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第十話 境界

 栖原と守矢を引き連れて、ひなた荘の敷地へと一歩足を踏み入れる。戦闘不可区域であるはずにもかかわらず、ピリピリとした空気がその場には流れている。一つ間違えれば未曾有の被害を生み出しそうな、まさに火薬庫と言っても過言ではないくらいのアンタッチャブルな場所となりえている。


「えぇと、ここが詩乃さんの家?」

「そうですよ栖原! って、栖原は初めてでしたか」


 澄田さんの件で何か進展があったっていうけど、原因か解決策でも見つけたのかな?


「いつもの大広間に行けばいいのかな」


 俺は大広間へと続くドアを二回ノックし、ドアノブに手をかける。そしてゆっくりとドアを開きながら、中の方へと顔を出す。すると待っていたと言わんばかりに緋山さんが足早に近づいてきてドアを内側から開く。


「第十三区画からにしては随分と早かったな」

「急いで来ましたからね」

「榊が位置の反転を何回も繰り返しましたからね。多分この近辺のゴミ箱とか第十三区画に飛んでいっていますよ」

「おいおい……」


 だってそうした方が早いですし。しかもゴミ箱程度なら別に困らないでしょうし。


「この辺のゴミ箱はどうでもいいだろうに、それより詩乃ちゃんのことの方が大事でしょうが」

「その通りやで。詩乃ちゃんおらんくなったら誰が飯作るねん」


 日向さんのご飯作るって問題は問題じゃなくない? 澄田さんが言無くなるかどうかの瀬戸際なんだと思うんですけど。

 そんな俺と同じ意見を持っていたのがヨハンさん。家賃滞納者でありながら、ここは譲れないとばかりに大家である日向さんに向かって問い詰め始める。


「久須美さんさぁ、詩乃ちゃんと夕ご飯どっちが大事なのさ」

「そら詩乃ちゃんに決まっとるやろ」

「だったら今は飯を作るとかそういう話は二の次でしょ」

「そらそうやけど……なんか、落ち着かんわ……ずずっ、あひゅいっ!?」

「おやおや、日向さんとあろう方が……おっと」

すずめも指を針で刺すとは、人のこと言えんとちゃうんか?」


 罰が当たったとでも言うべきなのか、日向さんは自分が猫舌であることも忘れてお茶を飲んでしまって舌を火傷している。そんな感じで落ち着かないのは誰でも一緒のことであるようで、之喜原先輩ですらもどこかぎこちない。それらの光景を見て俺が感じたのは、ある意味澄田さんこそがこのひなた荘であり、皆にとっての安らぎの場所だったのかもしれないということ。そしてそれが今、失われようとしていることだ。


「言い合いは後にしてもらうとして、澄田さんについて進展があったって聞いているんだけど」

「そうだったな……詩乃の身に怒っている現象についてあの魔人が色々と調べた結果、どうやら詩乃は消滅しているという訳では無いらしい」

「消滅しているワケじゃないって、実際あたし達の記憶と家から消えていっているでしょ」

「ああ、その通りだ。だから正確に言うと、詩乃は別世界に呼び出されていると言った方が正しいらしい。それが俺達のみつけた最初の手がかりだ」


 別世界? それってもしかして――


「……それって、界世ってところじゃないですよね?」

「ッ!? お前、まさか知っているのか!?」


 緋山さんは答える答えないにもかかわらず答えを吐き出させようと、俺の身体をがくがくと揺らし始める。


「界世のことを知っているなら教えてくれ!! 俺達もそこに行けるのか!? 界世とは一体何なんだ!?」

「あ、あたしも知らないですよ! たまたまあたしのVPに都市伝説で噂されている怪電話がかかってきたから、調べていったらそこにたどり着いたくらいで――」

「その都市伝説について教えろ! 今すぐに!」


 緋山さんの事だからとっくに調べていると思ったのに……まさか都市伝説にあるとは思っていなかったのだろうか。


「そんなの、調べたらすぐに出てきますよ。ただ界世についてはイマイチどれも分かっていないような記事ばかりで――」

「チッ! 何とかして向こう側に乗り込む方法とかねぇのか……!」

「乗り込み方分かっていたらあたし達だけでも解決していますよ」

「仮に見つかったとしても一人で勝手に行かせるかよ!」


 緋山さんは右手のひらに小型の砂嵐を発生させながら、まるで自分の決意を再確認するかのように呟く。


「俺には何もねぇ……だからリスクを背負うのは俺一人で十分だ……!」

「あららら、まーた励二君は一人でかっこつけようとしているのか」

「違ぇよおっさん。俺にはもう、詩乃以外は何も残されていないんだ。この命も、とっくの昔に捨てた筈のものだ!」


 いやいや、どれだけ澄田さんに入れ込んでいるのってツッコミたくなったけど、緋山さんの真摯な瞳にはふざけた空気など一切混ざっていない。つまり緋山さんの中には本当に、澄田さん以外は何もないという事だ。


「ところでその肝心の澄田さんは?」

「今は眠っている。ここ最近は、四六時中あの魔人が見張りを続けているおかげか、身体が消えそうになる頻度が収まっている気がする。俺も出来る限り近くにいるつもりだ」


 そうは言ってもいつ消えるか分からない状況は変わることはない。やはり界世についてさらに調べる必要がありそうだ。

 そしてこの日はここまでで各自解散となり、明日からはまた学校も始まる。

 だが学校に来ても、澄田さんの姿はそこには無いのだろう。彼女は今、世界のはざまをさ迷い歩いているのだから。

澄田に関する鬱屈とした展開が続きますが、そろそろアクセラのターンで箸休めとなります(汗)。

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