第十七話 理由?
ロザリンデが去ってから、俺は再び街へと繰り出すことにした。もちろん、人前にばれないように反転を終えてからにしている。
俺は今、ロザリンデに引っ張り出された下着から一枚を身に着け、ジーンズに脚を通して少しアバンギャルドな服装をしている。だから、まあ、そのせいか、さっきから妙に不良から絡まれているわけなんだけど。
「いいじゃん、俺達と遊ぼうぜー」
「いや、別に興味ないし……」
「おいおい、すぐに興味が湧くようになるって、ぎゃははっ」
いやならないから絶対。この後ついて行った場合の展開とかその辺の成人向けの本に馬鹿みたいに焼き増しで載っているから。
「ちょっとくらい――」
「……あっ!」
俺が不良の壁の隙間から見つけたのは、これから向かおうとした場所にいるはずの人物。
「ハニー!」
「んぁ? はぁ? 何で榊が?」
「んもう、つれないんだからぁ!」
「げっ! あいつは、もしかして……」
藁にもすがるわけではないが、俺は女の子の身体のまま緋山さんの腕にそれこそすがりつくかのように飛びついた。
「うわっ!! 離れろっての!」
「なになにー? まさか愛人から抱きつかれて照れちゃってる感じー?」
「てめぇこの――」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよっ」
俺がしがみついている右腕をマグマに変えられる前に、俺は急いで緋山さんの耳元で現状を伝えてこの場から脱したいことを告げる。
「あいつらがしつこいんですよ!」
「あぁん? そんなもんお前の能力でさくっと蹴散らせばいいじゃねぇか」
「いやん、そんな物騒なことできる訳無いじゃないですかー。それにあの様子ですとあたしの素性知らないっぽいですし、Sランクと広く知れ渡っている人が一喝した方が簡単じゃないですか」
「本当に都合がいいのなお前」
都合がいいのが女の子ですから。
「ったく…………おい、お前等」
「は、はい!!」
流石に緋山さんのことは知っているのか、さっきまでオレに絡んで来ていた不良たちは声を掛けられるなり背筋を伸ばしてその場に直立不動といった様子である。
「こいつは俺の彼女じゃねぇが、俺の、彼女の! 知り合いだ。手を出すな」
「は、はい! すいませんでした!!」
「ちっ、分かったらとっとと失せろ」
「はい! 失礼しましたぁ!!」
まるで漫画のようにその場から走り去っていくダストの連中。その背中に向かってべーっと舌を出す俺。何か精神的にもだんだん女の子に近づいている気が……気のせいだな。
「ったく……」
「へっへーん! ……それはそうと」
俺がやりたかったのは男同士の気持ち悪いいちゃつきなどではない。
「澄田さん、学校に来ていませんでしたよね?」
俺の言葉を前にして、緋山さんは俺の方を振り返る事もなくその場で静かにオレに問いを投げかける。
「……之喜原からはなんて聞いたんだ」
「それが、特に何も……なんか、容体が安定していないから大変ってことくらいでしか――」
「じゃあその通りだ。俺は何も手伝えないし、詩乃も手伝えない。そして今回は魔人を頼ることも出来ないからな」
「そんなに大変な事なんですか!? だったらあたしも――」
「お前に手伝えることは何もない」
緋山さんは文字通り俺を突き放した後、言葉でも俺をつき放つかのように言い放つ。
「お前はお前のやるべきことをやれ。俺は俺がやるべきことを、俺がやる」
緋山さんの目に宿っているのは、いつもの気だるさでは無かった。
そこにはどこか切羽詰っているかのような焦燥が入り混じったような、あの魔人のような濁り混じった感情だった。
祝百話?&この次の編への複線はり回。かなり多くのことを張っています今回。この編も中盤過ぎてきたので、比較的コミカルに終盤を迎えられると思いますが、次の編はかなり練って書くつもりです。頑張ります。