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第三話 記憶を無くした少女

「友達と一緒だったの?」

「ううん……」

「お父さんお母さんとはぐれたとか?」

「分からない……」


 分からないって言われても……あーあ、泣かないでってば。こんなの俺が今女の子だからいいものの、男の時に話しかけたら完全に事案として警察に突き出されること間違いなしだろう。

 とりあえず現時点で分かっているのは、この少女の名前がアクセラ=エギルセインということだけで、それ以外は全くと言っていいほど情報が引き出せていない。というよりも、この子自身も何も分かっていないと言った方が正しいのかもしれない。


「このまま置いていくのも気分悪いし……とりあえず館内アナウンス掛けてもらった方がいいのかな……」


 そう考えていると、アクセラは側においていた学校鞄をガサゴソと漁り始め、何やら手帳らしきものを取り出し始める。

 そこには「もし忘れてしまった時のために」とはっきり表紙に書かれており、まさに現状を打破するためとしか思えないものがアクセラの手によって取りだされる。


「それ、ちょっと一緒に見てみよっか」

「うん……」


 書かれていた内容はこうだった。

 貴方の名前はアクセラ=エギルセイン。貴方は三日に一度、最低一時間から最大一年間の記憶を失ってしまう事があります。記憶を失ってしまった時に困ってしまわないように、まずは日記を毎日つける癖をつけましょう。できれば正確な日付も一緒に添付するとなおのことよろしいです。後は親切な人が声をかけてくれることを祈りましょう。大丈夫、貴方ならできるはずです。いざとなった時には、もう一つの「魔法の使い方」についてのメモを読んで、悪い人を追い払って下さい。


「……えぇー……」

「アクセラちゃんは、どうすればいいのかな……」


 どうやらこの書置きからして、親元に帰すとかそういうことは難しそうにも思える。しかしそれにしても、これをかいた人は無責任に思える。こんな幼い少女に注意書きだけ持たせて、この力帝都市に放り出すなんて。


「もし会ったならちょっと問い詰める必要がありそう」


 考え事をする俺を前にして、アクセラはしばらく黙りこくった後に、突然ポツリと一言呟く。


「……お姉ちゃん」

「んんっ!?」


 今、なんと?


「お姉ちゃんの名前は……?」

「お、お姉ちゃんですと……!」


 な、何だその魅惑的なワードは!? お姉ちゃん暴走しそうなんですけど!?


「お姉ちゃんの、名前を教えて!」

「あっ、あたし? あたしは榊マコっていうんだ」

「マコお姉ちゃん! お願い! アクセラちゃんを助けてください!」

「分かった」

「やったぁー!」


 そりゃ即答ですよ。もう、即答するしかありませんから。ええ。


「じゃあ、アクセラちゃんは今からマコお姉ちゃんにお世話になります!」


 お世話しますとも。ラウラも引き取ってきた俺なら、何とかなるはず!


「って、そうだった、忘れかけていた。危ない危ない」


 澄田さんのお見舞いの品を買わなくちゃいけないんだった。そもそも忘れること自体がアウト

なんだから、アクセラがいくら可愛くても澄田さんのことは忘れてはならない。


「ねぇアクセラ、流石にまだお腹とか空いていないよね?」

「アクセラちゃんは、まだお腹は空いていないのです」

「だったらちょっと買い物に付き合ってもらえるかな?」

「うん、分かった! アクセラちゃんもお買い物手伝うね!」


 なんでこんなに素直でいい子が定期的に記憶喪失にならなければならないのか、不思議でならない。澄田さんのことに並行して、こっちの方も調べをつける必要がありそうに思える。


「あー! くま五郎のお人形だー! 可愛いなー!」

「そんな綿ないぞうが飛び出した人形の何処が可愛いんだ……?」


 だがしかし今は澄田さんへのお見舞い品の品定めをしながら、この幼い少女との他愛のない会話を楽しむことにしよう。

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