪かったんだから」
そう言って澄田さんが俺を弁護してくれたお蔭か、一旦その場において俺への追及の手は止められる。
「詩乃さんが言うなら、仕方ないです」
「ボクもまだ納得していないけど、詩乃さんが言うなら」
「本当にごめんね。真琴くんも、最初に私が言っておけばよかったね」
「い、いえ、俺は別に大丈夫なんで……」
とにかく、この場は収拾をつけることができてよかった。澄田さんが言ってくれなかったらどうなっていたか。
「それはそうと別にして」
しかし守矢はまだ言い足りないことがあるのか、話を区切った上で俺にまだ何か言いたいような雰囲気を醸し出している。
「要ちゃん、もう真琴くんの件については――」
「いえ、これとは全くの別件です。ちょっとうちと榊で席を外してもいいですか?」
「俺は別にいいけど……」
一体何を話そうというのか。俺は疑問を抱いたまま席を外し、店の外に出て裏路地へと守矢についていく。
「なぁ、一体何の話――」
「この前の事件、覚えていますか?」
「この前のって……あー、あの「プチ・ラグナロク事件」でしょ?」
緋山さんの暴走、そして『アイツ』の目覚め、極めつけに魔人による戦闘。それらは全て一つの区画が火の海に沈んだとして「プチ・ラグナロク事件」として取り扱われている。
もちろん表向きはSランク同士の争いが発展した結果とだけ報じられているが、『大罪』の存在や魔人の存在は伏せられている。つまりそれら一切は情報クリアランスとしてかなりの上位に置かれていることは間違いないだろう。そしてSランクの俺のVPですら、その情報を得ることが出来ない。となるとSランクですら握れない超々重要機密となっているということだ。
そしてそれらの真相を知っている数少ない人間の一人――守矢要からこの言葉が出るということは、大体察しがつく。
「あの時の榊も、『反転』の能力を使っていたんですか?」
俺の能力の発動条件はいたって単純。一旦性転換して女の子になってから、あらゆる事象を反転できるようになる。だがあの時は、『アイツ』はこの状態のままとんでもない力を発揮していた。それこそこの世界に存在しないものを存在させるという、とんでもない反転でもって、緋山さんの内に潜んでいた『アイツ』と互角かそれ以上に戦っていた。
「……正直に言うと、俺も分からねぇ」
「どうしてですか」
「あの時の俺は、俺じゃなかったとだけしか言えねぇ。そしてそれは、緋山さんも同じだ」
「つまり、何者かに乗っ取られていたとか、洗脳されていたってことですか?」
「魔人曰く、そんな感じらしい。」
もちろん真っ赤な嘘だ。これも魔人が考えたごまかし方であり、一般にあの大罪の存在を知られないためのものだ。
「じゃあ仕方ないですね。それと、もう一つ」
「今度はなんだ?」
守矢はまだ気になる事があるようで、人差し指を一つ立てて俺に質問がまだある事を示している。
「その、反転って他の人にも使えるんですか……?」
「出来ないことは無いけど……」
できた例の最たるものがラウラだ。あの身体能力向上は未だに解除していないから、いまでもちょっとしたスタイリッシュアクションゲーム的な動きはいとも簡単にできるはず。
「でしたら! お願いがあります!」
俺はそれまでにない守矢の真摯な瞳に思わずつばを飲み込んだ。まさかまた、問題事に巻き込まれるのだろうかと、腹をくくらざるを得ない。
そして守矢から放たれた一言は、そんな俺の予測の斜め上をいった。
「うちを大人にしてください!」
「……はい?」
大人にして? それってそういう――いやいやいや、それは無い! それは有り得ない。単純な話だ。
「つまり、俺に子供のあんたを大人に反転してくれってことか?」
「うちは子供じゃないです!」
いやその見た目はどう考えても中学生というより保護すべき幼女としか言いようがない気がしなくもない。現にそのせいで俺は遊園地で余計な出費をさせられたわけだし。
「とにかく、うちも大人にさえなれれば小晴姉さんや和美姉さんのように胸が大きくなるはずです!」
「もしそれでならなかったら本当の悲劇を目の当たりにするワケなんだが」
「な、ならないはずです! それに榊だって反転すればおっぱいが大きくなるじゃないですか!」
そんなこと言われても、俺が最初に無意識に反転した時点でそうなっていたんであって、意識してやった訳じゃないんだよなぁ。
「とにかく、そういう話なら俺は断る」
「どうしてですか!?」
守矢は食い下がろうとするが、そういう話なら俺はお断りだ。
「あのさぁ、わざわざ今の時間から寿命を縮めてくれって頼んでくる奴がいるかって話だ。それに俺は別に今の守矢でも十分可愛いと思うぞ?」
「かわっ、可愛いって何ですか!?」
そうやってすぐムキになるところが小動物っぽくて可愛いんですよ――とは正面切っては言えない。温かい目で微笑むくらいしかできない俺を、どうか許してほしい。
「むうぅーっ! いいですもん! こうなったら最近更に大人の女性っぽくなった詩乃さんに秘密を聞くしか――」
「おいそれは止めておけ」
理由は分からないが、俺の本能がやめておけと告げている。多分かなり面倒なことになるのは火を見るよりも明らか。
「……だったら、手伝ってくださいよ」
「何を?」
「うちが大人の女性になる手伝いをです!」
……なんか、パパッと反転した方が早かったような気がしてきたぞ。
といった感じでゆるーく進めていこうと思います。またしばらくは不定期投稿になりそうな気がしますが、頑張っていきたいと思います。