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第二十六話 Devil's Party

「半殺し? それとも全殺し? お好みの方でいいけど」

「フンッ! 久しぶりにしては随分と高慢だな。貴様、何時からアッシュに感化されていた?」

「何時から? あぁ、アッシュもラースも今は同一なんだっけ?」

「コイツ等何をゴチャゴチャと喋ってやがる。大罪二体程度ならブチのめすのもやぶさかじゃねぇが……」


 それでも魔人にとって、大罪を失うことはあまりとりたくない手段であった。大罪はこの世界で唯一無二の存在であり、この世界を動かす真の存在――ある意味、『ラスボス』に対抗するにとっては必須なキーアイテムと言っても過言ではなかった。

 だからこそどちらが上か分からせた上で、『大罪』を手駒として置いておく必要が魔人にはあった。


「どうすんだよ。二対一でもオレは別にかまわねぇが……」

「二対一って、レイジとそこの魔人対ボクってこと?」

「何ヲゴチャゴチャト……貴様等纏メテ俺ガ焼キ尽クシテヤル!!」


 それぞれがそれぞれの思惑で動こうとするがために、戦いの形式は一つにまとめ上げられる。


「オッケー、全員ブチのめす」

「なんだ、それなら分かりやすいや」

「貴様等ソノ軽口ヲ二度ト叩ケナクシテクレル!!」


 かくして魔人、そして二つの大罪による常軌を逸した戦闘の火ぶたが、今ここに切って落とされる。


「ボクから先に仕掛けさせてもらうね」


 先手を打ってでたのはウツロだった。両手の間にあやとりのように青白く発光する糸を編み出すと、それをそのまま空間に毛糸玉のような球体を作る様にして一本の糸を高速振動させ、素早いスピードで球体を膨張させ始めた。


「――空間断裂たちきり

「ッ! オイオイ初手に空間ごと切断する技を出す奴がどこにいやがるんだ! 澄田詩乃!」

「は、はい!?」

「こっちにこい!」


 魔人は澄田を小脇に抱えると、そのまま球体の膨張から逃れるためにその場の闇に溶け込み、はるか遠くで澄田と己を再構築する。


「チッ、開幕からやらかしやがって……」


 青白い糸が通過した後には、まるで刀で斬られたかのような綺麗な切断面が曝されていく。そしてそれらがいくつも透過した後となれば、まるで豆腐でも切ったかの様な崩れ方であらゆるものが崩壊していく。


「グオォッ!?」

「グカカカッ! アイツ正面から切り刻まれてやがる。ザマァ見ろってんだ」


 そんな魔人の言葉に相反してレイジは致命的なダメージは得ていない様子。切断される瞬間、意図が当たった部分を全て砂へと変えて完全な切断を回避することにより、レイジはその怒涛の斬撃を回避できていた。


「ケッ、さっきのオレの攻撃もそれで避けられただろうが。カンの悪い野郎だなオマエの彼氏は」

「そ、そんな! あの鬼みたいな人が、励二なの!? 励二なら、魔人さんはどうして助けようとしないの!?」


 澄田は緋山励二のことが心配であった。姿を変えようが、大罪と化そうが、緋山励二は澄田詩乃にとって大切な存在である。

 しかし魔人はというと、澄田の問いに対してひたすらに悲痛と同情の表情を浮かべるばかりであって、緋山について澄田に語ろうとはしない。


「…………」

「ね、ねぇ魔人さん、励二は、励二は大丈夫なんだよね!?」

「…………」

「そもそも『大罪』って何なの!? 真琴くんもウツロって名前を名乗りだしちゃったりして、励二は励二であんな姿……私初めてだよ!? 励二のあんな姿――」

「オマエの知っている緋山励二は、もうこの世界には存在しない」

「……どういうこと」

「…………」


 魔人がひたすらに黙りこくっている中、互いに狙う相手を決めた大罪同士による闘争が激化していく。


(焼)キ尽クレルッ!!」


 レイジは両手から深紅に輝くマグマをあふれさせると、それをそのまま地面へと叩きつけるかのように流し込み、マグマの津波を四方八方へと進軍させ、噴火と共に進軍を開始する。


「おっと、それは勘弁」


 ウツロは即座にその場から退避して適当な高い建物へと降り立つと、今度は青白く発光する何かを小さな球体へと変貌させていく。


「これ、何だと思う?」

「知ッタ事カ! 貴様ノ不愉快ナ言動ニハモウ飽キタ!!」

「あらそう、それは残念。せっかくこれについて説明してあげようと思ったのに」


 ウツロは球体を更に両手のひらで包み込むと、球体はビー玉ほどの大きさへと圧縮され、更に光を増していく。


「これはね、ほんの少しの量で対象物を完全凍結させる物質なんだけど……まぁ、この世界には存在しないものを存在させているから、キミには理解ができないかもね」


 ウツロはまるでオモチャの自慢話でもするかのような軽い口調で、この世のことわりを覆す事象を発生させる。

 世界に存在し無いものすら、存在するものと想像し反転し顕現させる。それが全能に近い力とも知らずに。


凍結いてつき


 下から見上げるレイジを見据えて、ウツロは人差し指で発行するビー玉を弾き飛ばす。球体はごく普通のスピードでレイジの元へと真っ直ぐ飛んでいき、そしてレイジに接触した瞬間、それは一気に牙をむいた。


