第四話 口は災いの素
「……で、榊はどういうお買い物をすればその子がオマケでついてくるんですか?」
おまけでこんなにかわいい子がついてくる商品があるなら、俺がとっくの昔に買い占めています。
という感じで買い物を終えた後にいつも集合しているファミレスに、今回は澄田さんの代わりにアクセラが同席している。
「なんかベンチで一人泣いていたから声を掛けたら、記憶を失う体質の子だってさ」
「うちらはただでさえ詩乃さんのことで頭がいっぱいなのに、これ以上面倒事を持ち込んでどうするんですか!」
「でもそのまま放っておくことできないじゃん」
「それは、そうですけど……」
皆まで言わなくても分かる。アクセラに気を取られた挙句、澄田さんのことを忘れるなどもってのほかだ。
だが俺もそこまでバカじゃないし、それにそのくらいで忘れるほど俺は澄田さんとの関係が浅いと思ったことは無い。
「この子についてはあたし一人で何とかして解決するから、二人は澄田さんのことをお願いしてもいい?」
「別にうちはもとよりそのつもりですけど、栖原はどうするんです?」
「えっ、ボク? ボクは……マコさんみたいに強くないし、ボクも詩乃さんのことだけに集中するよ」
二人が澄田さんのことに集中してくれているから大丈夫――いやいや、そんなことはない! 何を言っているんだ榊マコ!
「ん? 何をパチパチとほっぺた叩いているんです?」
「いや、なんでもないよ! あたしだけの問題だから」
とにかく、いつものように俺はコーヒー……ではなく甘いカフェラテを注文しつつ、遅れたお昼をどうしようか等と思いながらメニューを開き始める。するとアクセラも空腹だったのか、隣でお腹を鳴らしては気恥ずかしそうに顔を赤く染め始める。
「あ……」
「なんだ、お腹空いたんだね。だったら好きなの注文しなよ」
「で、でも、アクセラちゃんはお金を持っていないし……」
記憶はなくとも一般常識は備わっているようで、このようにものを得るにはお金と引き換える必要があることくらいは記憶しているようだ。
「大丈夫だよ。あたしが全部出すから」
「で、でも……」
「大丈夫ですよ、どうせ榊が払う時は全部タダになるんですから」
「無料になるってこと?」
「まあ、そうなるね」
遠まわしに守矢は俺がSランクだということを示唆しているが、アクセラはそんな事など気づくことなく純粋にご飯が食べられることに喜びを示している様子。
「わーい! アクセラちゃんは何でも注文するのです!」
「考えが至極単純で幼稚ですね……子供っぽすぎますぜ」
アクセラとどっこいどっこいなどころか、むしろ自分の方が幼女な人が何を言っているんですかね。
「今何か言いませんでしたか」
「何も」
言ったけど、心の中でしか言っていませんし。
とにかく役割分担ができたところで、俺はアクセラのことについてさらに調べをつけることに。
「記憶を無くしたっていうけどさー、全部って訳じゃないんでしょ? 最近のこととか覚えてないの?」
「うーん……最近は……第一魔導大学付属中学校に通ったよ!」
「学年は?」
「一年生だよっ! まだ学校に入ったばかりで、ピッカピカの新しい鞄で学校に通って――あれ?」
時期的もまだ梅雨の時期である。それが二ヶ月程度でここまで鞄がボロボロになる者だろうか。
「あれ? どうしてアクセラちゃんは二年生の体操服を持っているのかなー?」
「……マジですか」
恐らくこの子、一年間の記憶が丸々無くなっているという最悪のパターンだ。だとすれば、一年前の記憶なんてもともとそこまではっきりしていないだろうし、その前の時期も定期的な記憶喪失によって虫食い状態になっていると考えると――
「――これは、面倒ってレベルじゃないかも」
「アクセラちゃん、もしかして記憶喪失しちゃっているの?」
「ノートに書いてあった通りなら、キレイに一年間消えちゃっているかもね」
「えぇーっ! そんなぁ……」
恐らく一年間、楽しいこともあったのだろう。哀しいこともあったのだろう。だがそれも全て、忘却の彼方に消え去ってしまっている。
そうなると、そこに残っているのは虚しさだけ。虚無だけが残る事になる。
「うぅ……」
「日記帳とかに思い出とか書いていないの? ほら、ここの注意書きにもあるじゃん」
「アクセラちゃんは、三日坊主なのだ……」
ダメだこの子、どうにかしないと。
「今のところどうしようもないな……」
何かラウラの時から連続してどうしようもない子を引き取っているような気がするのは気のせいか?
「アクセラちゃんはどうすればいいの……?」
「それは……とにかく、あたしのとこで引き取るしかないでしょ」
「えぇー、何かこの前のメイドの時から色々と家に招いていますよね。うちらは一切行ったことないのに」
そう言われてみればそうなんだけど……今俺の家に入ったら最後、俺が男であることがバレるか、もしくは俺がヒモ男を連れ込んでいる超絶ビッチだと勘違いされるか。その二択しか残っていない。
「え、えぇっとぉ、家はちょっと――」
「ちょっとならどうしてこの子は入れるんですか!」
「それは、その――」
「もういいじゃないか、その辺にしておこうよ」
これ以上は亀裂が入ると察した栖原は守矢を止めたが、既に守矢側には遺恨が残っていそうな雰囲気。
「……分かりました」
「家ならまた今度呼ぶよ、今日はちょっと片付けがまだ済んでいなくて……」
俺は少し苦し紛れの言い訳を言ったつもりだったがそれは予想外に、というか、予想以上に効いたみたいだ。
「なんだ、そうだったんですか」
守矢は急に態度を軟化させたかと思ったら、逆に更に積極的に俺の家に上がろうとしてきている。
「だったら片づけの手伝いに行きますよ! どうせこの後も駄弁った後解散でしょうし!」
「そうだね、だったらボクも片づけに行こうかな」
いや、行かなくていいから! お願いだからやめて!
「え、えぇっと――」
「言い訳無用! 榊が片づけられない女だったとは、この守矢要が矯正してあげますぜ!」




