第十九話 真琴⇔???
「天恵先知我にあれ、天恵先知吾を成せ!! あまねく逆鱗を抱いて、その力を顕現せよ!!」
光のビットはそれぞれが独立した思考回路でも持っているのか、まるで蛍のようにエメリアの周りを飛び回り、そして詠唱に合わせて陣形を変えていく。
「――超弩級苛烈収束光!!」
必殺の光の矢が、ビットからいくつも放たれていく。壁を破壊し、地面を抉り、全てを貫いていく。
それまで活気に満ちていた町は崩壊の一途をたどってゆくが、なおも光の柱の暴走は止まらない。
物質という物質を、命という命を、全てを削り取っていくまでは止まる様子はない。
「おっと、光の死は想像できませんからねぇ」
「そんな悠長にしているけどどうにかならないワケ!?」
「どうにもこうにも。精々死なないくらいですかね」
流石に光の速さの柱をまともに回避するなど俺でも困難。だからこそ進行方向を反転させて、逆にビットを撃ち抜いていくしかないはずなんだけど――
「何で壊れないのかなー!」
流石に光が反射されるとは思っていなかったみたいで、エメリアを反転でびっくりさせることで一旦は光の発射を止めることはできたものの、完全攻略には至っていないと言った様子。
「光を物理的に破壊できるはずがないだろうが、この阿呆が」
確かにそうなんだけど、正面から言われるとムッとくるものがある。
「ねぇおっさん! 何か策はないワケ!?」
「おっさんって、私はまだ28なのですが……」
「四捨五入すれば30だからおっさんよ! それよりどうするの!? あんたSランクだから勝てるはずがないとか吹かしてたじゃないの!」
尸の言葉を鵜呑みにするとすればエメリアのランクはAなんだけど、俺はそうは思えない。
「くっ、まともに近づこうにもビットの反射を頭に入れておかないといけないからなー……」
それにあの破壊力からして要の『塊』なんて簡単に貫きかねないだろうし――ってか、守矢とアクセラどこに行った!?
「おや? お探しの二人はこちらかな?」
「ッ!?」
俺が上を見上げると、そこにはビットに取り込まれるような形で巨大な光球に閉じ込められた二人の姿が。
「すいません榊、しくじりました!」
「あれぇ? なにこれぇ?」
守矢はともかくとして、アクセラは本当に重症のように思える。まさか師匠まで忘れてしまっているとは。
「さて、どうしようか。このまま二人を光ごと爆破して粉微塵にしてやろうか」
「ッ! やめろ!!」
「ふむ、Sランクとあろうものが人質二人でこうも無力化されるとは」
「あのー、私は無力化されていませんが?」
「っ、あんた今エメリアを攻撃したらぶっ飛ばすからね!!」
流石に俺の言葉が脅しじゃないことを理解できたのか、尸は往路復路 の構えを解き、そして俺の方を向いてエメリアの方を向く。
「では、どうしろと? 黙ってあの魔女になぶり殺しにされろとでも?」
「うっさい! 今どうするか考えている途中!」
「クククク、考えずとも私が答えをくれてやろう」
エメリアはひたすらに不敵な笑みを浮かべ、そしてとんでもない条件を提示した。
「――今から二人で殺し合え」
「……は?」
「……なるほど」
尸はその一言だけで全てを理解したのか、黒い靄から大鎌を生成し始める。だが俺はその意図が全く掴めずにいる。
「どういうこと!? あたし達を殺したいなら、無防備なまま光で貫き殺せばいいじゃない!」
「何を言っている。私が直々に殺せば、私は殺人犯として指名手配されてしまうだろう? それに余興としては最高ではないか? Sランク同士、戦いではなく殺し合いを見られるのだぞ?」
「人質とって、界世からアクセラを連れ去っておいて、今更手を下さないだなんだって、あんた何を言っているのよ!!」
「……ククククク、アッハハハハハハ!」
エメリアはそれまでの上品な笑い声の漏らし方から、思いっきりこちらを馬鹿にした様な、子供じみた笑い声をあげる。
「だからお前は馬鹿なのだ! 榊マコ!! 否、榊真琴!!」
「なっ!?」
「榊、真琴……? どういうことですか榊!」
突然の俺の正体への言及。そして榊真琴という言葉に即座に反応を示したのは、他の誰でもない守矢だった。
「クククク、言った筈だ。私は水晶玉で視ていた、と」
「…………」
「榊、どういう事ですか! 説明してください!」
俺は守矢の問いに対し、即座に答えを返すことができなかった。実は元々榊真琴は男で、女の子に反転して榊マコとしてみんなと一緒にいましたーなんて言ってしまえば、どんなことになるのか。
「私は全て知っている。だからこそ貴様はここで大人しく尸に殺され、全ては元通りになると分かっている」
「くっ……! 言わせておけば好き放題言っちゃって!!」
――“……さて、どうやって黙らせようか?”
「――ッ!?」
「何を動揺している? 今更言い訳でも考えているのか?」
違う。エメリアの言っていることなんて、俺の動揺の原因にはかすりもしていない。俺は自分の頭を抑え、今起きた現象に対する動揺を隠しきれずにいる。
「誰だよ、アンタ……」
『アンタ』は一体、誰なんだよ……?
俺の声で。
男の時の俺の声で。
何で俺に話しかけているんだよ……!
――“一体何を戸惑っているんだい? 簡単な話さ。あのエメリアとかいう魔女の息の根を止めて、そしてこの場にいる者全員の記憶を消せばいい。簡単な事だよ”
「そんなことして、あたしが許されるワケ無いだろ……! あたしが、人を殺せるわけないだろ!?」
「……ん? なんだか様子が変だな……」
「榊! 何をごちゃごちゃと言っているんですか! もう説明は後でいいですから、エメリアを先に――」
「私をぶっ飛ばす前に、お前の肉片が派手に吹き飛ぶことになるぞ」
「くっ……!」
――“ほらほら、敵はそう長くは待ってはくれないみたいだよ? 大丈夫さ。無能なキミが殺しをできなくても――”
「――“全能たるボクが、代わりに殺してあげるからさ” ……ッ!?」
まずい! 勝手に俺が『アイツ』の言葉を口走ってる!? 俺の身体が乗っ取られる!!
「――意識を反転!!」
即座に俺の身体を乗っ取ろうと表面に出てきた何かを奥に押し込める!!
――“これは残念。でもまたいずれめぐり合うよ。今度は直接、ね――”
「――ッハァ! はぁ……!」
「どうした? 死を目の間にして発狂でもしたのか?」
ある意味発狂しかけていたよ。まさか界世から俺の意識を直接則りに来るやつがいるなんてさ……!
「でも、もういいんだ……」
今俺が苦しんでいるのは誰のせいだ? あのエメリアがちょっかいを出しているせいで、俺は今苦しめられたんじゃないか?
――『アイツ』に言われなくとも、俺はやってやる。
「エメリアをぶっ飛ばして、二人を救って、榊マコとしてのけじめをつけてやる!」