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第二十三話 Little Horn

今回前半が三人称視点、後半が榊マコによる一人称視点になります。

「ククククク……」

「何ガ可笑シイ? 貴様、気デモ狂ッテイルノカ?」


 榊はかの者のことを龍人と評したが、それは龍人というよりも、もはやその圧倒的破壊力から鬼神と呼ぶ方が相応しかった。

 鬼のような角はなくとも、一撃一撃が怪力を超越した超火力によるシンプルな蹂躙。それを前にしてはいくらSランクの能力者といえど、まともに打ち合う事など不可能に近いことは榊マコとの戦いで十二分に理解できる。

 しかしその鬼神を前にしてもなお、笑い声をあげる者がいる。狂喜でもって、歓迎する者がいる。


「いやいや、テメェはこの辺でいっぺんブチのめしておかねぇといけねぇと思っていた時に都合よくコレだからよぉ、マジで嬉しいんだわ。ククククク、ギャハハハハハハッ! ヒャーハハハハハハァ!!」

「な、なんかヤバそうですぜ……」

「アァー、テメェ等のことを忘れてたわ。どっかいってろ」

「えっ、ちょっ!? うわわっ!?」

「ふむ、これは多分場外に転移魔法で飛ばされますね」

「そんな悠長にしていられる訳無いですぜ!?」


 訝しむ鬼神に対し、邪魔者を退場させてひたすらに下卑た笑い声を聞かせる人外の存在がいる。口をおおっぴらに歪めて、相手をとことんコケにする奇人がいる。


「……奇遇ダナ。俺トテ貴様ノ様ナ道化、何時カ潰スベキダト考エテイタトコロダ」

「それは緋山励二としてか? それとも『嫉妬エンヴィー』としてか?」

「貴様ニ関係アルマイ!」

「だったら死ねやオラァ!!」


 もはや会話にならない程に狂った言葉を放ち、魔人は右手に暗黒の力を収束させた雷球を生成し、それをレイジに向かって問答無用で発射する。


「ッ!? 貴様ァッ!?」


 そして今度はレイジの方が攻撃を避けなければならない番となった。一瞬にして身体を砂にしてその場を回避すれば雷球は空を切る事となり、そのまま地面へと着弾するが――


「ヌゥオッ!?」


 着弾と同時に放電されたいかずちは一体を蒸発させるほどのプラズマへと変貌していく。


「次はこれを直接テメェに叩き込んでやる。マァ、死にはしねぇだろうから安心しろ」

「貴様……ノ世界ノ存在ハ無イナ?」

「だからどうしたってんだ。知るかよそんなテメェの都合なんざ」


 そして今の一撃を感知した者が、区画の防御システムを更に堅固なものへと変貌させていく。


「やっと霊体防護壁アストラルフィールドを張り始めたか。しかも百層ときたもんだが……まだ足りねぇな」

「何ヲブツブツト言ッテイル? 俺ハ此処ココニイルゾ!!」


 レイジはいつの間にか魔人の背後に姿を現し、渾身の一撃でもって相手を焼きつくそうとしていたが、しかし――


「チッ、バカが」

「ヌグォッ!」


 魔人は後ろすら振り返ることなく裏拳でそれを迎撃、そして振り返りざまにチャージしておいた暗黒の力をの込もった拳をレイジへと叩きつけ、更に追撃として体重と魔力を乗せた蹴りでレイジをはるか遠くまで蹴り飛ばす。


「少しの間死んでろッ!!」


 真正面からそれを喰らう事となったレイジはそのまま水平に吹き飛ばされ、その身体で建物をいくつも破壊していく。

 しばらくの静寂の後、魔人は首をゴキリと鳴らしながら呆れた様子でため息をつく。


「オイオイ、まさかマジでこの程度でくたばったワケじゃねぇよな?」


 しかし魔人の言葉に反応するかのように、遥か遠くに巨大な爆炎が撃ちあがる。


「グゥオオオオァアアアアアアアアアアッ!! 貴様ノソノ強大ナ力、妬マシキコトコノ上無シ!!」

「このボケが。だったら『大罪』風情に呑まれてねぇで、テメェの力でかかって来いよ! ナァ!? 緋山励二ィ!!」


 魔人はそれまで何十何百何千何万、何億何兆そして更に上乗せして制御していた力の一部を解放させ、背中から翼に酷似した暗黒のオーラを発し始める。


「まだ具現化させていない分、テメェにも勝ち目はあるかも知れねぇぜ……マァ、ゼロに等しいがなァ」

「貴様ヲ倒スコトデ、俺ハ世界ヲ否定スル!! ソレガ俺ノ全テダ!!」

「……澄田詩乃はどうした?」

「詩乃ハ……詩乃ハモウコノ世界ニ居ネエンダヨォ!!」

「……このゴミクズが、その程度で諦めてんじゃねぇ!!」


 はるか上空で物理的防護壁を全て破壊するような赤と黒が混じり合う衝撃波が走ったのは、それからほんの数瞬後のことであった。



          ◆◆◆



「――ここが、界世……?」

「…………」


 俺は目を疑った。界世と銘打つほどで、しかもアクセラのような存在がいるのであれば街の一つや二つ、いやせめて家一軒くらいたっていてもおかしくはないはず。

 しかし現実として俺の目の前には真っ白な世界がただただ広がるのみ。道しるべも無く何もない、まさに無の空間。


「……これってマジで失敗したんじゃない?」

「……アクセラちゃんは、ここを知ってる……?」

「知ってるって、どういう意味?」


 俺の問いかけが聞こえなかったのか、アクセラは無視をしてそのまま歩き始める。


「一体どういう――って、これは!?」


 それまで何もなかったはずなのに、突然目の前に現れたのは双子の姉妹(?)。恐らく中身はアクセラと相違ない程の小ささなのであろうが、外に身に着けている鐘型に膨らんだ大きな鎧が図体を大きく見せている。


「……あんた達、誰?」

「……アクセラお嬢様、おかえりなさい」

「……アクセラお嬢様、おかえりなさい」


 双子はほぼ同時にアクセラに迎えの言葉を送ると、そのまま何の考えも無いかのように不用意に近づいてくる。


「ちょっ!? あんた達何よ!?」

「貴方達はだれ?」

「私はジズル」

「私はゼズゥ」


 ジズルとゼズゥ。双子の姉妹はそう名乗りを挙げると、改めてアクセラを連れて行こうとした。まるで俺のことなど存在していないかのように。

 そこで俺はちょっとムキになってしまい、ジズルと名乗った方の少女の方を掴んで無理やり引き留めようとした。


「ちょっと、あたしを無視しないでくれる?」

「……貴方は何?」

「用は何?」

「用って……そもそも勝手にアクセラを連れて行こうとしているあんた達こそ何よ!? 澄田さんの次はアクセラも勝手に連れて行こうってワケ!?」


 そして更に俺が不用意に澄田さんの名前を言ってしまったのが、今回の大きなミスとなってしまう。


「澄田詩乃を連れ戻しに来た?」

「澄田詩乃を連れさらいに来た?」


 双子の少女はそれぞれ剣と盾の片方ずつを持つと、明らかな戦闘態勢を取り始める。


「澄田詩乃は渡さない」

「澄田詩乃は帰さない」

「なるほどね、それじゃ喧嘩上等って事でオッケーよね!!」

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