第十四話 殺人許可
「どこにいったんでしょうか?」
「やみくもに探しても埒があきません。榊、何か有効な手段はないんですか!」
やみくもに探しても埒が明かないってところまで答えが出ておいてどうして俺にふるんだよ。俺の能力でもそんな事――
「――あ」
「何か思いつきましたか!?」
そうだよ、今までどうやって楽して移動して来たんだって話だよ。
「あたし達、今はアクセラのそばにいないってことよね?」
「そうなりますね。つまり?」
そこから瞬時に場所を反転。俺達の景色は表通りから見知らぬ裏通りへと一瞬で変化する。
「どこですかここは!?」
「どこって、アクセラの近く――ほら、あそこ!」
俺が指を指した先、そこにはまるで糸か何かで釣られているかのように一直線に目的地へと向かおうとするアクセラの姿が。
「見つけましたよ!」
「ん? ちょっと待って。静かに後を追いましょ」
「どうしてです?」
どうしてって、どう見てもあの様子は普通じゃないでしょ。まるで何者かに操られているような雰囲気じゃん。
「このまま後をつければ、アクセラを操っているやつが分かるかもしれない」
「なるほど!」
俺と守矢はその可能性に賭けながら、静かにアクセラの後をつけていく。
裏路地から裏路地へ。まるで第十三区画で追っていたことを、再び繰り返しているような気がする。
「ほんと、あの子ってば自分がわざわざ危険な目に会いにいってるって気づいているかな」
愚痴を漏らしながらも後を追っていくと、アクセラはとある寂れた店の前で立ち止まる。アクセラはそこのガラスのショーケースに釘付けの様子で、べったりと両手を張り付けては中に入っている者に興味津々と言った様子。
「あれは……?」
「……おもちゃ屋、ですね」
守矢の声に、少しだけ羨望の色が混ぜられる。それはこの少女もまた、おもちゃというものに憧れを持っているからなのであろうか。
「おもちゃ屋ね……どうしてビジネス街の、しかも裏路地にあるのかしらって話なんだけど」
こんな場所に似合わない、あってはならない場所にあるお店。そんな小さなおもちゃ屋に惹かれるように、アクセラはそのドアを開いた。
「いくよ」
「がってん承知ですぜ!」
そして後を追うようにして、俺達もおもちゃ屋のドアを開く。
「お邪魔しまーす」
「アクセラをたぶらかす悪の巣窟はここでしたか!」
堂々と正面突破。そして華麗にポーズを決めて――って、なんでそうなるの!
「悪党を成敗するには、やっぱりヒーローですぜ!」
「そういうものなのかなぁ」
「貴方達、一体何用ですか?」
俺達が意気込み勇んで入ったのを、冷めた目で見る男がいる。糸目なのかその心境は詳しく推し量れないものの、恐らく冷めた目で見ている。多分。
男はおもちゃ屋として子供を楽しませるためか、店のロゴが入ったエプロンのポケットに飴やちょっとしたおもちゃなどを詰めている。そしてそのうち一個はアクセラの手に渡っているのか、アクセラはグルグルと渦を巻いたキャンディをぺろぺろと舐めていて、そしてこちらが焦って入ってきたことに対して逆に驚いた表情を浮かべている。
「申し訳ありませんが、今日はおもちゃ屋は閉店していまして……」
「そう? だったらどうしてその子に飴をあげているのかな」
「それは、この子が勝手にドアを開けて来たから仕方なく……」
「普通閉店しているならそのままドアを閉めておけばいいのに、どうしてわざわざドアを開けたんですか」
守矢にはそこまで見えていたんだね。俺はてっきりアクセラが勝手に開けたのかと思っていたよ。
「……仕方ありません。ここは一旦退いていただきたいのですが」
「何で引く必要があるのかな。あたしはアクセラをつれてエメリアのところに戻ろうと思っているんだけど」
「それはそれで……まあ、いいでしょう」
男は相変わらず嬉しそうに飴をなめるアクセラを店の奥へと行くよう案内すると、それまで全く見せていなかった敵意――殺意を露わにする。
「少しだけ眠って頂きます」
一体どこに隠していたというのであろうか、男は後ろ手に隠していた右手から巨大な黒い鎌を、左手には真っ黒なハンドガンというには少々生ぬるいと思えるような大口径の拳銃が握られている。
「武器を召喚する能力? それならもっと凄い人が――」
「榊! 気をつけてください!!」
守矢は男が取り出した真っ黒な武器を見るなり警戒心を最大にして距離を取り始める。
「気をつける? そりゃ当たらないようにするけどさ――」
「当たらないように? 違います! 当たったら死にます!」
「だから当たらないように――」
「当たったら即死だと言っているんです!!」
当たったら即死!? もしかして掠っただけでもアウト?
「……それってかなりヤバい感じじゃない? この殺しを禁止された都市だと――」
「違いますよ榊。この男こそ、力帝都市で唯一『殺しを許可された男』なのですから!!」
守矢の口からとんでもない言葉がとびだしたところで、男は不敵に笑い始める。
「フフフ……私の名前は尸劫肆郎」
――以後、生きていればお見知りおきを。