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第十二話 家出娘を引き取ることになりました。

「うーん、やっぱりパンケーキを食べるならここじゃないと♪」

「すっごーい、要ちゃん何でも知っているんだね!」

「何でもじゃないですよ♪」


 スイーツ(笑)。いや笑い事じゃないんですけど。どうしてよりによって榊真琴の時に限って普段は集まらないような無駄にお高いお店に足を運んじゃっているんですかねこのチビッ子は。


「あはは……」


 だが今は、乾いた笑いしか漏らすことしかできない。


「……財布、どれだけ入っていたっけか……」


 俺はそれとなくばれないように財布の中身を確認した。しかし――


「残金、42円だと……!」


 十円玉四枚、一円玉二枚。しめて42円(なり)


「これ、やべぇんじゃねぇの……?」


 今まで支払いは全てSランクのランクカードで済ませてきた俺にとって、今回の事態はまさに想定外。既に俺の計算だと五千円は超えている――って、まだ注文するつもりかよあんたら本当に太るぞ!? 明日の朝体重計に乗った時に泣く羽目になるぞ!?


「もぐもぐ……あっ、そうだった! この人の素性を聞くのを忘れていました!」

「しっかりと覚えているのね……」


 ほっぺたにパンケーキついていますよ守矢さん。そしてその絶妙な可愛いアピール止めてくださいね今は男なんで俺の心が悶絶する可能性があります。

 さて、どうやってこの場を切り抜けようか。下手に嘘をつけば守矢が黙っていないだろうし、かといってここで榊マコの正体は榊真琴でしたなんて言えるわけもない。そして何よりまずいのが、ここの支払いが今の俺には不可能だということ。


「さて、喋ってもらいましょうか! どうしてアクセラの後をつけていたんですか!」

「えっ? アクセラちゃんストーカーされていたんですか!?」

「違うんですけど!?」


 そこだけは即刻否定しておかなければ、面倒なことになる。しかしそれを否定するための材料が、今の俺には備わって――ん? 

 備わっていないなら作ればいいじゃない(マリー・アン○ワネット風)。


「実は、姉貴に言われてアクセラの後をつけておくように言われたんだよ……」

「お姉さん? どういうことですか?」

「……俺の名前は榊真琴。榊マコの双子の弟だ」

「なっ!? なんですってぇー!?」


 ふっふっふ。一人二役、双子作戦を展開するしか方法があるまい。


「つまり、そういうことだ。姉貴は今、能力検査を受けている」

「能力検査って普通遅くても五月ごろで終わるはずだから、この時期には終わっている筈では?」


 ぐっ、そうですよその通りですよ。たまたま俺の担当であるグレゴリオのおっさんが根気強く六月にはいっても能力検定していただけですよ。


「ま、まあSランクだそうだし何か別のもあるのかもしれないよ」

「そう言われたらそうですよね。なんてったってSランクですから特別なことくらいありますよね!」


 いいえ、今のところSランクになってからは金銭面を気にしなくていいこと以外は何も特別な事は起きていません。むしろ面倒事に巻き込まれることが増えたり(自分で首をつっこめるようになったのも原因なんだけど)、ダストとかダストとかダストとかと違う意味で絡まれることが増えました。


「……あっ! ちょっとごめん!」

「どうしました?」

「姉貴から電話がかかってきたから、ちょっと電話を――」

「ここですればいいじゃないですか」

「こ、ここだと何かと迷惑だから、ねっ!」


 俺は半ば無理やり席を立ってトイレへ向かうふりをすると、そのままトイレの入り口近くの物陰で即座に反転、それとない雰囲気で再び席へと戻る。


「やっほー」

「榊!?」

「今弟と反転して場所入れ替わってきたよ。何か用?」

「えっ、ちょっと!? 弟さん能力施設に置いてきぼりですか!?」

「いつものことだし大丈夫大丈夫。さっ、ここの支払いもあたしに任せて、外にでましょ」


 その間一分足らず。早業ともいえる手際の良さで、俺は喫茶店を去っていく。


「ちょっと待ってください! 状況整理が追い付かないんですが!」

「アクセラちゃんも、あのお兄ちゃんともっとお話ししたかったなー」


 お兄ちゃんと呼ばれて心が揺れ動いたが、ここは心を鬼にせねば。


「もう日も傾いちゃってるし、今日のところはこれまでってことで」

「えぇー!」


 いくら文句を言われようが知ったこっちゃない。この場所から離れさえできればそれでいんだから。



          ◆◆◆



 日もとっくに傾き、時刻も夜間ルールが適用される六時に近づこうとしている。こうなると俺はともかくアクセラや守矢は帰るのにも一苦労になってくる。


「さて、アクセラももう師匠のところに帰った方がいいよ。守矢も旧居住区画に――」

「いやです!」

「アクセラちゃんも!」

「えっ?」


 どういうこと?


「どうして? 二人ともそろそろ帰らないと、夜間ルールが――」

「和美姉さんとケンカしたので、帰りたくありません!」

「アクセラちゃんも、師匠とケンカしたもん!」

「えぇー……」


 そんなこと今言われても……というか、何か二人から詰め寄られているような気がするんですけど。期待を込められた目線を向けられても困るんですけど!?


「……あ、あのね、そういうのは早く仲直りした方が――」

「決めました! うちは今日榊の家に泊まります!」

「アクセラちゃんも!」

「ちょっと待った! それは勘弁!」

「どうしてですか!」

「どうしてって言われても……」


 榊真琴くんの方が困っちゃうんですよねー。でもそんなのお構いなしといった様子で、守矢とアクセラは早速寝泊り道具を買うために、帰り道途中のショッピングモールへと足を進め始める。


「早速パジャマを買いに行きますよ!」

「アクセラちゃんも買うー!」

「ちょっと! 誰が出すと思って――」

「もちろん榊ですよ?」


 いや、「何言ってんですか」みたいな顔をするな! そこ二人! 家主に対してもう少し礼儀というものをだな! 待て! 勝手に歩いていかないで! 置いて行かないでくださいよぉ!

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