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第二十二話 I Hate Everything About You

「オォオオォアアァアアアアアア――――ッ!!」

「緋山さん! 落ち着いてください!!」

「緋山励二……? 否!! 我ガ名ハ『レイジ』!! コノ無価値ナ世界ヲ終ワラセル者(ナリ)!!」

「『レイジ』って……どういうことですか!?」

「ヤベェな……『大罪』が目覚めやがったか……」


 大地を揺るがし、天をつんざく龍の咆哮。それは聞く者全てに恐怖と畏れを感じさせる。

そして自らを『レイジ』と名乗る化け物は、ついに自らを陥れた世界を、他の者だけが幸福を得ている世界を、その嫉妬の炎で焼き尽くし始めた。


「コロ、スッ!!」

「ッ!」


 足を踏み出す第一歩。その速さ、人間をはるかに超越するものなり

 動体視力を反転して強化しておいてなお認識が困難な速度で、レイジは俺の懐まで急接近を測ってきた。

 そして――


ァッ!!」

「がぁっ!?」


 ただの裏拳だが、その拳の衝撃は身体能力を反転した俺のガードの上ですら全身に打ち響いていく。

 俺の身体はそのまま宙を浮き、建物の壁へと叩きつけられる。そしてその衝撃が最後のトドメとなったのか、既にボロボロになっていたビルは瓦解し、俺の頭上へと破片を降り注いでゆく。


「アッハハ……マジっすか……」


 ビルの瓦礫が落ちていく中、緋山励二は更に暴走の矛先を他へと向けていく瞬間が目に焼き付く。


「次ハ貴様等ダ……ィッ!!」

「チッ!! 全然時間稼ぎできてねぇじゃねぇか――」

「ハァッ!!」


 レイジが突進を仕掛けようとしたその一瞬の隙を、俺は逃さなかった。


「ヌォオッ!?」


 守矢の岩石砲ブロックシュートってワケじゃないけど、俺だってビルの残骸を使って真似事ぐらいはできる!


「もう一発いくよ!!」

「ヌゥ……ッ!!」


 最後に撃ち出した巨大なビルの瓦礫を、レイジは正拳突き一発で完全に破壊しつくす。


「ソコマデ負傷シテ、ナオモ俺ニ挑ムカ……ソノ諦メノ悪サノ一部デモ、コノ俺ニアレバ……否!! 全テハ愚カナ絵空事ナリ!!」


 自らに喝を入れるかのように、レイジは火の粉を巻き上げて更に力を昂らせてゆく。どうやら今度こそ完全に俺を殺すつもりで、レイジは本気で向かってくるようだ。


「砕ケ散レェ!!」


 右の拳を地面に叩きつければ火山の噴火が衝撃波と共に地面を抉り、次々と火柱を立ててながら俺の方へと突き進んでくる。


「くっ!」


 なんだか直感的だけど、この攻撃に反転が効く気がしない!

 俺はとっさに横に転がって何とか噴火の衝撃の回避に成功し、そしてレイジの放った衝撃波は建物に接触した途端、地面からひときわ大きな噴火を呼び起こす火種となって爆発した。


「い、一撃で建物が粉々に……」


 壊れたというより、消し飛んだとか吹き飛んだといった表現の類の方があっているであろう。文字通り俺の目の前で、建物が一つ消し飛んだのだから。


「ホゥ、ヨクゾ躱シタモノダ。最モ躱サナケレバ死、在ルノミダガナ」


 そしてこの攻撃ですらまだ小手調べといった様子で、レイジは俺に対して褒め言葉をぶつけてくる。

 しかしそれにしても、そもそも奴の攻撃自体に反転は効くのか? どうも能力とは違う何か別の『力』のような気がするんだけど。


「よく見破ったな、榊マコ」

「へっ?」

「そいつの力はこの世界の規模とは大きくかけ離れている。『大罪』は、今のテメェとは別格だ!」


 あ、また思考を読んだんですね。


「それにしてもどういうことですか? そもそも『大罪』って何ですか!」

「今言えるのはテメェと『嫉妬エンヴィー』の間に力の差があり過ぎるせいで、どれだけ想像力を働かせようが干渉できねぇってことだ!」


 そんなに力に差があるの!? てかそんなにヤバいなら魔人のあんたがやった方がいいんじゃないの!?


「本当ならオレが加勢してやりてぇが、俺は尸から界世への扉を引き出すのに手いっぱいだ! だからテメェが少しでも時間稼ぎをしろ! ヤツを倒せとは言ってない!!」

「ッ、分かりましたよ!」


 喰い止めるくらいなら、俺でもできるはず!!


