第七話 エメリア=クレイドル
「アクセラちゃんの声って……もしかして自分の声が聞こえたってこと?」
「分かんない……本当はアクセラちゃんじゃなかったかもしれないけど……女の人が助けてって……」
その時俺の中で、何かが引っ掛かっかかり始めた。
女の人の声……何かが引っ掛かる。何がかがおかしい。俺の勘が、第六感が何かを告げようとしている気がする。
「……その女の人の声って、若かった? それとも少し年を取った感じ?」
「うーん……アクセラちゃんより、少し年上な気がする……」
「だとすれば、あたし達くらい?」
「……分かんない」
「情報が声だけだとどうしようもありませんぜ。しかも聞いているのはアクセラだけみたいですし」
「せめて声を録音とかできていたらなぁ……」
いずれにしても、俺の家の片づけよりも重要な出来事となりそうだ。
「なんか、こういうオカルト関連に強い人とか知り合いにいない?」
「ボクの知り合いにはいませんね……」
「うちも、ダストの連中にはそういうの疎いですから」
栖原も守矢も心当たりはないようだけど……アクセラは元々記憶がないだろうし……。
「もしかしたら、お師匠様なら分かるかも!」
「お師匠様……?」
「うん! アクセラちゃんには、魔法を教えてくれるお師匠様がいるのです!」
魔法か……オカルトの総本山と言っても過言じゃない存在だけど、今回みたいなケースも取り扱ってくれるのかな?
「お師匠様は街中で不思議なことが起きたら教えてくれって言っていたから、今回のことも相談していいかも!」
「で、そのお師匠様は今どこに?」
「うーん……は時々、お師匠様はお家を引越ししちゃうから……」
あー、これは一年前の家にはいないパターンかな。一応行ってみる価値はありそうだけど。
「ちなみに最後に住んでいた場所はどこ?」
「うーん……確かこっち!」
「こっちって……随分とアバウトだね」
アクセラは魔法すら使わずにきょろきょろと辺りを見回し、そして師匠の住む家の方角へと走り始める。正直信用ならないが、それでも今はついていくしかない。
「これで手がかりの一つでもつかめれば御の字なんだけど」
◆◆◆
そんなこんなで俺達が今いるのは第十三区画。ここは他とは雰囲気ががらりと変わって、ヨーロッパの街並みに近いような、地面は石畳でできていて建物はというと西洋風の建物が立ち並んでいる区画になる。
そして何より目立つのが――
「なんで街中に物が浮いているの……」
「えっへへー、凄いでしょ? 家事とかぜーんぶ魔法でやっちゃうから機械とか必要ないんだよっ!」
凄いよある意味。だってある意味皆『能力者』ってことじゃん。物を浮かばせたりできる他にも炎を出したりできるとか、緋山さんの立つ瀬がないのでは? と一瞬思ったけどまぁそれはオルテガと戦った時には分かっていたし、緋山さんならそれを上回るマグマや熔岩を生み出せますし。
「それで、この区画のどこにいるの?」
「うーん、どこだったかなー? 何かアクセラちゃんの知っている町並みとは色々と変わっちゃっているし……」
これは期待が薄そうだ。街並みが変わっているなら、その師匠とやらも移動していてもおかしくはない。
「えーと、ここの路地を曲がって……」
「えぇーと、アクセラちゃん? 一気に怪しい雰囲気になりましたけど」
「大丈夫だよっ! アクセラちゃんがいるもん!」
それが一番不安なんですとは口が裂けても言えない。そしてどこの裏路地もほぼ似たような薄暗い雰囲気で、今にも魔法使い版ダストの連中が飛び出てきそうな気がしなくもない。
そんなこんなで歩いていると、裏路地の一角でほのかな明かりがともされたドアを見つける。
「あっ! もしかして!」
アクセラはとたとたとその明かりが漏れるドアの方へと走り出し、そして俺達もまたその後を追う。
「ちょっと待ってよ!」
「お師匠様ぁー! アクセラちゃんが来ましたよー!」
おいおいおい! それで違っていたらどうするんだっての!
アクセラが明けたドアに俺達も入っていくと、目の前に広がっているのはまさにあの映画で見るような部屋の風景が目の前に広がっている。そこにはロッキングチェアに座ってゆらゆらと揺れながら本を読む一人の女性の姿が。
「なんだい騒々しいねぇ。いちいち言われなくても水晶玉で観えているよ」
「流石はお師匠様! 何でもお見通しなんですね!」
「ああ、もちろんだとも。ただ、後ろの三人がくるとは知らなかったがねぇ」
随分と悠長な口ぶりで喋るこの女性、見た目の特徴としては魔女らしい三角帽子がまず目に入る。そして中身男の俺だからこそいうのもなんだけど……魅了の魔法でもあるのかっていうくらい女性フェロモンムンムン何ですけどこの人。今男に反転したら多分飛びついた揚句に魔法でボッコボコにされる自身があるわ。
「ところで、君達は一体? この場所に何用かね? 私のアクセラが何か迷惑でも?」
迷惑なら記憶喪失した時点で相当かかっているんですけど。
「とりあえず、あたしが訊きたいのは二つ。一つ目はアクセラの記憶喪失について。二つ目は――」
俺はポケットからVPを取り出すと、その謎の番号の着信履歴が残った画面を魔女の方へと向ける。
「都市伝説、異世界からかかってくる電話があたしの端末にかかってきたの。これについて何か知らない?」
「ふむ、来て早々に自己紹介も無くまず要件を話すとは、最近の若者とやらは」
あーはいはい、自己紹介すればいいんでしょ。
「あたしは榊マコ。後ろの二人はあたしの友達。これでいいでしょ? この二つの件について教えてもらえる?」
「まあ落ち着いて座りなさい。せっかちは何の得にもならないよ」
魔女が指をパチンと鳴らすと、何もない空間から椅子が四つ並べられる。俺達はひとまずその椅子に座ると、改めて魔女の方を向きなおす。
「改めてご挨拶をしよう。私の名前はエメリア=クレイドル。しがない魔法使いさ」
自己紹介ついでに人の目の前で暗黒の渦を作り出すのが魔法使い流の挨拶なんですかね……?
「アクセラの件では世話になったな。では、私が知る限りの情報を君たちに与えるとしよう。ただし――」
――聞いた上での責任を、私は一切取らないがな。
先にツッコまれた場合があってはいけないので後書きに書かせてもらいますが、自分の他の作品でもエメリア=クレイドルという人物は出てきますが、全くの別世界の人間であるという設定です。