「グ――」


 雄たけびを挙げるまでもなく、レイジの肉体および追随するマグマや熔岩、その他一体の地表を一気に分厚い氷で覆い尽された。


「マイナス273℃なんて生ぬるいこと言わないよ。分子間運動を永久停止させる完全凍結さ」


 単なる温度低下ではなく、原子のブラウン運動――すなわち原子同士による熱の発生、そして温度の上昇そのものを停止させることによる完全凍結。しかしそんな事など通常あり得るはずの無いこと。つまりウツロはこの瞬間、世界の物理現象を捻じ曲げて無理やりその状況を作り上げたということになる。


「ひとまず頭を冷やしたら? その方が――」


「いいんじゃないの?」という言葉を付け加える前に、レイジはその姿をウツロの背後へと移していた。


 そして次の瞬間――


ァッ!!」

「おっとぉ!?」


 ウツロの脊髄に強烈な裏拳が突き刺さる――かと思われたが、ウツロはその必殺の一撃を喰らう直前に間近にあった瓦礫と自身の身体を入れ替え、代わりに瓦礫が励二の目の前で派手に砕け散る。


「危ない危ない、あれを喰らったら背骨が粉砕骨折じゃ済まないよ。……それよりどうやって抜け出たのか、そんな風貌で意外とせこい手を使うよね」

「フン、貴様ノ様ナ者ノ相手ナド、マトモニスル方ガ滑稽トイウモノヨ」


 トリックスターとまともに戦うなど愚かに等しい。小賢しい手を使うなら、同じく小賢しい手を使うまで。

 レイジは凍らされる瞬間、身体のほんの一部――ほんの一粒の砂を外部へと飛ばしていた。そしてその砂粒を主体としてレイジは凍った肉体を捨てて再び結集し、ウツロの背後で身体を再生成していたというのである。


「もっともっと楽しめそうで、なにより」

「貴様トノ戦イナド、俺ニトッテハ苦痛デシカナイ!!」


 何度も炸裂する噴火と切断、そして凍結。ウツロはまるでおもちゃ箱からおもちゃを散らかす子どものようにあらゆる特性を持った発光体を辺りに散らばし、斬撃と惨劇を繰り返していく。


「ねぇ、励二はどこ? どこにいるの? 私が探し出すから、励二に助けてもらった分、私が探し出すから!!」


 魔人は答えない。一切の言葉を発することなく、口を閉ざしたままこの話題を終わらせようとしている。


「ねぇ魔人さん! お願いだから、答えてよ!!」


 ――澄田詩乃の優しかったはずの声色が、凛とした音色へと変貌し響き渡る。それは魔人本人だけではなく、大罪二人の耳にも届いていた。


「…………」

「……フン!」


 大罪の動きが、一瞬留まる。しかし澄田の姿を一瞥するなり何も言わずにふたたび戦いを繰り返す。


「どうして二人とも止まらないの……」

「どうしてもこうしてもねぇよ。止まる気がねぇんだ、アイツ等はよ」


 魔人もまた、戦いに参加しようとしていた。叩き潰し、引きり回し、武力でもって従わせようとするために。

 しかし澄田はそんな魔人の前に立ちはだかり、瞳の端に涙を溜めながら、声を震わせながら嘆願した。


「……お願い、二人を止めて」

「止めてやるよ。息の根も止めちまうかもしれねぇがな」

「そうじゃないの! 真琴くんを……励二を、お願い!!」

「……あれはもう、榊真琴と緋山励二じゃねぇ。二対のバケモノになっちまった。マァ、榊真琴はどうにかして戻れるだろうが、緋山励二は……」

「じ、じゃあ私が何とかするから!! 魔人さんお願い、手伝って!!」

「手伝うってどうしろってんだよ」


 もはやあの鬼神の中に、緋山励二など存在しないのかもしれない。そしてその心には、澄田詩乃も。

 しかしそれでもその目に諦めの色など映っておらず、決意に満ちた表情を魔人に向けている。そこには絶対に励二の目を覚まさせる、励二を連れてひなた荘に帰るという固い意志が宿っている。


「絶対に、連れて帰る! 私も帰れたんだもん、励二も一緒に帰るもん!!」

「……チッ、だったら今回だけはテメェでやれ。……テメェの力で、心で! あの緋山励二バカ共の目を覚まさせてやれ!!」

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