第十九話 中々の宣戦布告ですねこれは
「――とりあえず、行ってきます」
「真琴さん。分かっているとは思いますが、十分気をつけて」
「うん。というより、ラウラの方こそ気をつけて。いざという時は家なんて捨ててもいいから、とにかく逃げるんだ」
「心得ました」
その日から俺も含め、本格的にヴラド家への警戒を強めなくてはならなくなった。
「とはいっても、流石に学校に爆弾しかけるとか――」
そうやって楽観的に学校の校門をくぐろうとした自分がいかに馬鹿だったことか、俺は人の波に逆らって学校へと足を向けていることに気が付くには、少し時間がかかり過ぎていたようだ。
「……なんで学校から火が出てんの?」
しかもあそこって俺の教室じゃなかったっけ? しかも窓際前から五番目、俺の教室内での指定席付近が火元っぽく見えないか?
「榊殿!」
「お、ぶたまんじゅうじゃん」
久々にこのおデブと話をしたような気がする……というか、俺が普段から屋上に呼び出されるのが原因なんだろうけど。
「大丈夫でござるか!?」
「大丈夫も何も、まだ学校に登校して来たばっかりだから状況がつかめねぇよ」
「それもそうでござるな……」
それにしてもよく燃えることで。あーあ、なんか壁が真っ黒になってってるよ。
「……これはちょっと――」
「おやおや、敵さんも相当おまぬけなのでしょうか? 榊君はまだここにいるというのに、もう教室を爆破したみたいで」
「おわっ!? 之喜原先輩!?」
俺の隣からすっと現れたのはあの人形遣い、之喜原涼先輩。
「どうしたんですか!?」
「おや? 僕もこの学校の生徒ですよ? 生徒が登校しにきて何らおかしくはない時間帯とは思いますが?」
そうはいっても後ろからいきなり声を掛けられたりでもしたら誰でも変な質問してしまうと思うんですけど。
「それはそうと、こうなってしまっては恐らく学校は休校になるでしょう。ほら、こう言っている間に連絡がさっそく来ましたよ」
之喜原先輩がVPを取り出すと、そこには既に「休校のお知らせ」というタイトルのメールが届いている。
「これで今日僕達は完全にフリーになりましたね」
「じ、じゃあ俺も家に帰って――」
「おっと、それはあまりよろしくありません」
俺はその場で踵を返そうとしたが、その前に之喜原から肩を握られてしまいその場に足止めを食らう事に。
「こうなってしまったという事は、貴方はすでに敵に狙いを定められたという事。つまりこうなってしまっては家もターゲットにされていてまず間違いないかと」
「だったらなおさら家に帰らないと。家にはラウラも、そして隣の部屋に――」
「あらあらぁ、どーして学校が爆破されちゃっているのかしらぁ?」
俺と之喜原先輩が振り向いた先――そこにはしたり顔でこちらをみつめるヴラド家の娘の姿が。
「……まさか、そっちから出向いて来てくれるとはね」
「あらあらぁ、まさかワタクシに会いたかったぁ? そんな積極的な……ポッ」
「さ、榊殿、この女性の方は――」
「ちょっとぶたまんじゅう君はあっちにいっててもらえるかな」
「は、はい……」
之喜原先輩の妙な凄味でぶたまんじゅうがその場から立ち去っていく……あー、そこまで遠くに行かなくても――やっぱ行っておいた方がいいか。
それはそうと、そんな両手を頬に当てても何の効果もないですよ。俺はもう既にロザリンデの本性を知っているんですから。
「しらばっくれなくてもいいですよ。学校爆破したの、あんたでしょ」
「あらぁ? 別にワタクシはそこまでやるように指示は出していないはずだったけどぉ?」
ロザリンデは可愛らしく首を傾げるが、やっていることは物騒極まりない。
「おや、ではあの爆破事件は貴方ではないと?」
「ええ、もちろん。自分の通う学び舎を爆破する生徒が、一体どこにいるというのです?」「……だとすると――」
もしロザリンデの言う事が本当だとすれば、昨日に言っていた二人のうちのどちらかが――
「――ロンドミール、もしくはセバスチャン……」
「あら、そういえば言っていたわね……ピンポンピンポーン、大当たりよぉ」
「援軍ですか、厄介ですねぇ」
「大丈夫よぉ、すぐに貴方達も仲良くなれると思うわぁ」
いきなり人の教室を爆破する奴となんて、どう考えても仲良くなれそうにはないね。
「うーん、あの適当なやり口からして、セバスがまた手を抜いたのかしらぁ?」
「ゴチャゴチャ言ってないで、あんた達なんて均衡警備隊を突き出して――」
「あらぁ、それは嫌よん☆」
ロザリンデは即座に踵を返してその場から逃げ去ろうとするが、そうは問屋が卸さない。
「ちょ、待て!」
「い・や・よ☆」
くっそ、無駄に足が速いなあいつ! つーかちょっと手間取っただけでかなり距離離されたんですけど!
「之喜原先輩! なんかないんですか!」
「んー、僕の能力ではどうしようも……」
もう! だったら走るしかないじゃないですか!!
「くそ! こうなったら適当なところで――」
いや、ここで下手に相手に手の内を見せるのも愚策なのか?
「ひとまず後を追いましょう。あのまま逃がしておくのもよろしくありませんから」
「はい! おいぶたまんじゅう!」
「俺と之喜原先輩のカバン一旦預けとく! 後で取りに来るから持っていて!」
「えっ、ちょっ! 待ってよ!」
俺は之喜原先輩の分までカバンをぶたまんじゅうに押し付けると、そのままロザリンデの後を追うことにした。