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第二十話 貴方は覚えていますか?

「倒すだと? この私をか?」


 エメリアにどれだけ笑われようが関係ない。俺は俺のやり方で、アイツとは違うやり方でやるしかない。


「一体どうすれば……うわっと!?」


 あー、そういえば建物を破壊しまくったせいかあちこちでガス管が爆発しているし、水道管も破裂して水が辺りに散らばっちゃっているんけど……これ水道代とか誰が払うワケ? 

 ……ん?


「……覆水盆に返らず」

「何を言っているんです?」


 いや、独り言なんだけど。だけどこのことわざは、確か――


「――一回起こってしまったことは、二度と元には戻せない……ならば!」


 起こったことを元に反転すればいい!


「――覆水盆に返りたり(リバースエフェクト)

「ッ! なっ!?」


 対象はアクセラと守矢! その身に起きていることを全て元に反転する!

 俺の狙い通り、そして俺の想像した通り。アクセラと守矢を捕らえていた光のビットは突然として巻き戻しでもするかのようにアクセラと守矢を開放し、元の小さな光の弾へと縮小していく。


「馬鹿な!? どんな解呪法も効かぬように――」

「解呪しなくても、魔法をかける前まで時間そのものを巻き戻せばいいでしょ」

「あ、あり得ない……!」


 あまりにも常識を逸脱した方法を前にエメリアも尸も、そして守矢ですらも唖然としている。その場で唯一何が起きたのか理解が追い付いていないのはアクセラのみで、その場にいる全員が俺が行使した力が人間離れどころか能力者の中でもずば抜けていると口々に言っている。


「死すら巻き戻されるとしたら、完全に私の上位互換ですね……」

「それよりもあったことをなかった事にされたら、思い通りになるまで何度も繰り返せるとかどんなチートですか!?」


 なんか色々言われているけど、結局のところ全部反転しかしていないんだよね。緋山さんみたいに能力二つ持ち(デュアルスキル)ってワケじゃないけど、俺だってそれなりに力を使いこなせるようになってきたんだから。


「Sランクの看板背負ってるんだし、Aランクに負けるワケにはいかないよね!!」

「くっ、おのれぇええええええ!!」


 エメリアは怒りに任せて次の魔法を詠唱しようとしているようだけど、それをオレが黙って見過ごすはずがない。


「あらがう炎、舞う炎神。その荒々しき舞を我が前に――」

「少しお喋りが過ぎない?」


 俺が右手の人差し指でエメリアを指さし、そして口にチャックをするかのように人差し指を横にスライドするとエメリアの口は強制的に閉ざされ、二度と開く事が無い。開こうとすれば開こうとするほど口は閉じられるように反転したからね。


「ん? んんん!?」

「それで尸に聞きたいんだけど、魔法ってどうやって止めるの?」

「どうやってと言われましても……術者が意識を失ったりすれば、呪い以外なら一発で停止するかと」


 なるほど。能力に似たようなものか。


「だとすれば……意識がある事を反転して、無意識……? いや、これはマズいよねー」


 なんか俺が色々と考えている間に向こうはしょぼい魔法を撃ってきてるみたいだけど、全部砲口を反転させちゃっているから意味ないんだよねー。


「やはりAランクの魔法使いといえど詠唱破棄で唱えられるものはその程度しかありませんか」


 尸が無意味に煽っているおかげか向こうは更にムキになっているけど、そんなのもはや通用するはずがない。


「さて、そろそろトドメを――」

「榊!! ここにいたのか!?」


 突然としてこの場にいるはずのない人物の声がする。あれ? どうして緋山さんがここに? そんな砂になってまで必死に来てどうしたんです?


「ハァ、ハァ、ここにいたか……」

「ど、どうしたんですかそんなに急いで――って、そんな事より――」

「そんな事より、急いできてくれ!! このままじゃ――」

「んんんんん……んんんん!!」


 俺がエメリアを放って緋山さんの相手を始めたのがよほどプライドを刺激したのか、エメリアは無理やりにでも口を開こうとナイフで自分の口を開こうとした。しかし――


「さっきから外野からゴチャゴチャとうざってぇんだよぉ!!」


 それまでもピリピリとした雰囲気だった緋山さんだったがとうとう堪忍袋の緒が切れた様子。右手の砂嵐を地面に叩きつけると、そのままエメリアを巻き込んで空高く撃ち上げていく。


ゴミが、消え失せろ」

「そ、速攻で倒しちゃいましたね……」

「今はそんな事はどうでもいい!! これは一体どういう事だ!? どういう意味を表しているんだ!?」


 緋山さんは随分と焦燥が募った顔つきで、俺の前にVPを突き出す。どうやら何かしらの伝言が残っていた様で、どこからかかってきたかは不明ってことは……。


「もしかして、界世から――」

「そんな事よりこの伝言を聞け!!」


 緋山さんから半ば押し切られる形で伝言を聞く羽目になった俺と守矢は、尸やエメリア、そしてアクセラのことを一旦放っておいてその伝言を聞くことに。

 そうまでして聞くこととなった伝言の内容はこうだった。


「――…こえ…かな……? …く分か……い…ど、た……聞こ…るよね……?」


 伝言には少女の声が残されているが、今までのものとは違ってノイズがのっているせいで聞き取りづらく、言葉も途切れで何を言っているのかはイマイチ聞き取ることができない。


「ご…んね……私、やっぱり…メだったみ…い……それで、最後にひ…こと、お礼を…っておこうって……」

「…………」


 ノイズがのっているが内容としては誰かに謝っているような、遺言を残しているように思われる。

 伝言はさらに続く。


「れい…が必死で、かんび…うしてくれたみ……いだったけど、私は………この世界には……」

「えぇい、聞き取りづらくてわけわかりません!」

「黙ってろ守矢!! てめぇ次無駄口叩いたらその舌引っこ抜くぞ!!」


 脅しではない本気の殺気をぶつけられ、俺も守矢も思わず口をつぐんでしまう。


「だから、最後に……今まで一緒に…てくれて、あ…がとう……私が…なくなっても、世界を……嫌いになっ……ダメだよ? ……私との、最後の……そく……本当に…りがとう……さようなら…………詩乃…り……」


 伝言はここで終了。そして俺と守矢は口をつぐんだまま、そして今までより切迫した雰囲気であることを理解する。


「俺は、どうすればいいんだ……!」

「界世から、本格的なSOSですね……」

「これは、マジでヤバいかも……」

「ヤバいかもじゃねぇんだよ!! てめぇふざけてんのか!?」


 俺の言葉に今までにない程に緋山さんは噛みついてくる。それこそ襟首を掴み上げ、俺をそのまま消し炭にしてしまいかねないほどの熱気を携えて。

 そして緋山さんはこの少女が誰なのかを知っているようで、今俺が取りかかっている全てを捨ててでもこっちの手伝いをするようにお願い――否、命令に近い口調で言葉を叩きつける。


「詩乃が、詩乃が消えちまったんだよ!! この伝言を残して、ひなた荘から忽然と!!」

「……えっ?」

「へっ?」


 俺と守矢はほぼ同時に疑問の声を挙げた。


「緋山さんは何を言っているんですか? ひなた荘の住人って――」


 緋山さんに之喜原先輩、ヨハンさんに日向さんだけでしょ?


「――詩乃さんって、誰ですか?」

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