第二十二話 ロンドミールという男
「――では、全てを話していただきましょうか」
俺の部屋にてコーヒーを一口。そして之喜原先輩はニコリと笑いながら、怪訝そうな目つきで睨むロザリオの方を向いて一言問いかける。
「……この男はできるのか? 榊」
ロザリオは膝の上にロレッタを乗せつつ、それまで之喜原先輩を睨みつけていた目を、今度は俺の方へと向ける。
……まあそう言われるとあんまり信用ならないんだけど、俺の方から之喜原先輩にお願いしたんだし、ここは信用できると言わざるを得ない。
「まあ一応、能力者ですし……」
「しがない人形使いですよ。僕は」
「人形使いか。となると、魔法使い――」
「いえ、これは僕自身の能力です」
之喜原先輩はロザリオの言葉をさえぎってまで、あくまでこれは自分の力だと強い口調で主張する。
「そうか……しかしドールマスターとなれば、色々と応用は効くに違いない」
「そうなんですか?」
「ああ。俺はそうやって教わってきた」
之喜原先輩はロザリオの言葉に対して何の言葉も返さなかったが、話題は今起きている事件についての事情聴取へと移り変わっていく。
「僕の能力はさておき、概要は既に榊君から聞いていますので、後は本家とやらをどうしたいのかを教えていただきたいのです」
「榊、まさか勝手に話したのか?」
「だから一応信頼できますってば」
「一応、という言葉を外した方がより信頼を得られると思いますよ榊君」
それもごもっともで。
というワケでロザリオは改めて事情を説明し、そして手を貸すようにお願いをする。
「力帝都市の事は外部の俺より、お前達の方が知っているだろう。だから――」
「ふむ、いいでしょう。しかしタダで受けるつもりはありません」
やっぱり? 俺からだけでなくロザリオからも依頼料巻き上げる感じ?
「……いくらだ?」
「いくらかと聞かれましても……こちらで決めるよりは提示された方が意見出しやすいかと」
「では、日本円で100万でどうだ?」
「…………」
「…………」
俺と之喜原先輩は顔を見合わせた後、示し合わせたわけでもないのに素早くロザリオに背を向けてひそひそ話を始める。
「ひゃ、百万円をポンと出せるんですか……」
「やはりセレブは違いますね。もう少しタカれそうです」
「止めましょうよ。後で面倒なことになりかねませんってば」
「そうでしょうか?」
「そうですよ」
とりあえず話を終えたところで俺と之喜原先輩は改めてロザリオの方を向き、手を貸すことに同意する。
「依頼料の件は後ほどお話しするとして、この件で我々はどう動けばよろしいでしょうか?」
「ちょ、之喜原先輩――」
「先に依頼料を決めておいて、その後に大変なことに巻き込まれても追加料金を取るのは難しいですよ」
お金にシビアだなこの人は。
とまあ俺の感想は置いておいて、ロザリオの依頼としてはロレッタの護衛及びロザリンデとその取り巻きを全てこの力帝都市から追い出すことを目的とするらしい。
「ここならば能力者が多く、ロレッタお嬢様のような能力者でも奇異の目で見られない。ここでなら、ロレッタお嬢も平穏に暮らせる」
「その言い方ですと、外では相当奇異の目で見られてきたみたいですね。かくいう僕も、人形が動くだなんて呪いだなんだと言われてきましたが」
外でいう超能力者――力帝都市では能力者と呼ばれている者は、基本的に外界ではまともに取り合ってもらえることはほとんどない。テレビで色物として紹介されるか、もしくはそのままその土地で奇人変人として隔離されるか。そのような道しか残されていないらしい。
そういった面では力帝都市というものは能力どころか魔法とかいう胡散臭いものまで許容している、ある意味凄い都市ともいえる。
「とりあえず俺と之喜原先輩は今後も学校でロザリンデを監視、ロザリオはそれ以外のセバスとかが来ないかを警戒するような感じでいいか?」
「…………」
今度はロザリオが腕を組んで黙りこくり、その場で何か考え事を始める。
「セバスはしばらく再起不能だろうが、問題はロンドミールだな……」
「そのロンドミールってそんなにヤバい奴なんですか?」
俺の問いに対して、ロザリオは苦々しい表情でロンドミールについて話し始める。
「ロンドミールはヴラド本家の長男、つまり次代のヴラド家を継ぐはずだった者だ」
「継ぐはずだった?」
だったとはどういう意味か。
「ロンドミールは生来生まれ持った殺人衝動により、地下牢に幽閉されているはずの男だった。だが今回、ロザリンデが外に出した可能性がある」
「それってつまり――」
「この街で猟奇的な、大量殺人事件が起きるという事だ」
……さーて、物騒な話になってきました。