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エピローグその2

 ――まったく、どうしてこうなった。


「どうしてこうなった……」

「一体何を言っているんです?」

「いや、なんにも」


 アクセラは家でラウラと一緒に留守番させている――とはいえ、気にならない訳じゃない。なにせ記憶を無くした異世界のお姫様を、何の理由も分からないまま預かるなんて。もう一度『アイツ』が出てきたら、文句を言ってやりたいくらいだ。


「はぁ……」

「何でため息をつくんですか。こんな美少女が近くにいるっていうのに」


 美少女は自分のことを美少女だなんて言いません。しかもその体つきからして美幼女といった方が正しいかもわからないってのに。


「何か言いましたか?」

「いや何も」


 それにしてもこの幼女、俺が女の子の時は特になんとも思わなかったけど、こうして男子として動作一つ一つを見てみると悶え死にそうになるポイントがいくつかあるから怖い。

 例えば――


「あっ……」

「ん? どうした?」

「いや、なんでもないです」


 とか言いながら視線は園内のお菓子の家みたいな風貌のお店に釘づけ。あの建物の中では恐らく女子力(笑)が昂りそうな可愛らしいグミとかキャンディーとかが、法外な値段で売っているんだろう(という俺の偏見)。

 だがそれをじっと見つめては諦めきれないといった様子を見せつけられてしまうと、俺の庇護欲やら何やらが揺れ動いてしまう。


「……仕方ない」


 たまたまだが運よく緋山さん達が先に入っていったことも理由づけにできるだろうし、丁度いいか。


「後をつけるよ」

「えっ? でも――」

「大丈夫だ。あのお菓子の家は広いみたいだし、人も大勢いるみたいだから中に紛れたところでまず見つかりはしない」


 それにいざという時は魔人がどうにかしてくれるだろうし。


「……何かあの人一人で良かったんじゃ――」

「オレの風貌が目立たないとでも思ってんのか?」


 いやそりゃこのもうすぐ夏に差し掛かる時期でもいまだにロングコートを着ていたら目立って当然だと思いますけど。そんな魔人はというと、周囲の注目を無駄に集めながらもそのお菓子の家の屋根に腰を下ろしている。


「あんたが目立ってどうするんですか」

「うるっせぇ。このオレの強者としてのオーラはどうやっても消し去ることができねぇんだよ」


 いや、その行動自体が奇異すぎるから目立っているだけだと思うんですけど……。


「とにかく、中に入ろうか」

「は、はい!」


 自分が気になっていたところに行けると分かって目を輝かせるのは小動物みたいで可愛い――おっと、口に出てしまいそうだった。


「ん? どうして口元を手で隠しているんですか?」

「なんでもないよ。ただくしゃみがでそうになっただけで」

「全く、デートでくしゃみなんてみっともないんですから――」


「――っくしゅん!」


「励二、大丈夫? 風邪引いたの?」

「いや、なんでもねぇ。誰か噂でもしたのか……?」

「ほら、ティッシュあげる」

「すまねぇな」

「…………えぇー」


 噂はしていないけど、えぇー……。まさかの光景に俺も守矢もひきつった表情を浮かべざるを得ない。


「……たまたまですよね?」

「偶然だと思いたい」


 ひとまず俺と守矢の間で(むりやりではあるが)意見を一致させ終えると、それとなく店の内装や買い物をしている客層を観察してみる。するとやはり、とでもいうべきか、二十代のカップルがメインで、十代後半のカップルもちらほらと――やはり俺にも『嫉妬』の大罪が――


「あっ、移動しますぜ」


 とか考えている内に、向こうでは買い物を済ませた澄田さんが満足げに緋山さんを引き連れて店を去っていく。


「後を追いますか……」


 そう言っている守矢の横顔は少し寂しそうというより、この場所で何も買わずに出ていくことが名残惜しそう。


「…………よし」


 仕方ない。そう思った俺は右耳の小型魔法陣を展開させて、魔人との交渉に入り始める。


「すいません、少しの間だけ魔人さんだけで澄田さん達を追ってもらえますか?」

「アァ? どうしてだ」

「ちょっとこの店に俺がずっと前から気になっていたものがありまして」

「アァン? そんなモン後で買えばいいだろ――」

「すいません今しか買えないんです!」


 俺は半ば話をぶった切るような感じで連絡を切ると、そのまま守矢の方に向かってこう言った。


「さて、しばらくは魔人が二人を見てくれるみたいだし、今のうちに買い物でも済ませようか」

「……本当にいいんですか?」

「大丈夫だよ」


 どうせ後で俺にドロップキックとかが飛んでくるだけですし。

 この店で買い物ができると知った守矢は、それこそパァッという効果音がでそうな勢いの笑顔を見せ、そして中学生というより小学生に近いようなはしゃぎっぷりで店の中のお菓子一つ一つを見てまわっていく。


「まさか榊が奢ってくれるとは思ってもいませんでしたぜ!」

「ちょっと待て。俺が奢るとは一言も――」

「こっちのチョコはおいしそうですね。でもこっちのキャンディも捨てがたい……」

「……はぁ」


 ちょっとばかり出費がいたいことになりそうだ。



          ◆◆◆



「――マジで出費が痛いことになるとは」

「小晴姉さんや和美姉さんの分まで買ってもらえるとは思いませんでした!」


 こっちも買わされるとは思ってもいなかったです。はい。しかし大きな袋を片手ににんまりとしている守矢の姿を見るとそれも許してしまうのが男の性である。哀しいかな。

 だが俺がロリコンだということだけは、この場を借りて否定しておこう。全力で。確かに性転換できるようになったことで性癖が広がった――いや、広がったことも否定しておこう。何かこのままだと俺が変態だという風潮になりかねない。とにかく俺は自分の胸を触ったり幼女を見て性的興奮を覚えたりしません。神に誓って(魔人とかいるくらいだから神も一人や二人くらいいるだろう)。

 それにしても随分と振り回されたものだ。お店で調子に乗らせたのが悪かったのか、色々とアトラクションに見張りの名目で随分と乗らされてきた。おかげでもうすぐ日も暮れてしまうだろう。


「どうやら次は観覧車に乗るみたいですぜ」

「観覧車……?」


 あーもう、先の展開が読めて来たぞ。

 俺はため息を大きくつきながらも、この先に待ちかまえている嫉妬心を煽る最大のイベントへと臨むこととなった。

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