「……さて、もっと遊びましょうよ。あんたと遊ぶのはあたしなんだから」

「児戯ニ付キ合ッテイル暇ナド無イ!! 消エ失セロ!!」


 レイジは自身の身体を砂にすると、俺の目の前から忽然と消え失せる。


「消え失せろって言っている方が消えてどうする――」

「何処ヲ見テイル!!」

「なっ――」


 砂になって目の前から消えただけで、この戦場から消えたわけでは無い。レイジは静かに俺の背後を取ると共に、背中に渾身の裏拳を叩き込んできた。


「がっ、はぁっ――ッ!?」


 身体能力反転で自身を極限まで強化してあるはずなのに、呼吸もできずに意識を持っていかれそうになるくらいのダメージが俺に襲い掛かる。


ノ一撃デ終ワリダトデモ、思ッタカァアッ!!」


 ヤバい、腕をられた!


「ッ、交換チェンジ!!」


 適当に視界に入った瓦礫と、俺自身の位置を反転!!


「死ネェ!!」


 ギリギリのところで俺と瓦礫は反転すると共に、レイジが右手を叩きつけた場所からは今までとは桁外れの噴火が巻き起こる。


「チッ、逃ガシタカ……」

「ふぃー、危ない危ない」


 今ので分かったけど、レイジに対しては反転が効かないけど、それ以外のビルの瓦礫とかには何とか干渉はできるみたい。かといってさっきマグマを凍らせようとか試してみたけど、それは全くできなかった。


「つまり緋山さん自身と、緋山さんの能力でできた産物には干渉できないと」

「何ヲゴチャゴチャト喚イテイル!! 次モマタ逃ゲラレルト思ウナ!!」


 レイジはそういうと近くの建物を片手で引っこ抜いて――って、それアリ!?


ァッ!!」


 レイジはそのまま建物を俺に向かって分投げると同時に、建物をマグマと火の粉で周りをコーティングして火炎弾へと変貌させていく。


「くっ!」


 普段なら反転できるんだろうけど、あの化け物の力に干渉は出来ない!


「逃げれなければ――」

「モウ遅イ!!」

「なっ!?」


 建物が目くらましになっていたせいで、完全にレイジの姿を見失っていた。そしてそれこそが、俺にとっては致命的なミスとなっている。


「今度コソ逃サン!!」


 レイジは俺の両手足を拘束すると共に、俺の視界を手で覆う。


「なぁっ!?」


 これでは位置を反転しようにも対象物を視界に入れることが出来ない。そしてレイジは何を考えているのか、そのまま俺もろ共建物に押し潰されようとしている。


「アンタこのままじゃ二人とも死ぬよ!?」

「死ヌノハ貴様ダケダ!!」


 この瞬間、俺はついに死を覚悟した。あれだけ頑張った力でも、レイジに敵うことが出来なかった。


「あたしは――」


 ――“ほら、言ったとおりでしょ?”


「ッ!? あんた、また――」


 ――“それよりどうするの? このままじゃせっかくのボクでもどうしようもできないんだけど”


「うっさい! 『アンタ』は黙っていなさいよ!」

「貴様、誰と喋っている!」


 レイジの疑問をよそにして、俺は直感的にこう思った。

 ――『アイツ』の力を借りるくらいなら、死んだ方がマシだ、と――


「――ッ!?」


 死を覚悟した俺だったが、その視界は急に晴れると共に、目の前まで迫っていたはずの建物も消え去っている。


「……どういう事?」

「選手交代だ、榊マコ。テメェはよく頑張った」


 すぐ上を見上げると、俺のすぐそばに立つ魔人の姿が。その右腕にはうっすらと黒いオーラが纏われており、禍々しさと神々しさが入り混じったような、まさに混沌というにふさわしい雰囲気を醸し出している。


「後は俺がやる。テメェはあのアクセラってガキと一緒に行け!」

「えっ、アクセラのことを知ってたんですか!?」

「簡単に思考読取サイコメトリーしたからすぐに理解した。テメェはヤツを連れて、そして澄田詩乃を連れ去ったクソ野郎をブチのめしてこい」


 魔人は俺の背中を強く推すと、尸の方へと顔を向ける。


ゲートは開けておいた。後は自力で帰って来い」

「自力でって、どうやって――」

「向こうのヤツにむりやりこじ開けさせろ」


 そんな無茶苦茶な……。


「急げ!! 記憶を無くすのは何もテメェだけじゃねぇぞ! 緋山励二の記憶すらなくなった時が、ゲームオーバーだと思え!!」

「ッ!」

 俺はその言葉を聞くなり、急いでアクセラの手を引いて扉の方へと走り出す。


「行くよ! アクセラ!」

「えっ、なになに!? アクセラちゃんがどうかしたの!?」


 今はそれに答えている暇はない。急いで界世に行って、全てにケリをつけないと。


「フン、今度ハ貴様ガ相手ヲスルトデモ?」

「……急げよ、榊マコ。このオレが、大切な人間であるはずの澄田詩乃を忘れようとしているこの大バカ野郎を――」


 ――本気でブチ殺す前にな。

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