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第二十七話 ラウラ は 人間 を やめてしまった !

「あっはははははッ!」


 やっぱりリロードがいらないって便利だなぁと、一度も休憩することなく圧倒的な殲滅力を見せつけるラウラを見てそう思いました。


「え、えぇーと、取りあえずあたし供給源を止めてくるから……」

「十分お気をつけになられて! 原因を押さえようと自ら犠牲になる――」


 あーあー、もうそういうのいいから。ちゃちゃっと魔法陣消してきますか。


「とりあえず、炎を反転させて……水?」


 一気に消火そして突入。ラウラには外の残党の掃討を任せておくとして、俺は燃えた家屋の奥にあるであろう魔法陣へと向かう。

 しかしその幾手を阻むかのように、一発の弾丸が俺の足元へと放たれる。


「まったく、もう少しこのもてなしに興じようという気持ちはないのか? お前達には」

「別にあんたらのお遊びに付き合うって一言も言ったつもりはないけど?」


 消火した建物の屋上にいる人影の正体とは、スナイパーライフルを担いだセバスの姿だった。


「お遊び? はっ、お遊びねぇ……」


 よく見るとセバスは少し痩せこけているかのような、あのやさぐれた態度とは違う、どちらかといえば生気を失っているといった方が正しいような雰囲気を醸し出している。


「ったく、輸血した血の味が気に入らないからって、わざわざ俺から血を抜き取るなんて極悪非道過ぎでしょうこの一族。本当に、気に入らねぇよなぁ……」

「そんな一族に仕えたあんたの自己責任でしょ」

「自己責任? はっ、お前には売られた側の気持ちが分からねぇだろうよ」


 売られた……? どういう意味なんだ?


「なぁ、ロザリオ。お前なら分かるだろぉ? お互いあの学校で育った仲じゃないかぁ」

「フン……貴様と縁を感じた記憶など、微塵も感じないがな」


 どうやら何か因縁がありそうなご様子で。


「丁度いいや。時間稼ぎついでに語らせてもらおっかなぁ」


 どうでもいいけど早くしないとラウラがゾンビと戯れられるという恍惚感でトランス状態に入っちゃうかもしれないんで手短に済ませてくださいね。


「……俺達従者はヴラド家に仕える前だと名字もない、名前もそれとなく適当に決められる程度の、使用人としては最適な人間だった――」



          ◆◆◆



 ――俺達の通っていた従者養成学校サーヴァントスクールは、そりゃもう刑務所なんて目じゃねぇレベルの厳しさを更に通り越していたな。

 俺達はそこでは適当に割り振られた名前で呼ばれてよ、元の名前なんざ忘れてしまえとでも言われかねないレベルで呼ばれ続けたな。

 それでもってさ、あの施設のシスターとか呼ばれていたババアがまたむかつくくらい厳しいんだよな。「礼儀作法が体に叩き込まれていませんね! こうしてしまえば、身体に刻み込まれるでしょうね!」とかいってよ、しょっちゅう鞭で体罰を受けていたんだよな、俺。


「フン、それは貴様が腑抜けていたからだろう。俺は一度たりと手喰らった事など無いわ」

「そりゃお前が俺より優れていたことは認めるがな、それでも俺なりに頑張っていたんだよ!」


 それで、話はなんだっけか? ……そうだった、寄宿舎暮らしで周りからも苛められて、マジで辛かったんだよなぁ。


「それは貴様がまず姑息な真似をしてエミリアを陥れたのが問題だろう」

「違う! 俺がエミリアを陥れるはずがないだろう!!」

「エミリアって誰……?」

「クラスで一番人気だったメイドだよ! 今はどこか遠くに行って娼婦でもやってるんじゃねぇの!?」


 そうだよ、俺はエミリアを喜ばせようと寮長に内緒でパーティを開こうとしていたんだった。それもエミリアと二人っきりで。途中まではうまく行っていた。細やかなパーティは無事に終わる予定だった。俺がちょっとした用事で外に出て行っている間に、エミリアが一人でワインを飲んでいるところを寮長に見つからなければな!


