第十三話 きっかけ
最近リアルが忙しいせいか今週は更新が少し遅れてしまいます。
「そういえば服一着しか買っていなかった……」
まあ適当な男服を反転させればいいか。できるんだし。
「……これでいっか」
元々が短パンだったからか、反転したあとも絶妙に短いハーフパンツになっている気がする。
「……これ、別に挑発しているわけじゃないんだよね」
昨日こんな感じの服を嫌がっておいて今日着てきたのが似たようなものだなんて、あんまり笑えない。
「まあけど昨日のものは洗濯しないと……」
って、男であるはずの俺の部屋のベランダに女性ものの下着が干してあるなんてまずいよね!?
「……部屋干しにしよう」
そうした方がよさそうに思える。
◆◆◆
「――第八区画ってこの辺で降りればいいのかな……」
力帝都市内で電車を利用するのは初めてだから、路線間違っていたら目も当てられない。
そう呟きながら降りて行った先には、北口に第八区画と書かれた案内板が。
「どうやらここで正解みたい」
それにしても財布とVPだけでここまで来ちゃったけど、大丈夫かな? 俺元々男だから、女の子らしい持ち物とか一切持ってきていないんだけど。
「……何とかなるか」
多分、この姿で実は男ですなんて早々にバレるはずがないな。
「……ないな」
少し不安になりながらも俺は女の子として、榊マコとして俺は――否、あたしは先へと進んでいくしかないのだから。
「――ってこのモノローグまずいから止めておこう」
っと、マップによればそろそろねこやっていうカフェが見えてくるはずなんだが――
「……あれか」
なにあれ。めっちゃ女子力の塊みたいなオシャレなカフェがあるんですけど。俺みたいな虚しい凡人が――って、今の俺は女の子だったの忘れてた。
とりあえず、足を踏み入れるしかない。
「いらっしゃいませー」
普段こんなところに来たことのない俺が、しかも一人でこんなところに来るなんて今まで考えた事も無かった。
「おひとり様ですか?」
「い、いえ。先に待ち合わせている人がいます」
俺はそう言って、店の中へと足を踏み入れる。静かな雰囲気でありつつも、この前のようなあからさまなまでに上品な雰囲気は醸し出していないから、まだ高校生にも入りやすい……のか?
「おっ! マコちゃんこっちこっちー!」
席には既に澄田さん一人が座っており、こちらに向かって手を振っている。
「澄田さん、随分と早くないですか?」
「じ、実はこういうの初めてで……一時間くらい早く来ちゃった」
そういうと澄田さんは満面の笑みをこちらに向け、これからの集まりを楽しみにしている様子を見せる。
確かさんも、澄田さんはあまりこういう事に慣れていない的なことを言っていたっけ。それなら、俺も不慣れになってもあまり不自然なことにならずに済みそう。
そんなこんなで今のところ二人だけだけど、話す話題が無くてしばらくの間沈黙してしまう。
「…………」
「……あの」
「えっ? はいっ」
「榊くん? って元々はDランクだったんだよね?」
「そうですね……俺――あたしは、元々は無能力者だったから……」
元々は一般人だった人間が今やいきなり性転換した挙句世界を動かせるSランク級になるかもと言われているけど、いまいち実感がわかないんだよね……。
「きっかけって?」
「きっかけと言われても……最初に言われた通り、穂村との戦いから逃げていたらいつの間にか女の子に……」
「んー、確かに感情の大きな起伏が私達変異種の能力の最初の発現ってよく言われているよね」
「そういえば澄田さんも能力者ですけど、きっかけはなんですか?」
この時の俺は、少々無神経だったのかもしれない。何故ならこの後すぐに、澄田さんの苦笑いがこちらへと向けられたからだ。
「私は……まあ、気が付いた時からこんな感じかな」
「そうでしたか……」
「あっ、でもでもこれのおかげで結構厄介ごとからは逃げられてきたから、嫌いでもないかな」
その言葉の裏の意味として、今まで澄田さんはどれだけ面倒事に巻き込まれて来たとかという意味も読み取れる。
「……大変だったみたいですね」
「うん……励二が私を負かしてくれなかったら、まだ私は逃げ回っていたのかもしれない」
ん? どういう意味だ?
言葉の意味に首を傾げざるを得なかった俺は更に追求しようと口を開こうとしたが、その瞬間に守矢がやってきてしまったことにより話が中断されてしまった。