第二十四話 真実の裏に、嘘がある
今回も途中から三人称視点になっています。
周りには何もなく、邪魔するものも誰もいない。
「となったら、あたしも本気でやっていい感じかな!?」
「貴方の本気はたかが知れている」
「貴方の本気は底が知れている」
って、確かに俺の能力は対象物が無いと反転しようがない。何もないこの世界で、どうやって反転すれば――
「ん? 何もない……?」
――何もないなら、何でもあるのが反転だ!
「万物生成!!」
「これは意外」
「それは意外」
あんた達が剣と盾を持つっていうのなら――
「――あたしは銃と爆弾って感じ?」
中世の産物が近代兵器に勝てるものですか! と意気込み勇んだあたしの最初の第一手は、ピンを引き抜いた手榴弾による渾身の直球!
「そして――」
単に投げ込んだだけなら、回避される可能性も考えられる。ならば手榴弾を不意に撃ち抜けば、爆発は敵の眼前ゼロ距離で爆発する――ってヤバッ!? アクセラのこと忘れてた!?
「―――なんて、反応速度早過ぎて盾で封じられている感じ?」
「児戯、とでも言えばいいのやら」
「児戯、とでも言えばよいのやら」
ジズルとゼズゥは俺が何もない空間から物を取り出した事に対し目を丸くしていたが、以降のここまでのことはまるで期待外れと言わんばかりに冷ややかな視線を俺に送っている。
「力がありながら、持っていない」
「想像力が、足りていない」
「想像力って……どういうことよ」
想像力――確かに能力を発動するには、そうであれと思い込むことが必要だって緋山さんも言っていた。それが俺には足りていないとでもいうのか。
「想像力って、何なの!?」
想像力――人間はそれでもって、神というものを見い出してきた。その可能性は無限と言ってもいい。だからこそ、この時の俺には足りていなかったのかもしれない。
「こうなったら!」
多少滅茶苦茶になってもいい! 常識から外れてもいい!
「――押し潰れろ!!」
人間が感じる重力は微々たるもの。ならばそれを強大なものにすればいい。
「がっ……!」
「ごっ……!」
今や二人の上にのしかかる重力の大きさは計り知れない。そしてこれでジズルとゼズゥの動きは封じられたはず。
「今度こそ――」
次は直に拳銃を突きつけて、ジズルの眉間を撃ち抜こうとした。しかしその時一瞬、俺にこんな考えがよぎってしまった。
――たかが拳銃の一発でこいつを倒せるのか、と。
そしてこれこそが、相手につけ入る隙を与える結果となってしまったのは言うにも及ばないだろう。
「――ッ!?」
「それが貴方の限界」
「それが貴方の理解」
ジズルは俺の拳銃をその手で握るといともたやすくへし折って無力化し、それまで動けずにいた超重力の下でもまるで最初から重力など受けていなかったかのように自由に動き回り、そしてこともあろうか俺に反撃まで仕掛けてきた。
「いい加減諦めるべき」
「いい加減降参すべき」
相手は既に俺を見下しているのか、頻りに負けを認めるように畳み掛けてくる。
だがここで折れるワケにはいかない。澄田さんを連れ戻すまでは、こんなところで負けるわけにはいかない!
「っ、一旦退却!!」
「へっ? わわっ!?」
負けるわけにはいかない。だからこそここは逃げの一手あるのみ。俺はアクセラを脇に抱えると、一旦その場を離れることに。
「逃がした?」
「逃がさない」
悪いけど、逃げ足だけは誰にも負ける姿を想像できないんでね!