「寮内ルールで禁止されていた酒を飲ませた時点で、百パーセント貴様のせいではないか」

「うるさい! 俺はあの厳しい空間で少しでも安らぎをと思っていたんだ!!」


 そこからが俺の転落人生の始まりだった。エミリアを退学に追い込んだとして俺はいたるところから物を投げられ、教室では机がなくなり、挙句物陰で直接殴られたこともあった。


「……自業じと――」

「うるさい!」

「しかし貴様はエミリアに罪をかぶせて自分はしらを切っていたのだろう?」

「黙れ!」

「うわー、ガチクズじゃないですか」


 でもそこで学校をやめなかったのが俺としては素晴らしい所。


「いや、どこが?」

「黙れ!」


 それで結局主席とはいかないものの、成績上位で俺はあの学校を卒業することが出来た。


「ちなみに俺が首席だ」

「凄いですね」

「そこ! 余計な事を喋るな!」


 そして学校を卒業していざ従者として雇われるときになり、俺はそこにいる首席を上回るところに雇われた! ……当時はそう思っていた。


「それが本家と分家ってこと?」

「ああ。俺はロレッタお嬢のいるヴラド分家、そしてあいつがヴラド本家に雇われた」

「正直言って、あの時はざまーみろと思ったさ。俺が本家で、お前は分家。俺の方が上回っていると思っていた。だが現実は、違っていた――」


 ――どうやらセバスの昔話はここまでのようだ。セバスはゆっくりと立ち上がると、再び静かにスナイパーライフルを構え始める。


「現実は俺がこき使われて骨身をすりつぶす思いで働き、お前はロレッタとキャーキャー楽しそうに暮らしやがって!!」


 銃口の先は俺でもなければロザリオでもなく、ましてやロレッタでもない。


「どうでもいいが、さっきから俺が召喚したグールで調子に乗ってんじゃねぇ!!」

「くっ、ラウラ!!」

「ッ!?」


 俺の目の前で、凶弾がラウラに襲い掛かる。ラウラの身体は弾丸の発砲音と同時に横に何度も回転しながら宙を舞う。


「ラウラ!?」


 しかし俺が予測していた結末とは違っていた様で、ラウラは右肩を負傷したものの、特に致命的なダメージは受けていない様子。


「良かった……」

「……チッ!!」


 ラウラは俺にも聞こえるレベルで舌打ちをすると、近くにいるグールを全て撃ち殺しつつ俺の下へと近づく。


「マコさん!」

「な、なんでしょうか……?」

「私を反転させてください!」


 ……はい?


「一体どういう意味でしょうか……?」

「私の身体能力を反転させるのです!」

「いやいやいや、ラウラって結構常人離れしているんだよ!? それを反転しちゃったら逆に弱体化しちゃうんじゃ――」

「違います! 今の私は弱い! 弱すぎるのです!!」


 ……えぇー。


「そ、それは無いかなーと思うんだけど……」

「いいえ、銃弾を避けられぬとあっては話になりません!! 今すぐこの脆弱な身体能力を反転させ、そして私にあいつを倒すチャンスを!」

「なんか、どこから突っ込めばいいのやら……」


 そもそもラウラの体が弱いのはラウラの解釈であって、俺の解釈では――ん? 解釈の違い……?


「……なるほどね」


 試す価値はありそう。


「ラウラ」

「はい!」

「もっと近くによって。じゃないとあたしがラウラに触れないから」

「仰せのままに……!」


 ラウラは迫りくるグールの群れを片手のショットガンでいなしつつ、更に俺の下へと近づいてくる。


「はっ! 何を言い出すかと思えば、イカレてんのかお前の従者は!?」

「それは試してみないと分からないんじゃないの!」


 他人の身体能力を反転させるなんてやったことないけど……ラウラの解釈を、俺自身の解釈と考えられれば!!


「やってみようか!!」


 ラウラのな身体能力を反転!


「ハァァ…………ッ!」


 な、なんか反転には成功した手ごたえを感じるけど、ラウラの様子がおかしい――


「っ、ハハハハハッ!」


 そこから先は、更なる一方的な虐殺だった。


「な、なんだよあいつ!? 動きがさっきとは全然違うぞ!?」


 それもそのはず。ラウラの体はもはや残像を伴いかねないほどの素早いスピードでの稼働が可能となり、ただでさえのろまなグールの間近に素早く接近しては体術を繰り出してはトリガーを引き、死体の山を築きあげていく。


「ていうかもはや人間やめているレベルですよね? 某生物災害に出てきそうなレベルの身体能力得ちゃっていますよね?」

「体が軽い! こんなに清々しい想いを感じるのは初めて!」

「クソッ! どうなっているんだ!」


 セバスは必死でスコープ越しにラウラを捕らえようとしたが、すぐにスコープから目を離してしまう。

 それは恐らくこう言う光景が映っていたのであろう。。

 照準を合わせて狙っているはずの自分が、逆にラウラに見つめられ、狙いを定められているという光景を。

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