第十二話 女子会のお知らせ?
「ねぇ! 初対面の人にあそこまでする必要ないじゃないの!?」
日も傾き始め、居住区への帰り道は赤く照らされる。そんな中、事情を知らない澄田さんは緋山さんに対して怒りっぱなしだった。
「あぁ? そりゃお前、榊があのクソ野郎にぶん殴られたからだよ」
「えぇっ!? マコちゃんほんとなの!?」
「あ、ええ、まあ……そんな感じです」
本当は男性用トイレで一発喰らったんだけど、今の緋山さんみたいな言い方でしかも今の俺が女の子の状態だと、まるで女の子の時に殴られたみたいになっているんだけど。
「そんな人だったなんて! 励二! もっと殴ってやってよかったのに!!」
「女の子に手を挙げるだなんて……ボクの拳が怒りで震えているよ……今なら踵落としで頭蓋を砕けるような気がする!」
「緋山のやろーにしては随分と手緩くしましたね! うちでしたら1トン石塊の下敷きにしていましたよ!」
随分と最後の方は物騒になった気がするんですけど……まあそれは置いといて。
「じ、実は――」
「おい」
突然緋山さんから顔を寄せられる――ってさっきみたいなことがあってから少しドキドキしている自分がいる。
「反転する能力を隠しておけって言ったはずだよな?」
「あ……」
「どうせ知っているのは詩乃くらいで、後の二人にまで言う必要はない。後で詩乃にだけ本当のことを言えばいい」
「そうですね」
というより早く顔を遠ざけてください。詩乃さんが今度はお怒りといった様子で緋山さんを睨みつけておいでですよ。
「れーいーじー……」
「だから違うっての。下手にここで色々言って、あいつに恨み買われてもマズいから、ここは俺が喧嘩を売ったって事にしておいた方がいいだろ?」
「……またそうやって、励二は背負い込むんだから」
「俺の勝手だ。それに俺の連れに手を出した時点で、俺の喧嘩だ」
「…………」
俺はこの時、あの魔人が言っていたことを思い出す。
緋山励二という男は、一人で何でもやろうとしてしまう男だと。
「……でも、これはあたしの喧嘩でもありますから」
「ん? いやお前が出張る必要はねぇよ。お前はまだ――」
「あたしだって、戦えますよ」
そうだ。反転させれば、なんだってできる。
最強の相手も、最弱にできる……かも?
「……ま、元々はお前の喧嘩だからな。止めはしねぇよ。ただ……困ったら俺を頼ればいい。ただそれだけだ」
いや、どっちかっていうと俺の方がお目付け役負かされている側なんですけど……まあいいけど。
「とにかく、既にVPアドレスは交換しているんだ。いつでもメール送ってこいよ」
「ありがとうございます」
「あっそういえば! ついでだからボクも交換してもらっていいですか?」
「うちも!」
その場の流れで、俺のVP内に栖原茜と守矢要のアドレスが追加される。
「あー! 励二! 私もいいよね!」
「だが、でも――」
「い・い・よ・ね!?」
「……好きにしろ」
そうして俺はとうとう、澄田さんのアドレスまでゲットしてしまった。
そんなこんなでいい雰囲気に触発されたのか、守矢は目を輝かせながらとんでもない提案を始めた。
「ねえねえ、今度からこの四人で女子会しましませんか!?」
「えっ!?」
ちょ、俺男なんですけど!? スイーツ(笑)なトークとかできないんですけど!?
そんな俺の心境を察してか、澄田さんは苦笑いを浮かべつつやんわりと提案を取り下げる方向に動かそうとした。
「要ちゃん、それはちょっと難しいかも……マコちゃんは、まだこの都市に来てから日も浅いし――」
「でしたらなおさらのこと! この都市の観光名所を巡ればいいのです!」
「それいいかも! ボクも賛成です!」
「おお! 男女――じゃなかった、栖原も賛成ですか!」
「おい、今なんて言った?」
じょ、冗談じゃない。そんな事があった日には色々と爆発する可能性すら……出てくるのか?
「……おい榊」
「はい」
再度召集をかけられ、俺はびくびくしながら再び緋山さんと顔を合わせる。
「もし、だ。もし詩乃の裸を見てみることになってみろ……どうなるか分かるよな?」
あのー、緋山さん? 目が笑っていませんが? そんな首元に親指持ってきて首切りサインとかしなくてもいいんですけど!?
「……分かったな?」
「わかり、ました……」
「ならいい……正直言って、詩乃には女友達が少ないというより、要以外は全くと言っていいほど友達自体がいないからな。できれば仲良くしてやってほしい」
え?
「それってどういう意味です?」
「深い意味はない、ただそれだけだ。それと、この事は本人には言うなよ。傷つくからな」
「気をつけときます」
そんなこんなで俺と緋山さんのひそひそ話が終わった所で、丁度向こうも話に決着がついたようだ。
「とりあえず明日朝十時、第八区画のねこやに集合です!」
ねこやと言えば、女子に人気のカフェだっけ?
「うん、そうだね」
「マコちゃんの検査のための研究所からは少し遠いけど、道々いろんなところによれるからいいかもね」
「……だ、そうだ。明日俺は魔人と組手を組まなきゃならねぇから、お前に詩乃を任せるぞ」
何気に重要な任務の気がするけど、何とかなるでしょ。
「じゃあ、明日十時に。またねー!」
そうやってこの場は解散となり、俺の日課として引きこもるはずだった日曜日は、華やかな女子会へと巻き込まれることとなった。