「最悪、あいつ等から逃げ切って澄田さんを先に見つけさえすれば……!」
何も正面切って戦う必要はない。こちら側の勝利条件は澄田さんを見つけて連れ帰る事! アクセラがこっちの世界でお嬢様って呼ばれているのも気になるけど、今は澄田さんを見つけて連れて帰る方が――
「――えっ?」
真っ白な肌着一枚で、その場に降り立つ少女が一人。その姿は俺がよく知る人物であり、向こうもまた、俺のことをよく知っている。
「まさか……?」
「あれ……? どうしてマコちゃんがここに……?」
それは俺にとっての逆転の糸口であり、緋山励二にとって最も大切な存在であった。そう、男の俺より圧倒的に女子力があって、相手を包み込むような温かさを持つ少女、その少女こそが――
「――やっと見つけましたよ、澄田さん」
「あれ……てっきり励二も迎えに来てくれてるのかなって思ったんだけど――」
やっぱり緋山さんのことが気になるのか、俺の後ろの方へと視線を送っている。俺だって積もる話もあるんだけど、今はそんな悠長なことをしていられない。
「緋山さんなら今大変なことになっています。緋山さんの暴走を止めるためにも、澄田さんが必要なんです!」
「えっ!? 励二が大変なことに!?」
案の定澄田さんは不安そうな表情を浮かべているが、その不安を解消するためにも俺達はこの場所を抜け出さなくてはならない。
「とにかく今はこの場所から――」
別の事に気を取られていた俺が悪かったのか、そもそも相手の実力が上回っていたのか。仕掛けたのがジズルだったかゼズゥだったか判別がつかないほどのスピードで、俺の身体ははるか遠くまで弾き飛ばされていく。
「がはぁっ!?」
「貴方は、遅い」
「貴方は、鈍い」
そして真横に吹き飛ばされている俺に並走するかのように、二人の少女は俺を挟んで滑空している。
「ここで死ね」
「ここで逝ね」
――えっと、確か盾を持っている方がジズルだっけ? そんな事はどうでもいっか。何か全部がスローモーションになっているし。というよりも、あたし自身ですらスローモーションになっているし。
「マコちゃん!」
「お姉ちゃん!」
あー、二人ともそんなに叫ばないで。十分聞こえているから。それに俺はまだ負けるワケには――
「――“こんなところで負けるワケにはいかないよね? 榊真琴は”。 ――ッ!?」
また、『アイツ』が――
「今度こそ死ね」
「今度こそ死ね」
――まあ、最後に死ぬ位なら――
「――少しだけ、貸してあげてもいいかもね」
ほんの、少しだけ――
◆◆◆
「――まぁ、ザッとこんなものだよね」
真っ白な世界に、鮮やかな紅がぶちまけられる。
少年の足元に倒れ伏すは二人の門番。この界世を守り、主の帰還を待ちわびていた存在。しかし今となっては鮮血をその場にばら撒く瀕死の少女二人となっている。
「貴方は、もしや……」
「貴方は、まさか……」
「おっと、今はまだ黙っていてもらえるかな? その為にもボクは生かしておいてあげているんだから…………それにしても二人ともよく頑張ったね。ボクを相手に一秒は持ったんだから」
して二人を瀕死に追いやった少年はというと、少女二人に対して静かに微笑み、その健闘を拍手でもって讃えた。
――少年はいたって平凡な見た目であり、その口ぶりも荒々しくも無ければ、むしろ礼儀正しいととることもできる。その姿はまさに、榊マコを反転した姿と言って一切の差し支えは無い。
そんなよく知っているはずの存在に対し、澄田詩乃は疑問を投げかける。
「……真琴くんだよね?」
「それはボクのことを言っているのかい?」
少年は澄田に対して自分自身を指さして疑問を投げかける。だがその質問はとても不思議なものであり、疑問であってはならないもの。
澄田は榊真琴と思わしき存在に、改めて確認の言葉を投げかける。
「きみは、真琴くんだよね? 真琴くんのはず、だよね?」
澄田詩乃は確証が持てなかった。99%榊真琴のはずだが、1%が信用できない。
そして澄田詩乃の目の前に立つ存在は、そのわずか1%の存在で正解だった。
「――真の裏に、嘘あり」
澄田詩乃の目の前にいるのは、結して榊真琴という平凡で無能な存在では無かった。