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第十五話 死すらオモチャのように扱う男

「さて、どこからくるか……」


 あの黒い武器に触れれば即座に死が待っている。ならば距離を取らざるを得ない訳なんだけど……。


「……あのー、一ついいですか?」

「何よ」


 武器を取り出したのはいいものの、尸としてはもてあましている様子。そこで尸は場所を移そうと俺達に提案してくる。しかし守矢はその提案を怪しんでいるようで、相手の企みを言い当てるかのような言葉を並べる。


「へぇ、そうやってアクセラから引き離している内に別の奴等が回収しに来るって算段ですか?」

「いえ、そんなつもりで言ったのではないのですが……」

「榊、うちが残ります。ですからその男と外で存分に戦ってきてください!」

「ふむ、別にここに誰かが来るわけでもありませんし……まあ、いいでしょう」


 尸は右手の大鎌を解除してドアを開けると、そのまま外へと出ていく。


「店の中ですと、商品が死んでしまいますからね」

「ものが死ぬわけ無いでしょ」

「フフ、それは貴方がそう考えている限りはそうなりますね」

「どういう意味よ……」


 ひとまずアクセラは守矢に任せるとして、俺が今やるべきことは一つ。


「あんたを倒したら、どうしてアクセラがあんたの所に行ったのかを吐いてもらうわ」

「倒せればの話ですよね?」


 いちいち澄ました顔でイラッとくる発言ばかりしてくる男だ。いやまて、それも作戦の内なのか?


「いちいち難しい顔をしておられるようですが、体調がすぐれない様子で? それともこれから死ぬのが怖くなったとか?」

「死なないし体調も万全だから。それより、ちゃんと喋ってもらうからね」

「ともかく勝手に約束をするとは……やれやれです」


 尸の後をに歩いて先にたどり着いたのは、なんとこの第九区画のビジネス街で一番大きなスクランブル交差点のど真ん中。


「えっ!? ちょっと待って! こんなところでやるの!?」

「ええ、何か問題でも?」

「問題しかないわよバカじゃないのあんた!?」


 街の監視カメラに映る様子から既に力帝都市側はSランクの俺が戦う事を察し、区画閉鎖を行っている。だがそれでも避難が済んでいないどころか気が付いていない普通の一般人が大勢辺りを歩き回り、そして仕事を続けている。


「これだけ大勢の人が歩いている中で戦うなんて、あんたあたし以外も殺すつもり!?」

「殺すだなんて、そんな……」


 尸はクスクスと俺を嘲笑い、そして改めて両手に黒いもやを生成し、それを辺り一面に広め始める。


「くっ、反転!」


 恐らくこの霧も吸ったりしたら即死するに違いない。反転して跳ね返しておこう。そして俺のこの行動だが、尸はそれすらも笑っているだけ。


「別に殺しはしませんよ」


 黒い靄が辺りを歩いている人々に吸い込まれていくと、辺りの様相が一変し始める。


「……あー、まさかこいつ等全員グールって感じ?」

「半分正解ですが、残念ながら不正解。答えは簡単――」


 それまで鞄しか持っていなかった会社員の手に、黒い靄から生成された真っ黒な拳銃が持たせられる。


「――彼らは既に死んでいますが、生き返ることもできますのですから」

「なっ!?」


 その瞬間――全方位360°から死の弾丸が一斉に放たれる。


「くっ!」


 弾丸は全て反転し、逆に一般人を撃ち抜いていく。


「……これであたしも殺人犯ってワケ……?」

「いいえ、そんなことは無いですよ。言った筈です。彼らはすでに死んでいますから」

「……どういう事か説明してもらえるかしら?」

「ふむ、いいでしょう」


 尸がそこらを歩く集団から再び黒い靄を回収すると、人々は何事も無かったかのように再び仕事にいそしみ始める。


「――『尸±4』。これが私の検体名であり、能力名です」

「かばね、ぷらすまいなす4……?」

「ええ。私の名前はかばね、知っての通りしかばねから()を取り除いた名前です。つまり私の力は、全てに死を与え、全てから死を取り除くことができる。死を操る能力という事です」


 それを聞いた俺は絶句した。死そのものを操る能力など、規格外にもほどがある。


「それで私のランクはSランク。貴方は――」

「あたしの名前は榊マコ。あんたと同じSランクよ」

「それはそれは、是非是非死んでいただいた上で、私の死(私)兵として働いていただきたいものです」


 その口ぶりからすると、どうやらこのビジネス街で働いている住民全員は既に尸の私兵と化していることがうかがえる。


「あんた、相当なゲス野郎ね」

「おやおや、褒められても何も出ませんよ? あっ、弾丸は打ち出せますけど」


 そうやって尸は不意に俺の真後ろの会社員から発砲させてみるが、それも弾丸の向きの反転という無様な結果に終わってしまう。


「ふむ……視覚外でも、意識の外でも反射されるとは……」


 それは弾丸を定義した上で反転させていますからね。不意打ちは無駄ですよ。それにこれからは撃たれても大丈夫なように反転の定義を決め直しているところだから、次の手を打っても無駄なんだから。


「ならば直接私が出向いた方が手っ取り早いでしょうね」


 尸は残りの集団も開放すると、黒い靄で作りだしたメガホンで辺りに警告を促す。


「えぇーと、今からSランク同士で戦いますので死にたくないかたは近くの建物の地下に避難をお願いしまーす!」

「さっきまで殺しておいた人達に、わざわざ親切ってワケ?」

「一応これでも善人で通っていますから。彼等には理解を持ったうえで死んでいただき、そして生きていただいています」

「他人の生死与奪権を握っておいてよく言うわ」


 さて、ここからが本番っぽい雰囲気。尸は全身に黒い靄を纏いながら、改めて右手に大鎌を、左手には拳銃を握り始める。


「ここからが、お互いに本番ですよ」

「……あたしが勝った時の条件に一つ追加。あたしが勝ったらもう2度と誰かを死兵にしないって誓って」

「私が? ……まあ、神にでもなんにでも誓ってあげましょう」


 言ったな? 後悔するなよ。

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