第二話 問題事を抱えている時に他の問題事につっこんじゃうことありますよね?
澄田さんと緋山さんは、この日も学校に来なかった。無理もない、下手に動かして消えてしまったとあってしまえば、後悔してもし足りない。
幸い澄田さんは意識が完全には無くなっていないようで、時々起き上がっては緋山さんと取り留めのない会話をするらしい。もちろん、その間もずっと手を握りっぱなしのようであるが。
「……こりゃ、一応知らせておいた方がいいのかな」
俺が忘れてもヤバいなら、守矢とか栖原も忘れてしまってはまずいかもしれないし。そう思った俺は、早速二人を集めることにした。
……もちろん、そのまえに緋山さんに許可を貰ってからにしたが。
◆◆◆
「――えぇっ!? 詩乃さんがそんな大変なことに!?」
「そんな……ボクはまだ、詩乃さんと出会ったばかりなのに……」
つまり、栖原が忘れはじめたら俺もまずいってことか。気をつけておこう。
とあるファミレスの一角の席で、俺は二人に全てを話した。もちろん、あくまで澄田さんの容態に関することは一切隠し事をしていない。
……ああ、違った。魔人から霊体の事とかは喋ってはいけないって注意を受けていたっけ。それに関しては俺も伏せたままで話を進めている。
「な、なにかうちらにできることとかないんですか!?」
「ボク達にできることなら、何だってするよ!」
「……そうだね、できるとすれば、澄田さんを忘れないでほしいってことだけかな」
俺が緋山さんに言われたことをそのまま伝えると、それまで大人しかった守矢が想定内だが予想外の行動をとり始める。
「ちょっとそれはどういう事ですか!?」
怒るのは分かる。俺だってそうだった。だからって両手を石塊にして机をバンを叩いた挙句、机を割るのは俺だってびっくりする。
「だ、だからそういう意味じゃなくて――」
「詩乃さんは、詩乃さんはもう治らないってことなんですか!? 答えてください!!」
守矢は必死の形相だった。それこそ、この場にいる誰よりも澄田さんのことを考えていると言っても過言ではないくらいに。
「だ、だから消えるってことはあたしたちの記憶からも消えちゃうってことになっちゃうから、そうならないようにあたし達がしっかり覚えておけば、澄田さんが消えずに済むかもってことで――」
「そうだったんですか。でしたらうちは、絶対に! 忘れませんから!!」
守矢が忘れないのなら大丈夫だろう。俺も絶対に忘れない。
「そうだ、折角集まったんですからお見舞いで何か買いに行きませんか?」
「でも直接は会えないって」
「それでも、お見舞いで何かをあげるべきです! そうしましょう!」
こうして俺と守矢と栖原で、お見舞いの品を買いに街へと繰り出すことになった。
……俺、お見舞いの品とか買ったことないからよく分からないんだけど。フルーツ盛り合わせとか買えばいいのかな?
◆◆◆
「――詩乃さんって今は自宅療養しているんですよね?」
「そうなるね。外に出たりして消えちゃったら元も子もないからってことで」
「でしたら、暇つぶしができる漫画本とかどうでしょうか!」
澄田さんが少女漫画を読むならともかく、守矢が今手に取っているような少年漫画を読むイメージはさらさら無いと思うのだが。
「では、手分けして詩乃さんに渡すものをさがしましょう! うちはこのまま本のところを探していますから!!」
「じゃあ、ボクはタオルとかそういうものを探してみるよ!」
タオル! 確かに意外と使えるものだしイイ線言ってる気がするぞ。
じゃあ一人残った俺はどうしようか……パジャマとか?
「……とにかくモールを歩けば何か思いつくだろう」
そう思いながら最初の一歩を踏み出したところで――
「うえぇぇん、ここどこぉー……?」
……何か、女の子の鳴き声が聞こえるんですけど。
「……無視はできないよね」
俺が声がする方へと歩いていくと、そこにはショッピングモール内に備え付けてあるベンチに一人うずくまる少女の姿が。
「中学生……?」
それにしては随分と背格好が小さくも見えるが、制服からしてどこかの中学校の生徒なのだという事は分かる。
背中付近まで伸びた長い髪に、聞く者に庇護欲を沸かせるような幼い声。だが普通の男が関われば確実に通報案件になりかねない。
「…………」
既に女の子に反転していた俺は、意を決してその少女の前にしゃがみ込んで声をかける。
「どうしたの? 誰かとはぐれちゃったとか?」
少女は小さく首を横に振り、またすぐにしゃくり声をあげて泣き始める。
「……名前は? 自分の名前は分かる?」
「……アクセラ」
アクセラ=エギルセインと名乗る少女。そしてこれがもう一つの悲劇のトリガーになるとは、この時の俺には想像だにできなかったことは、言わなくても分かるだろう。
という事で問題児も登場しました。榊真琴は二つの事件をどう料理していくのでしょうか。