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第十一話 やられたらやり返す!!

「……ん?」


 あっ、やべっ。ばれた?


「……糞ッ、髪型が中々決まらねぇ……」


 なんだそりゃ。

 もうかれこれ十分近く鏡の前に立っているからなかなか出られないんですけど……。

 そう思いながらため息を小さく漏らした瞬間――


「……おい」


 やっべ! 今度こそばれた!?

 俺は急いで元の男の姿に戻ると、恐るおそると言った感じで個室のドアを開く。

 するとそこには予測通り、男となった俺の方をまっすぐと見る野郎の姿が。


「おい、まさか今までのを聞いていましたーなんて、言う訳ねぇよな?」

「な、何のことでしょうか……俺はお腹痛いからトイレにこもっていただけですけど」

「……なんだ、そうか。ま、てめえみたいなさえないアホ面が、何かを考えているなんてことは有り得ねえか」


 ボロクソ言いますね。俺意外とガラスのハートなんですけど……。


「とにかく今日の俺様はそこそこ気分がいい。今なら――」


 えっ――




「くくくく、はははははははっ!!」


 ――気が付くと俺は、右頬にあざをつけられた状態でトイレの地面に横たわっていた。


「……な、なんでだよ……」


 なんで、俺が殴られなきゃいけないんだよ……訳わかんねぇ。つーかトイレの床って汚いのに、なんで俺こんなに長い時間横たわってんだよ。


「……チクショウ」


 こんな時、反転さえしていれば……。


「……くそう」


 ようやく立つことができたけど、鼻血出てきた……。


「……とりあえず、このまま戻ったらまずいかな」


 俺は持ってきていたティッシュでしばらく鼻を押さえて血を止め、そしてそれからまた見えないところで反転してきてから緋山さん達の前に戻ろうとした。

 すると丁度緋山さんもトイレに用事があったようで、途中すれ違うようにしていたが――


「ん? おい、ちょっと待て」

「はい?」


 あれ? 何かおかしかったかな? ちゃんと反転させているし、服も――


「お前、この痣どうしたんだよ」

「あ……」


 痣は反転しても、そのままなんだ……。


「……誰にやられた?」


 俺は口に出そうとしたが、少し戸惑った。もし言ったことがばれてしまったらと思うと、俺の中のビビり精神が口をつぐませる。

 しかし、目の前にいるSランクの真摯なまなざしが、俺の口を動かした。


「……実は、さっきの奴が――」


 ――俺はそれから正直に、ありのままの出来事を緋山さんに話した。

 あいつが実は表面だけ礼儀正しくて、その実澄田さんを狙っていること。そしてそれを聞いてしまったせいで、俺が殴り倒されたことも。


「そうか……用を足す前に、別の用ができたな」


 そういうと緋山さんは痣のついた俺の頬に手を添えた後、俺の手を引っ張り始める。


「な、何をするんですか?」

「いいから、ちょっとだけついてこい……その前に、顔の痣を反転させるか何かで隠しておけ」

「あぅ……」


 と、取りあえず怪我状態を負傷していることとすると――


「――これで治りました?」

「ああ。綺麗になったぞ」

「っ!?」


 こんなのずるいでしょ……俺男だけど惚れてしまいそうだわ。


「治った事だし、ついてこい」


 俺は緋山さんに腕を引かれるがまま、あのボウリング場へと戻っていく。

 すると既に緋山さんがいないことを察知してか、早速澄田さんを口説こうとするあの野郎の姿が。

 そしてその姿を見るなり、緋山さんはずかずかと歩いていき、そして――


「――おい」

「なんです――がぁっ!?」


 緋山さんが俺がされたことと同じことを、そっくりそのままその男の自慢の顔面に叩きつけた。


「……ゴミが」

 吐き捨てるように一言だけそういうと、緋山さんは呆然とする女性陣の方へと振り向く。

「えっ!? ちょっ!? 励二!? どういうこと!?」

「出るぞ。こんな胸糞悪い野郎の隣にいるなんざ虫唾が走る」

「でも、まだゲーム残って――」

「いいからでるぞ。訳は後で話す」


 ――これが、俺とあいつの最初の確執となったのは言うまでも無かった。

やられたらやり返します。もちろんまだ本人がやり返していないので。

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