第六話 都市伝説
「――ぐっ、もはや省略されるレベルかよ、ぐはっ!」
「ねぇ、この人達は何を言っているの?」
気にしなくてもいいです。むしろ気にしたら負け。
という事でさくっと倒しちゃったワケなんだけど……もう少し苦戦しているフリでもできたら家まで上がってくるという意識から逸らすことができたのだろうか。
「さっ! 早く榊の家に向かいましょうよ!」
「そ、そうだね……」
妙に意気込む守矢に引き気味になりながら俺は再び家の方へと向かおうとした。だが完全に倒し切れていなかったダストの一人が、なんとアクセラを人質にとって俺達を脅迫し始める。
「おらぁ! 動いてんじゃねぇよ!!」
「マコお姉ちゃん助けて!」
「言われなくとも――」
「おっと、その謎の力を使おうとした瞬間、こいつの肌が傷つくことになるぜ?」
ダストはぺらっぺらのナイフをぺたぺたとアクセラの顔にくっつけて脅すが、俺には通用しない。
「――交換」
「うわわっ!?」
俺は自身とあのナイフを持ったダストの位置を入れ替える。すると俺のすぐそばにはアクセラがいて、向こうにはナイフを持ったダストが要と栖原によって挟み撃ちにされている。
「ち、ちょっと待て――」
「待つ訳――」
「ないですぜ!」
栖原は蹴りの一発でナイフを弾き飛ばし、がら空きになった胴体に守矢の岩石砲がクリーンヒット。ダストはそのまま道路わきの花壇に叩きつけられてのびてしまった。
「ナイスコンビネーション」
「榊こそ、やるなら事前に言って下さいよ!」
事前に言ったら対策打たれちゃうでしょうに。こういうのは奇襲でやるからこそ役に立つんですよ。
「アクセラ、大丈夫だった?」
「こ、怖かった……」
「もう大丈夫だからね」
俺がそう言ってもよほどに怖かったのか、アクセラは俺の腕をしっかりと抱きよせて握っは小さく震えている。
なんだよ俺もロザリオの事あまり言えなくなってきているんですけど。なにこの子、ものすごい庇護欲に駆られるんですけど。
「もう、大丈夫……?」
「うん。さて、家に行こうか」
「そうですぜ! 一番の目的である榊の家のお片づけをしないといけないんですから!」
もういい加減忘れてもらえないものか。澄田さんのことは忘れちゃいけないけど。
そう思っていた矢先に、俺のVPに着信が入る。画面に映る番号を確認したが、そこには全く見慣れぬ番号が映っている。
「……何これ?」
「どうしたんですか?」
「いや、何か見慣れない番号から電話がかかってきて――」
「あっ! それってもしかして!」
栖原の方は何か心当たりがあるのだろうか、俺の手からVPを取ると、番号を確認し始める。
「……この番号は」
「この番号は?」
「……マコさん、都市伝説って知ってます?」
「その言葉は知っているけど……」
この力帝都市にそんなオカルトが――って、魔法がある時点でオカルトも何もないか。
「で、その番号が都市伝説と関係あるんですか?」
「大アリですよ! なんでもこの番号――」
――別世界からかかっているって話ですから。
「……えっ?」
いやいやいや、そんな気持ち悪い話があってたまるかっての! 単なるいたずら電話でしょ!?
「あたしそういうのは信じないからね! 絶対にありえないから!!」
「でもそんなこと言っていたら魔法もあり得ないですし、能力者なんてそれこそ有り得ないの塊じゃないですか」
「だからってあたしのVPにそんなものかかってこなくていいから!」
「ねぇねぇ、さっきからずっと鳴りっ放しだけどいいの?」
アクセラはずっと鳴りやまない呼び出し音が気になるようで、オレに電話に出るよう促してくる。
「でないの?」
「こんなの放置しておけばいいの!」
それにしても俺と栖原の会話があって、更にアクセラから指摘されるまではずっと鳴らし続けているという事はよほどの根性があるようにも思える。
「だったらアクセラちゃんが代わりにでてあげる!」
「あっ! 勝手にでちゃ――」
「もしもしー? ……あれ? 誰もいませんかー?」
だから言ったじゃないの迷惑電話だって。そんな都市伝説も電話に出て欲しいから流しているだけかもしれないってのに。
そう思っていたのもつかの間、アクセラの表情は急激に怯えと不安を携えたものへと変化していくのを見て、俺は急いでアクセラの手からVPをぶんどって耳にあてる。
「……何これ? 雑音しか聞こえないんだけど?」
「……助けてって」
「え? 何が?」
俺は電話を切ると再びアクセラの方を向きなおし、アクセラが言っていた意味を聞き出そうとする。
「助けてって、どういうこと?」
「電話の向こう側から、聞こえたの……アクセラちゃんが、助けてって言ってた……」
「……どういう意味よ、それ」