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第十一話 ストーカーの後ろを更にストーキングする人

「――しまった」


 目を覚ましてから即座に思い出したのは、アクセラのことだった。あのまま師匠の家に置いてきたのはいいが、連絡を取る手立てを持つことを忘れていた。


「……まあいっか」


 場所を忘れたワケでもないし、また同じ場所に行けば多分会えるでしょ。それより今は、学校に行かなければ。


「ラウラ、朝食は?」

「丁度できたところですよ」


 流石に毎回メイド服なのは俺の方も面倒になってきたになったので、最近のラウラは私服でいることが多くなった。私服とはいっても随分と地味なもので、いつかは一緒に服でも買いにいって、もう少しおしゃれをさせてみたいものだけど。


「えぇーっと、私の顔に何かついていましたか?」

「いや、何も」


 俺は朝食のパンをかじりながらテレビで流れる朝のニュースにぼぉーっと耳を傾ける。昨日の今日で流石に都合が良すぎるとは思うが、それでもあの都市伝説に関するニュースの一つや二つでも流れてこないものかと淡い期待を持ってしまう。


「まっ、多分クリアランスレベルに引っかかって流れそうになさそうだけど」


 仮に他人のVPの無差別ハッキングでもそれなりにヤバそうなのに、それが実は別世界に繋がっている話とか到底一般人の耳に入りそうな話とは思えない。


「もう一度向かう必要があるか……」

「何を呟かれているのです?」

「こっちの話だ。ラウラにはまだ話す時じゃない」

「そうですか……私でよければ、いつでも力になります」

「詮索しないんだな」

「真琴さんの成すことなら、正しい事のはずですから」


 本当によくできたメイドさんだと思うぞ俺は。後はロザリオと犬猿の仲じゃなかったらいうこと無いんだけど。

 今後イギリスに行くことがあったら色々と案内してくれるって言って番号くれたのはいいけれど、今のところラウラとロザリオの従者としての意地の張り合いにしか使われていないのはどうなのかと思ってしまうのは俺だけなのか? と、そういう思いがありながらも、俺はラウラに素直に礼を告げる。


「ありがとう、ラウラ」


 とにかく俺のVPが繋げた界世のことを、助けてという言葉を残した世界の向こう側の存在を、どうにかして突き止めなければならない。


「俺の下にそういう言葉が届けられたのも何かの縁、ってか」


 この怪現象を解決することこそが、俺の中にあるもやもやを消し去ることができる一番の道なのは間違いないのだから。



          ◆◆◆



 お昼休みに屋上に行く意味もなくなり、そこそこ楽しかった学校生活もDランクだった時くらい、いやそれ以上に味気なくなくなっている。


「味気ない、か……」


 俺が今食っているパンよりも、味気ない。別にうまいこと言ったつもりはないが。


「……放課後、探してみるか」


 第十三区画にももう一度足を運んでみよう。最悪明日学校を休んでもいい、今はこのもやもやを晴らす方が先だ。


 そう思いながら残りの午後の授業を済ませて、俺は今再び第十三区画へと乗り込むための駅に向かっている。学生服のままだがいちいち家に帰るのも面倒と考えた俺は、そのまま電車に乗ることを考えていた。

 そうして駅の改札口の所まで来たその時だった。


「……ん?」


 あれはアクセラ? 何か呑気に歩いているが大丈夫なのか?


「……ついて行ってみるか」


 断じてストーカーでは無いぞ。断じて。ただ記憶喪失したてにもかかわらず外を出まわっていることが不安で仕方ないからだぞ。


「俺は普通、俺は普通……」


 いやいや、よけになこと呟いた方が不審者だろ! とまあギクシャクしているが俺はアクセラの後をついていくこととなった。

 そしてこの時そんな俺の後を更につけている人物がいることに、俺は全く気付いていない。


「アクセラの後をついていくあの男……事件の臭いがしますぜ!」



          ◆◆◆



「しかしこうして改めてはた目に見ると、随分と痛い行動をする子だよな……」


 本屋に行っててっきり漫画とか買うかと思いきや、児童書コーナーに行くなんて思ってもいなかった。しかも結構真面目に読みこんでいるし。


「まさか記憶が抜けている分精神年齢も抜け落ちているってオチじゃないだろうな……」


 とまあ児童書コーナーの近くで適当な漫画本を立ち読みしつつ、アクセラの普段の生態(?)を調査する。


「どきどき……どきどき……」

「…………」


 今時擬音語を口に出す奴っているのか? 少なくともそんな奴見たのは初めてだぞ。


「しっかし俺も、何やってんだか……」


 ラウラから「真琴さん、これ一度つけてみてください」とか言われてつけてみたら妙に気に入られたこの眼鏡が変装の役に立つ時が来るとは……まあ普段から持ち歩いている俺も大概だが。


「それにしても、随分と――」

「趣味が悪いですね、貴方は」

「えっ? うげっ!?」

「うげっとは、ますますもって怪しい……」


 なんかさっきからチビッ子が周りにいるような気がしてたと思ったら、まさか守矢につけられていたとは。


「いや、だから――」

「言い訳無用! この変態ロリコン野郎め!」

「だから俺は――ハッ!」


 「俺は」ってことは、今の俺は男になっているってことか忘れてた!


「これはマズいな……」

「今更しでかしてしまったことに気づいても遅いですぜ! 神妙にお縄につきなさい!」

「ちょちょちょ、ちょっと待て! 言い訳ぐらいさせてくれ!」

「言い訳無用!」


 守矢がまるで犯人を追いつめる名探偵のごとく俺に向かって指をビシッ! と突きつけた瞬間――


 ――ぐぎゅるるる……。


「…………」


 腹の虫が鳴る音がその場に響き渡る。そしてその音があまりにも大きかったのか、それまで絵本に目を通していたアクセラの視線すらこちらに向いてしまう。


「あっ! この前の人と……貴方はだぁれ?」

「げっ! アクセラに名探偵ごっこがバレてしまいました!」


 ごっこ遊びかよ……そしてそれに過剰反応した俺の一人負けかよ……。てか見知らぬ人にいきなり声をかけるとかこいつも暇なのか……?

 場が混沌とする中、俺は状況整理の為に場所を移すことを提案する。


「あー、えーと、そうだ! とりあえず何か食べながらでもいいから!!」

「えっ? 奢ってくれるんですか?」

「奢りでも何でもいいから、とにかく場所を移そう」

「いいでしょう。アクセラも一緒に来て下さい」

「ほぇ? アクセラちゃんも?」

「アクセラにも関係ある話ですからね」


 関係あるけど関係ないと思う。何故なら俺は今、男だから。

 ということで俺は眼鏡をかけたまま、幼い少女二人にファミレスまで連行されることとなった。


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