第二十三話 エンカウント
「うーん? うーん……」
「そこの男! 大人しく投降しなさい!!」
ロザリオの忠告から数日後の夕方。日も沈み始め、街灯に徐々に明かりがともされる。街は仕事を終えた大人や学校帰りの学生がごった返している。
だが一部の場所だけは、別の意味で人がごった返していた。
「今すぐ武器を捨て、その場から降りてきなさい!!」
「降りる? 俺っちが? ……いやだね。めんどくさい」
男はぴっちりとしたボディースーツに身を包まれ、そして右手に血で真っ赤に染め上げられた槍を持って街灯の上に佇んでいる。
それだけならバトルの末に相手を少し傷つけてしまったのだろうと、この力帝都市ではそこまで注意深く見る者などそう多くはいなかっただろう。しかし街灯につるし上げられている一つの死体が、その場にいる者すべての視線を釘づけにしてしまっている。
「今すぐ降りてきなさい!! さもなくば――」
「さもなくば、何が起きるんだ……?」
周りは全て均衡警備隊の隊員に囲まれ、全ての銃口がたった一人の男に向けられる。普通ならば鎮圧用のゴム弾が装填されているだろうが、今回装填されているのは明らかな殺傷用の鉛玉である。
「血が足りない……上質な血が、強き者の血が足りねぇッ!!」
それだけの武装でもって男に対応される理由は、男が腰かけている街灯につるされている一つの死体であった。
――逆さに吊るされた死体は、男の槍に心臓を貫かれて出血多量で死んだわけでも、男の驚異的な腕力によって撲殺されたわけでもない。
ただひたすらに、乾ききっていた。
血の一滴すら残らない、ミイラのように乾ききっていた。
その場の誰もが、血の滴る槍を持った男のことをこう思った。
――この男は、正真正銘の吸血鬼だと。
「降りてきなさ――あっ! おい君!! 何をするつもりかね!?」
そんな中でわざわざタイマンで前に出てくる時点で、用件なんて決まってるじゃん。
「ねぇ、あんたがロンドミール?」
「あ? 誰だ貴様。何故俺っちの名前を知っている。目的は何だ?」
今日の服装は戦闘向きに動きやすいパーカーと短パン。まあ素足を着られないように注意しないとだけど。
「あたし? あたしは榊マコ。そして――」
――学校帰りにたまたまウザったい奴を見つけたから、潰しに来ただけ。